Guest Profile
鈴木 徹司(すずき・てつじ)
名古屋大学卒業。安田火災海上保険株式会社(現:株式会社損害保険ジャパン)に3年間勤務した後、保険代理店および経営コンサルティング会社を設立。2001年行政書士登録。その後コンサルティング業務の会社設立部門としてサポート行政書士事務所を設立。08年サポート行政書士法人を設立し、東京(2)、横浜、名古屋、大阪5拠点で展開。スピード対応をモットーとし、幅広い業務を取り扱っている。
特集3分の2が女性、3分の1が外国人という企業が目指す未来型組織
1.女性が安心して働ける会社として評価された理由
新宿モノリスビルの新宿オフィス(本社)のほか、大手町、横浜、名古屋、大阪に事務所を構えるサポート行政書士法人は、前期売上げ約1億5000万円、今期約2億円を見込む。行政書士法人としては、大手といえよう。
業務は多岐にわたるが、その二本柱は、ビジネスの許認可およびビザ・帰化関係。いずれも、実績がものをいい、かつ専門性を問われる仕事だ。
スタッフは30名で、うち20名が女性だ。また、外国人スタッフ10名中7名が女性。あえて女性を採ろうとしているのではないが、優秀な女性が自然に集まってくるのだという。とはいえ、その制度、社風にも優秀な女性をひきつける理由があるようだ。
たとえば、出産休暇・育児休暇に関しても同法人は制度的にたいへん充実している。しかし、制度そのものより、むしろ制度の背景にある精神にこそ真面目さが発揮されているようだ。
同法人代表の鈴木徹司は言う。
「制度があるから権利を主張するということになってはだめだと思うんです。制度だけで押していくと、どうしてもぎりぎりまで利用しようということで終わってしまう。それより、〝おたがいさま〟の考え方がとても大事なんです」
〝おたがいさま〟とは何か。
「例えば現在、育休をとっている30代の女性が2人いるんですが、彼女たちは〝支えてくれている人がいるからできるんだ〟というはっきりとした意識をもっています。一方、ほかの社員たちには、その人たちを支えていこうというしっかりした自覚があります。実際、彼女らが休んでいる分、若手に負担がかかりますが、文句も言わずに支えて働いている社員には、社長賞で報いています」
また、〝おたがいさま〟同様に大事なのが、〝ありがとうの気持ち〟。中長期的に見ると、これがあってこそ、支えるモチベーションになるという。
育休以外に、育児支援制度もあるが、これにしても、杓子定規に決められているわけではない、その人その人の事情等に応じて、たとえば、当分10時〜15時の半日分でやっていこうなどと、個々に話し合いで決めていくのだという。
こうした日常的な取り組みを評価されて、同法人は、昨年、経済産業省監修による『ホワイト企業 女性が本当に安心して働ける会社』(文藝春秋刊)の「優良25社」の一つとして取り上げられた。そこでは、女性の強みが活かせる事業内容に加え、ユニークな人事評価を取り入れていること、妊娠中の女性は30分遅れで出社できること、有給なども届出制で取りやすいこと、19時以降の残業禁止ルールがあることなどが紹介され、「女性顧客への、〝共感コンサルティング〟が評判」として、同法人の女性行政書士がインタビューに答えている。
こうした女性の育児等に対する理解は、鈴木が自らの子どもができたときの体験に根ざしているという。当時、妻は里帰りせずに出産、子どもが病気になったり妻がストレスを感じたりで、母親が一人で子どもを育てることがいかに大変かを身をもって知った。もちろん出産後の家事をかなりの部分負担し、育児にも協力した。
「その結果、自分が力になれたこともうれしかったし、妻からの評価も上がり後々まで感謝された」(鈴木)という。これを社員に対しても活かしたい、その思いがいまにつながっているのだ。
2.「オールスター経営」と「オープンな社風」を社内に根付かせる
「ワークライフバランスはすぐには定着しない」とも鈴木は言う。
「急に理想的な会社を作ろうと舵をとってもだめ。中長期で考え、しぶとくやらないと。しかもトップダウンでやるのはむずかしいですね。みんなが理解し、むしろ社風として定着して初めてうまくいく」
たとえば、19時以降の残業禁止ルール「リミット7」にしても、それが人事評価指標にもなることもあって、徐々に浸透していったという。
「7時になったら電気を消すでは、無理。業績ががくんと落ちるだけです。リミット7に限らず、社風になってしまえば、好循環を作れるようになるんです」
そうした努力と実績が評価され、同法人は、今年、東京ワークライフバランス認定企業(「長時間労働削減取組部門」)に選定された。
また、昨年は、経済産業省によって「ダイバーシティー経営企業100選」にも選定されている。これは、「女性、外国人、高齢者、障がい者等を含め、多様な人材を活用して、イノベーションの創出、生産性向上等の成果を上げている企業」を表彰するもの。昨年度受賞の43社をはじめとし、3年程度をかけて100社を選出するプロジェクトである。
同社は業務上、外国人の不安を取り除き、気持ちを理解するうえで外国人を活用し、女性へのコンサルを微妙な問題にまで踏み込んで行なえるよう、女性を有効に活用していることが正しく評価された。
「名だたる大企業に伍して選定されたことは大変大きな意義」(鈴木)だといえよう。
理想の企業を目指して経営者として鈴木代表が強く意識し努めているのは、「オールスター経営」と「オープンな社風」。「オールスター経営」については、「手足をつくるな、エースをつくれ」を合い言葉に、社員それぞれが個性にあった専門分野をもって仕事に当たることを実践している。「オープンな社風」に関しては、外に対して、社員のありのままの情報を開示し、内に対しては、業績だけでなく会社への貢献度についての社員間評価を生かすことを積極的に行なっている。
「女性と外国人は、うまく力を引き出せば期待以上の働きをしてくれます。女性と外国人が、ウチ以外のさまざまな企業でも重要な役割をはたすことでしょう」
鈴木の言葉は、世の中の変化を的確に言い当てている意味で正鵠を射ている。こうした会社が普通の会社になっていくことこそ日本の企業に変化が訪れるときかもしれない。