Guest Profile
瀬戸 健(せと・たけし)
1978年福岡県生まれ。
2003年4月に健康食品の通信販売を目的として、健康コーポレーション株式会社(現RIZAPグループ株式会社)を設立。
『豆乳クッキーダイエット』『どろあわわ』などの商品がヒットし、06年5月に札幌証券取引所アンビシャス市場に上場。
12年にはパーソナルトレーニングジム『RIZAP(ライザップ)』が誕生。
その後、サービスの多面展開の他、“自己投資産業グローバルNo.1”を目指すための積極的なM&Aを行ない18年3月期のグループ連結売上高は1362億円を達成。
第37回お客様を中心に据えれば 世代やバックグラウンドを超えてひとつになれる
1.集客手法をサイエンスし 通販事業で急成長
実は瀬戸さんのバックグラウンドをよく知らないのですが、ある方から「瀬戸さんは通販会社で成功して、いまはサービス業でも成功しているから凄い」とうかがったことがあります。
ありがとうございます。学生時代には英会話の教材や浄水器の訪問販売、あるいは家庭教師派遣のアポインターなど、いろいろな営業のアルバイトをしていました。24歳で豆乳クッキーダイエットの通販会社を立ち上げて、初年度に年商2400万円、翌年度には8億9000万円に一気に成長させました。設立4年後の2006年に上場したのですが、この年度の年商は100億円で、69億円を広告宣伝費に投入しました。楽天市場の総合売上げランキングで2年連続1位になりました。
ダイエット関連市場を狙う会社はどこも通販を主戦場にしています。その厳しい環境のなかで、なぜ、立ち上げからわずか数年で年商100億円が可能になったのですか。
12年に始めたライザップと同じ方法で、カッコ良くいえばサイエンス(笑)。ライザップのときは新宿駅に問い合わせ先電話番号を変えた数パターンの広告看板を設置し、チラシについても、問い合わせ先の異なるものを5パターンぐらい作りました。それぞれの電話番号から何件の問い合わせが入り、何件、入会につながったのか。さらに、それぞれクリエイティブにかけた費用と合わせて効果を検証しました。
この方法で集客すると1位と最下位との間に軽く3倍の開きが出ます。ライザップには電話番号が100本以上ありますが、全て集客効果を分析しています。豆乳クッキーの販売でも、5パターンぐらいのチラシを作って検証しました。
言われてみれば「そうだよな」と思いますが、どうやってそういう方法に至ったのですか。
同じ商品でも営業担当者によって売上げが5倍も10倍も違う。商品力は商品だけの力ではなく、お客様に伝わる力も含めての力だと思います。チラシ1枚でも、いまは商品のスペックだけでなく、表現力やコミュニケーション力など無形の価値によって差が出てくると思います。
2.理念や思いの共有で サービス品質の均質化を図る
うちはBtoBの営業は得意ですが、BtoCは苦戦しています。BtoBとBtoCでは営業の本質が違うのでしょうか、
営業手法を分析して効果のある手法を拡大していけばよいので、本質は同じだと思います。チラシでもテレビショッピングでもCMでも、科学的に再現性のある手法を拡大すれば成果が出ます。ライザップの場合、これまでに通販事業で蓄積した広告効果のデータがありましたので、新しいチラシを配布したときに、初日の午前中の問い合わせ件数で最終的にどのくらい反応があるかがほぼ読めました。
商材が「モノ」から「サービス」に変わって違う点はありますか。
通販でクッキーを売っていた会社がいきなりサービス業を始めたことで、当初は「物販とサービスは別もの」「絶対に上手くいかない」などと言われました。ただ、当社にとっては必然的な多角化のひとつでした。ライザップに入会される女性には「ライザップにしようか、ブランドバッグを買おうか」と迷っている方が少なくありません。ライザップとブランドバッグはまったく違う商材ですが、お客様にとっては目的を達成するための選択肢なんです。
どちらも、目的は人から認めてもらうことや、自己肯定感を高めることじゃないですか。その無形の価値をどうやって伝えていくか。そこに徹底したデータに基づく高度な表現力やクリエイティブ力をぶつけてきたんです。
なるほど。ゴルフ教室や英会話教室も同じように自己実現の手段としてマーケティングしているわけですね。
そうです。ただ、ダイエットにしても英会話にしても、やり方がわかっても続けていけなければ三日坊主に終わってしまいます。そこで、我々は“やり切るためのソリューション”を提供しているのです。
トレーナーは相当な人数だと思うのですが、サービス品質の均質化が難しいじゃないですか。どんなことを一番心がけているんですか。
「『人は変われる。』を証明する」という当社の理念の研修を徹底的に行なっています。理念とは原理原則であり、理念がなく理屈から入っていたら、ライザップは瞬間的に破綻していたと思います。トレーナーは個性豊かなメンバーがそろっていますが、「『人は変われる』を証明する」という理念が浸透しているからこそ、ここまで発展できたのだと思います。
ライザップではゴール設定をしてから手段を選び、トレーナーはゴールに到達するまでお客様に寄り添います。全トレーナーのメールや、お客様と話す内容も分析していますが、結果を出しているトレーナーはお客様と向き合う姿勢が強い。これは理屈ではなく“想い”です。お客様自身で分かっているけれど、やり切れないことをサポートしているわけです。
3.M&A実績は50社以上 お客様中心の考え方を徹底し、 業績改善
M&Aについても伺いたいのですが、これまでに何社ぐらい買収しましたか。
社以上の企業にグループ入りしてもらいました。いまでも毎月約10社のデューデリジェンスを行なっています。
そんなにですか!それだけの数を、どうやって一体化させているのですか。
一体化の順番は、ます、その会社がやるべきことで、やれていなかったことをやる。次にやるべきでないのに止められなかったことを止める。ヒアリングすると皆答えを持っていますが、しがらみや習慣などがあって、分かっていてもできなかったことが多いのです。
企業ごとに分析し、ヒト、モノ、カネを集中させるべき事業に配置すれば、業績は改善します。1社1社を強くしてこそ、全体が魅力的になるのです。
現在グループで70社を超えました。社員の平均年齢が20代の会社があれば、60代というところもあります。価値観もバックグラウンドも違う人たちをまとめるには、理屈だけではうまくいきません。お客様を中心に据えて、お客様との向き合い方でまとめると、ビックリするぐらいまとまります。お客様中心という考え方に反対する人は誰もいませんから。
普通は社内に求心力を働かせようとしますが、遠心力を利かせているわけですね。今日は貴重なお話を聞かせていただきました。ありがとうございました。