Guest Profile
大里 洋吉(おおさと・ようきち)
1946年青森県生まれ。立教大学文学部英米文学科卒業後、69年株式会社渡辺プロダクション入社。キャンディーズなどのマネージメントを手がける。78年10月株式会社アミューズ設立、代表取締役社長に就任。81年代表取締役会長。サザンオールスターズほか数々のアーティストのマネージメント、スター作りのプロフェッショナルとして、アミューズグループを牽引。最近では、13年4月にミュージカル専用劇場「アミューズ・ミュージカルシアター」をオープン。
第10回夢を届け続けるのがエンタメの仕事。ときには「採算度外視でもやるべきことがある!」
1.成功のポイントは重要な経営資源のアーティストが辞めない!
芸能界の仕組みって全然わからないんですが、数多くある芸能プロダクションのなかでアミューズがここまで大きくなれた成功のポイントって何でしょうか?
よく言われるのは、最も重要な経営資源である所属アーティストが辞めないってことですね。別に脅したりすかしたりしているわけじゃないんですが、本当に長い間所属してくれているアーティストが多いです。たとえば今年活動を再開したサザンオールスターズ。彼らは35周年なんですよ。メンバーの病気があったり、いろいろありましたけど、ずっと当社の所属なんです。
それって一番重要ですよね。でも、タレントやアーティストって、独立とか、事務所の移籍の問題でもめるってイメージがあります。アミューズでは、なぜ、そうならないんでしょう?
アミューズには、アットホームな、学生気分で楽しいことがやれる、安心してハメをはずせるみたいなところがあるからじゃないでしょうか? もちろん途中であきらめて辞めていったアーティストはそれこそたくさんいます。ですが、売れてから独立するために辞めたというケースはほとんどないんです。
アーティストの発掘というのはどうされてるんですか?
だいたいはオーディションですね。レコード会社からの売り込みも多い。マネージメント業務をやっていないレコード会社が多いので、レコード会社に才能のある子の音楽テープなどが届くと、パートナーとしてわれわれのところにマネージメントの仕事が回ってきたりします。
2.シリアスも、笑いも、あらゆる面を表現できるから、サザンは飽きられない
いまのサザンオールスターズのイメージってアーティストっぽいじゃないですか。いまでもよく覚えているんですけど、デビュー当時はコミックバンドっていう感じでしたよね。
いやいや、いまでも恥ずかしいくらいコミックやってますよ。
そういえば『勝手にシンドバッド』はパロディっぽくて。
あの曲は完全なパロディですよ。でも、3枚目にバラードで『いとしのエリー』を出した。サザンオールスターズはすごいシリアスだったり、ロマンティックだったり、笑いが取れたり、社会的であったり、政治的であったり、ときにはスケベだし、あらゆる面を出しているから飽きられない。だから、35年もやってこれたんだと思います。
ところで、アミューズも創立35周年ですよね?
そうです。以前は社員旅行で夜通し騒いだり、はちゃめちゃなこともやっていましたが、最近は社員も増えて(アミューズグループの従業員数255人)、その当時の空気感を知っている人間もほんの一握りになってしまいました。アットホームでワクワクするような雰囲気を維持するのは大変です。
3.エンタメのコンテンツで世界を制するそれが海外展開の狙い
上場会社ですから、それには仕方がない面もありますよね。その場が楽しければいいってもんでもないし、上場会社だから許されないことも多い。事業として関わっていくことについては、予算をしっかり立てて株主に説明しなきゃいけない。なんだかんだいっても、上場会社というのは数字の世界じゃないですか。だから、僕の場合、上場後はお金を使うのを牽制するようになりました。上場前は、税金を払うくらいなら使ったほうがいいというノリだったんですが、いまは株価が下がるのは困るなと。
株主さんには叱られるかもしれないけど、利益を出して配当で還元することも大切ですが、それだけやっていればいいというものじゃないと思うんですよね。アミューズはエンターテインメントを提供する会社なんだから、利益よりも重視しなければならないものがある。世の中に夢を届けることが仕事なんですから、ときにはあまり利益がでなかったり、赤字になるかもしれないようなときでも採算度外視でやらなきゃいけない事業もあると思うんです。
芸能界っていうと、ものすごい競争社会だと思うんですけど、そのなかでアミューズは勝ち抜けた。その原動力は、いまも会長自身がふりまいているような、空気作りにあるのかなって思ったんですけど……。
勝ち負けでいうと、まだまだです。日本のエンタメのコンテンツは、アニメでさえも世界を制覇したことがない。それを僕らが頑張ってやらなくてはいけないと思っています。日本の素晴らしい音楽や映画やアニメ、マンガ文化などをもっとはっきりした形で世界に根づかせる。近年アミューズが積極的に行なっているアジア展開は、その目標達成のための布石です。世界で戦って勝つことに、アミューズはいま、全精力を傾けています。
うちもアジアに進出しました。アミューズさんに負けないように頑張ります。今日はどうもありがとうございました。