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林 舟之輔(はやし・しゅうのすけ)
1986年静岡県生まれ。2009年3月日本大学文理学部体育学科卒業後、通信系ベンチャー企業に入社。12年6月、不動産賃貸や飲食店を経営する同社子会社の代表取締役に就任。12年12月、親会社の取締役。14年9月同社を退社し、10月に株式会社アルテグラホールディングスを創業し、代表取締役となる。15年11月株式会社インテグラ、16年5月WonderWall株式会社をそれぞれ設立。
特集求人、住宅探しから、教育事業への進出も外国人の悩みをワンストップで解消目指す
1.水泳で鍛えた体力活かし大型イベントを手がける
インバウンド旅行者としてだけでなく、働き手としても、外国人に期待が集まっている。若年人口の減少などを背景に、日本の労働力不足が深刻化しているからだ。先日も、フィリピンから来日した家事代行スタッフの国家戦略特区での受け入れが、話題になったばかり。そんな中、在日外国人に特化した生活サービスを提供し、急成長している企業がある。WonderWall(ワンダーウォール)だ。
創業は2014年10月。社長の林舟之輔は、ユニークな経歴の持ち主でもある。オリンピック金メダリストの岩崎恭子選手の母校であり、水泳の強豪として知られる静岡県の日大三島高校で、水泳部主将として活躍。日本大学文理学部体育学科に進学し、名門の日大水泳部に入ったが、日本代表の壁は厚く、林は水泳選手としての道を断念した。「でも、せっかくの大学生活なので、思い切り楽しもうと思いました。2歳から水泳一筋だったので、何か新しいことにチャレンジしてみたかったんです」と振り返る。水泳で鍛えた体力とバイタリティを生かし、イベントサークルを立ち上げ、大型イベントを次々と手がけた。
「自分でもリーダーシップがあるかなと思ってはいたんですが、イベントの成功で自信がついて、“事業”の企画やマネジメントに、魅力を感じるようになったんです」
大学卒業と同時に先輩2人と一緒に起業。
通信回線や太陽光発電システムの販売のほか、不動産仲介、飲食、ネイルサロンなど幅広い業種の店舗運営を任された。25歳で店舗運営子会社の社長に就任、マネジメント経験も積んでいった。
2.登録外国人は5万人 「外国人Poole」
ところが、林は、再び起業を考えるようになる。その発想もアスリートならではだ。
「25歳を過ぎてから、自分の成長スピードが落ちているのに気づきました。子会社社長といっても、経営トップとは責任の重みが違います。今の地位に安住してはダメ、自分を追い込む必要があると感じました」
ちょうど可愛がっていた部下が会社を辞めることになっていたこともあり、その部下とともに独立、社員10名でワンダーウォールの前身となる会社を設立した。「実は、僕の手元の資金は50万円しかありませんでした。毎晩のように遊び回って、役員報酬を使い果たしてしまったからです」(同)。だが、それは一種の先行投資だった。豪遊によって、林は多くの経営者や富裕層と懇意になっていた。そうした人脈を生かし、2000万円を出資してもらうことができたのだ。
通信回線販売から事業をスタートし、その後、地方の優良物件を購入し、大都市圏の個人投資家に転売するというビジネスモデルに着手、同社の収益の柱となった。
そして大きな転機となったのは、人材事業への参入だった。インテリジェンス出身の吉国雄大氏が経営陣に加わることになり、「人材にかかわる、特色のあるサービスを始めたいと考えた」。林が目をつけたのは外国人の求人サービスだ。外食産業などのニーズが高いのに、競合がきわめて少なかったからだ。そこで、16年に外国人アルバイトに特化した求人サイトを譲り受けた。それをリニューアルし、発展させたのが、4月にリリースした外国人向け求人ポータルサイト「外国人Poole」だ。
日本企業の正社員・アルバイトの求人広告を掲載、日本語・英語・中国語など多言語に対応し、外国人求職者に情報提供している。また、独自の外国人向け求人SNSも運用し、採用側との人材のマッチングも行なっている。登録外国人は約5万人に上り、年間約5000人を約500社の日本企業に紹介した実績がある。
3.外国人向けサービス分野に経営資源を集中
「テレアポなど積極的な営業をかけ、クライアント企業のニーズをきめ細かく把握しているのが当社の強み」
外国人の出身国別では、中国、韓国、ベトナム、台湾、ネパールなどが目立つが、米国、ドイツなど欧米出身者もいる。紹介先としては大手の外食店や小売店が中心だが、最近のITエンジニア不足で、AIのスキルに長けたインド人やイスラエル人も、日本企業に紹介しているという。
一方、外国人向け住宅仲介サービスにも乗り出している。
「外国の人が日本に来て、まず困るのが住まい探しだからです。増え続ける空き家の対策にも役立ちます」
17年10月には、多言語対応の外国人向け賃貸住宅情報サイト「ガイコクジン・チンタイ」をリリースする予定だ。さらに、外国人専用のアパート、マンションの建設にも着手。不動産事業と連携し、自社サイトで入居者を募集、物件を投資家に販売する。
17年4月には、外国人向けのニュースサイト「ガイコクジン・ジャパン・ニューズ」をリリース。外国人にとって関心が高い日本の情報を、多言語で発信している。自社の求人サイトや賃貸住宅情報サイトともリンクさせ、ヒット率のアップを狙うほか、外国人の個人情報をデータベースとして集積し、ビジネスチャンスの拡大につなげる考え。2年後をメドに外国人向けの日本語学校を開設し、教育研修事業にも進出する予定だ。
「15年に22万人だった外国人留学生は、25年には45万人とほぼ倍増する見通しです。来日した外国人の求職や住まい探しのニーズは、増える一方でしょう。外国人向けサービス分野に経営資源を集中させ、外国人の生活上の悩みを、ワンストップで解決できる体制を確立したい」
そう力強く語る林のスパートは、まだまだ続きそうだ。