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宮嶌 裕二(みやじま・ゆうじ)
株式会社モバイルファクトリー 代表取締役 宮嶌裕二。業種 モバイルサービス事業。設立 2001年10月。資本金 4億7276万円(2016年11月1日時点)。売上高 20億7209万円(2016年12月期)。従業員数 87名(2016年12月末)。所在地 東京都品川区東五反田1-24-2 東五反田1丁目ビル8階。電話 03-3447-1181。URL http://www.mobilefactory.jp/
インタビューVCからの買戻しをバネに 創業2年目から16期連続で黒字達成
1.上場制度の見直しで スモールIPOのチャンス
「今日はこれを強く言いたい。僕は『スモールIPO』に大賛成だと」開口一番こう語ったのは、モバイルファクトリーの創業者であり、代表取締役を務める宮嶌裕二氏だ。同社は、宮嶌氏が2001年に創業し、14年後の15年に東京証券取引所マザーズに上場した。
宮嶌氏が賛成だと言った「スモールIPO」とは、いったい何だろう。正確な基準は定かではないが、一部の経営者や投資家の間では「上場時の時価総額が50億円以下のIPO」をそう呼んでいるようだ。ここ数年、長期デフレからの脱却や景気回復に対する期待、円安進行で経済環境が改善したことなどで、IPO企業数が増加する一方、上場時の時価総額は低下傾向にある。
その理由のひとつに、新興株式市場を活性化するため、取引所が上場する際の制度を見直したことがあげられる。例えば、業績が右肩上がりでない場合や収益が黒字化していない場合でも、長期的な成長性が認められれば、IPOができるようになった。
16年のIPO実績を調べてみると、マザーズとジャスダック市場に上場した企業の平均時価総額は89億円で、15年の124億円に比べると35億円も減少している。さらに、上場した86社(名証・TOKYO PRO Market を含む)のうち、上場時の時価総額が50億円未満の企業が20社あり、全体の23%の企業がスモールIPOだったことになる。
もちろん、東証マザーズへの上場基準である「時価総額10億円」を満たしているため、「スモールIPO」などと呼ばれたとしても、公に認められた正真正銘の上場企業である。しかし、「ベンチャーキャピタル(VC)の出口のために上場を急いだとしか思えず、海外企業のようにもっと大きなIPOを目指すべきなのではないか」などの反対意見も散見されているのが現実だ。
ちなみに、米国の新興企業向け株式市場であるNASDAQに上場するには、時価総額で7500万ドル(1ドル=113円換算で、約85億円)が必要であり、日本のベンチャー企業には上場しやすい環境ともいえる。
2.映画「君の名は。」とタイアップ 株式市場で大きな話題に
宮嶌氏は、「VCも慈善事業で投資をしているわけではないので、出口を考えるのは致し方ないことだ」と前置きをしたうえで、「ただし、スモールIPOは、この日本だけに限られたチャンスだ。そのチャンスを、企業は最大限に活かすべきだ」とも話す。その理由について「上場したことで、信頼性が大きく向上し、大企業と取引できるようなった。
しかも、相手から声をかけてくれるようになったから、どこと組むのかを考えるうえで、これまでよりも格段に優位に立てるようになった。実際、事業提携が次々と決まり、上場が、ビジネスをブレイクさせる第二弾ロケットになってくれたと思う。さらに、採用力も強まり、社員もやめにくくなった。成長スピードが増したことを実感しているからだ」と話す。
株式の上場のデメリットとして、株主からの監視がプレッシャーになることが取り上げられることもあるが、宮嶌氏は「デメリットを、大きく上回るメリットを得ることができる」と、上場による効果を絶賛する。モバイルファクトリーは、スマートフォン向けゲームアプリの一種である「位置ゲーム」や、着信メロディなどのモバイルコンテンツを配信している。
「位置ゲーム」とは、GPSなどを介した位置情報を利用し、実際に移動して指定の場所に行くと、その行動がゲームに反映される仕組みになっている。そのゲームを通じてコミュニケーションが深まったり、名産品や観光と連携したりと、活用方法が広がりをみせていることや、位置ゲームのひとつである「ポケモンGO」が世界的な大ヒットしたことで、一段と注目されているジャンルでもある。
また、上場後は、鉄道会社などと組んだ様々な企画を積極的に展開してきた。特に、昨年大ヒットした映画「君の名は。」とタイアップし、劇中に登場する1都2県にある11ヵ所の駅をプレイヤーが巡るキャンペーンを開催、株式市場でも大きな話題になったことは記憶に新しい。
宮嶌氏は、「上場しなかったら、あの話題作とタイアップすることなんて考えられなかった。まさに上場効果だ。日本の企業のほとんどが中小企業で、東証一部を最初から目指せるのは、一部のスーパースター企業しかない。だからこそ、上場しやすい制度をフル活用し、IPO後に大きく成長していけばいい」と話す。
3.上場後に時価総額が3倍に 加速する規模拡大
モバイルファクトリーがIPOした際、上場前に予想されていた時価総額30億円に対し、投資家からの期待が反映され、初値で算出した時価総額は64億円超に膨らんだ。スモールIPOと言われる50億円と、事前の想定時価総額を上回ったものの、同じ年(15年)にマザーズとジャスダック市場に上場した企業の平均時価総額124億円の約半分しかない。
しかし、現在の時価総額は約180億円で、上場時の3倍程度にまで膨らんだ。そこからも、モバイルファクトリーのIPO後の成長スピードが理解できるだろう。宮嶌氏は、「IPOしたことで、M&A(企業の合併や買収)する時にも、株式をお金がわりに使うことができるようになった。スピード感を持った規模拡大も望めるようになったと言える。
IPOしたことによって、連鎖的な効果が続いている」と話す。実は、モバイルファクトリーには、リーマンショックなどの影響で上場を先延ばしした経験がある。「IPOができないのではと判断したVCから、僕自身が個人で株式を買い取った時は、正直、気持ち的にも資金的にもつらかった。そんな時期も含めて、創業2年目から16期連続で黒字だ。それらの経験が僕を経営者として成長させてくれた。だからこそ、多くの経営者にもIPOを目指してもらいたい」
小さく生まれても、その後、大きく成長させられるという自信と覚悟があるなら、安易に資金集めをせず、資金調達する時はもう一度「本当にその資金が必要なのか」をよく考えてほしい。株式市場から資金を集めるという道もあるのだから。上場後から何度か、宮嶌社長の取材をしてきたが、会うたびに経営者としての自信が増しているように思う。今回の清々しい笑顔の先にどんな未来があるのか、ますますこれからが楽しみだ。
インタビューを終えて
宮嶌社長は、上場してまだ株を一株も売却していません。「苦労して起業し、成長させてきたのだから、創業者利益を少しぐらい享受してもいいのではないか」と思う経営者もいるでしょう。
なぜ、宮嶌社長はそうしないのか。それはズバリ、これからの会社の成長を確信しているから。「だって、もったいないでしょう。これからどんどん成長するのに」と宮嶌社長は笑います。
同社のゲームを楽しむ人たちも、同社に投資する人たちも、そして同社で働く人たちも、みんながワクワクし続けられるように努力を惜しまない経営者だと、改めて感じることができました。