株式会社大地を守る会 藤田和芳

Guest Profile

藤田和芳(ふじた・かずよし)

1947年岩手県生まれ。75年に有機農業普及のためのNGO「大地を守る会」を立ち上げる。77年には株式会社化し有機野菜の販売を手掛ける。現在、同社代表取締役社長、ソーシャルビジネス・ネットワーク代表理事などを兼務。著書に『有機農業で世界を変える』(工作舎)ほかがある。 株式会社大地を守る会 業 種●有機食材の宅配、インターネットによる有機食材の販売ほか 設 立●1977年11月 資本金●3億4742万5000円 売上高●132億1400万円(2013年3月期) 所在地●千葉県千葉市美浜区中瀬1-3 幕張テクノガーデンD棟21階 電話番号●043-213-5511 URL●http://www.daichi.or.jp/

特集有機栽培農家と力を合わせ消費者に安全でおいしい食を届けたい

1.小説『複合汚染』で食への意識に大きな変化が

 いまでこそ普通だが、40年前はあまりメジャーではなかった有機野菜。その普及運動にいち早く乗り出し、「有機食材宅配事業」を成功させたのが、株式会社大地を守る会の藤田和芳社長だ。
 当時、農村では機械化が進み、農薬や化学肥料が大量に使われるようになり、生産量は飛躍的に伸びていた。一方で、有吉佐和子のベストセラー小説『複合汚染』が話題を呼んだこともあり、消費者のなかには「安全な農産物を食べたい」という需要が徐々に高まり始めていた。
「そんなとき、農薬の健康への悪影響を危惧し、有機栽培の普及を訴えていた、高倉熙景(ひろかげ)医師と出会ったんですね。毎週農村に行き、農家の人たちの話を聞いていて気づいたのは、彼らは『買ってくれるのなら、有機栽培に取り組む気持ちはある』ということ。そこで私が販売先を探すことにしたんです」
 ところが、どこに行っても断られるばかり。それならと思いついたのが、自分たちの手で売ることだった。都内の団地の中庭を借りて農家の人たちと「青空市場」を始めた。これがすごく評判になり、いろいろな場所で開催するようになった。やがて予約注文を取るようになり、注文する人の増加に合わせて登録制に切り替え、いまのビジネスモデルの基礎ができあがっていったのだ。
 有機栽培の生産技術、物流(大量輸送の時代、宅配は画期的な出来事だった)、消費者の食文化――この3つのイノベーションが成り立ったとき、同社のビジネスは未来に向かって力強く動き始めたという。

2.安心・安全な食材ファンはいまや約20万人!

 現在は、カタログを会員に毎週配布して受注した商品を届ける宅配事業を、首都圏(1都3県)を中心に展開。会員数は着実に伸び続け、約9万7000人まで拡大している。このほか、全国に商品を発送する「ウェブストア」も開設。こちらの利用者数も約9万7000人に上り、安心・安全な食材のファンは合計20万人近くにも及んでいる。
 こうした多くの顧客を支える生産者会員数は約2500軒だ。最近は競合企業の成長も著しいが、どのように差別化を図っているのだろうか。
「もともと市民運動から始まっているので、会員の皆様とのきずなは強いですね。現在も遺伝子組み換え食品いらないキャンペーン、原発とめよう会、100万人のキャンドルナイトなど、さまざまな社会的活動を積極的にやっています。こうした運動に共感してくださる方がコア会員になっていることが強みの一つです」
 生産者と消費者が交流する産地訪問も設立の頃から盛んに行なっている。毎年、ジャガイモ掘りやトウモロコシ狩りなどのイベントを100回以上催すが、毎回、希望者が多くて抽選になるくらいの大人気だ。
 もちろん、安心・安全を担保する品質管理も厳格に行なわれている。ホームページでは、商品ごとに独自に定めた厳しい生産基準を「あんしんの約束」として掲載。また、「『誰がどこでどのようにして作ったか』がわかるトレーサビリティの充実度はおそらく日本一でしょう。ある畑である年に何が作られたか、豚のエサは何かなどがすべて記録してあります」という。
 そして、藤田社長が誇らしげに語った最大の強みはズバリ、「おいしい」こと。いくら安心・安全でも、おいしくなければ消費者はすぐに離れていくのだ。

3.ローソンと二人三脚で日本の農業を守る!

 同社は13年3月、ローソンと業務・資本提携を結んだ。そこにはどんな狙いがあるのか。
「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)によって安い輸入農産物が大量に販売されるようになれば、間違いなく農家は大打撃を被ることになります。それでも農産物の販路を拡大し、新たな消費者を開拓できれば、ダメージを抑えることができるでしょう。当社にはない販売網と販売力を持つローソンと組んだのは、そのためです」
 だが、農家は当然、TPPに反対の立場、それに対してローソンの新浪会長は賛成を表明しているため、当初は反対意見も多かったという。
「私たちが築いてきた事業だけでは、輸入農産物の勢力にとても対抗できない。ローソンの店舗は全国に1万1000店舗ありますが、これを八百屋に換えようと説得しました。仮に1kgのお米を各店舗が1日に1袋売るだけでも、毎日11t売れることになる。ローソンは優れた販売力を持っていますから、農家にとって大きな支援になるはずです」
 現在は、健康志向の商品を取り扱う「ナチュラルローソン」のほか、ローソンとヤフーが共同運営する宅配サービス「スマートキッチン」で、同社の有機野菜などを販売する。ナチュラルローソンは今後5年で3000店に増やす計画があり、取扱量も今後大きく増えそうだ。
 さらに、ローソンの物流センターを活用し、地元の農産物を中心に品揃えする「地産地消型の宅配ビジネスモデル」も構想中。現在、首都圏で展開している宅配事業を地方都市でも展開しようというわけだ。

4.中国・北京にも同じモデルで進出

 国内のみならず、昨年7月には中国・北京に進出を果たした。現地のNGOと合弁会社を設立し、日本と同じビジネスモデルの宅配事業を開始。中国の生産者に日本の農業技術やノウハウを提供し、安全で品質が高く、できるだけ農薬や化学肥料を使わない野菜の有機栽培に取り組んでいる。
「以前から農薬や化学肥料による環境問題をビジネスで解決するモデルをアジアでも展開したいと考えていました。中国では食の安全・安心が社会問題にもなっていますから、すでに500人くらいの会員が集まっています」
 北京で宅配事業の基礎を築いたら、次は成都に、5年後をメドに上海に進出する予定だ。上海にはローソンが店舗展開しているため、宅配と店舗販売を組み合わせたビジネスモデルも可能になる。さらに中国に続き、インドネシアやタイなどでもローソンのインフラを活用しながら、同様のビジネスモデルを展開していきたいという。
 アジアの農業が変われば、世界が抱える環境問題や食糧問題の解決にもつながるかもしれない。日本から始まった一つのビジネスが、いま世界の食に大きな波を起こそうとしている。

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