Guest Profile
堀 主知ロバート(ほり・かずともロバート)
1965年、米国ワシントンDCに生まれ、4歳で日本に帰国。89年、関西学院大学法学部卒業。同年、英国ロンドンに留学し、マーケティングと福祉ビジネスを学ぶ。94年、株式会社パラダイスウェブを設立。98年、株式会社サイバードを設立し、モバイルインターネットビジネスに参入。2002年、米国『TIME』誌において「世界のビジネスに影響を与えた15人」に、『Business Week』誌アジア版では「The Star Of Asia25」に選ばれた。また、05年には世界経済フォーラムより「若き国際的指導者」に選出された。
第11回流行り廃りがめまぐるしいモバイル業界で、絶頂期とどん底を体験
1.ITで儲ける仕組みIモードのコンテンツでスピード上場を達成
堀さんはサイバードを起業される前は何をしていたんですか? 会社員?
いや、僕はサラリーマン経験ゼロ。大学卒業後は、アメリカでファミコンのソフトを作って売るという仕事を始めたんですよ。そこで企画したのが、実際に100万ドルをどこかに埋めておいて、ゲームを一番先に攻略した人にその宝の地図をあげるというゲーム。プログラマーは集まったんだけど、資金が1億円くらいしか集まらなかった。それでその会社は畳んで、おもちゃ屋をやったり、競走馬の栄養剤をドイツから輸入する会社を立ち上げたり……。
いろいろやってますね(笑)。
そう(笑)。それで1994年にITと出会ったんです。「これは社会を変えるな」と。でも事業化するには、ITで情報を提供する側に収益が上がる仕組みを一から作らなきゃいけなかった。
それがiモードですね。
はい。まだモバイルインターネット自体ができる前ですから「iモード的なことをやりませんか」って通信業者さんに提案するところから始まったんですよ。
そうでしたか。僕のなかでは、波情報サービスで急成長っていう印象が強かったんです。どうして波情報だったんですか?
当時、ダイヤルQ2とか音声サービス、FAXサービスとかあったでしょ。その売上げを調べたら、1位が占い、2位が波情報だったんですよ。
データがあったんですね。
そう。FAXサービスより、iモードのほうが絶対便利でしょ。「勝つ」と思いました。
それで上場しちゃいましたもんね、早かったですよね。狙ってたんですか?
もちろん、狙ってました。起業から2年3ヵ月。まず上場して、コンテンツを100個、200個と作れる地盤を作ろうと思ったんです。マーケットはありますから、売上げは絶対に後からついてくると。
2.新作ゲームに込められたサイバードが目指す新たな方向性
なるほど。それで、07年にはMBOをしましたよね。あれはどんな意図があったんですか?
ITがオープン化したことで、パソコンの人たちがモバイル業界に参入してきたりと、業界の不透明感が濃くなったんですよ。マーケットクラッシュがあるかもしれないし、自分たちだけのリスクでやっていこうと思ったのが一つ。でも一番大きいのは、僕らの方向性を冷静に見つめた結果ということかな。
というと?
上場とか資本主義的な方向とは違う価値を見ているんですよ。利益だけじゃなく、「みんなをハッピーにしたい」っていう。サービスを作るときも「こうしたほうがお客さんがワクワクするよね。楽しいよね」という愛情を大事にしたい。この春、リリース予定の新作ゲーム『NAZO』はまさにそれなんです。
ゲームを一番に攻略した人に「人生を変えるかもしれない宝」が贈られるんでしたっけ? あれ? 今日、最初に話に出てきた企画ですか?
そうなんです。スマホだと世界共通、みんなで遊べる。「いまだ!」と。こうやって世界中の人たちがワクワクすることを提供する会社でありたいんですよね。単に儲けたいだけだったら、こんなことしてません。もしかしたら、この国にもいないかもしれない。でもこの国でこういうことをやっているのには、儲け以外のものがあるからなんですよね。
それが「みんなをハッピーにしたい」ということ。
3.どん底を経験し、「変化する」意識が社員全員に浸透
そうですね、喜びは分け合える人が多いほど大きくなるものでしょう。ナイーブに聞こえるかもしれないけど、そういうものを実現したいんですよね。一方で、社員を養う以上は厳しいことをする覚悟もありますけど。
それはたとえば?
この業界は変化が激しいから、それに適応して、どんどん変化や進化していける人間でないとついてこられないんですね。そこで1年半前ですけど、「僕は社員は全員、家族やと思っているけど、だからといって、変化に乗り遅れて、全員一緒に死ぬわけにもいかない。申し訳ないが、1年後に変われていないヤツは置いていく」と宣言しましたね。
厳しいですね。社員の反応はどうでした?
「変化する」という意識がすごく浸透しました。僕は「これができる」という独立の力を持った人と一緒に仕事がしたい。いま、そういう人を採用しているんですよ。
面白いですね! 僕ね、会社として数字ばかり追い求めるのも嫌だし、かといって情とか楽しさばかりでもダメでしょう。そのバランスを日々考えているんですけど、サイバードはまさにいいバランスですよね。今日はありがとうございました!