Guest Profile
今別府 亮(いまべっぷ・りょう)
大学生時代よりテレビ業界で働く。卒業後大手番組リサーチ会社、株式会社フォーミュレーションに入社、リサーチャー等を経験した後、営業統括を務める。2000年10月、その間に築いたネットワークを駆使し、株式会社フォーミュレーションI .T.S.を立ち上げる。テレビ業界への人材派遣をはじめ 様々なサービスを展開。現在新規事業としてメディア業界における採用サービスに注力中。
特集ハードな仕事、体力勝負の業界に働きやすさ、夢のサポートを持ち込む
1.テレビ局と直接契約を結びADを派遣する
放送業界は正社員がもっとも「不足」しているといわれている業種だ。帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査」では、放送業界は「不足」していると回答した企業の割合が4回連続でトップになっている。
そうした人材確保が厳しいテレビ局を中心に、そのほかCM制作、映画業界にアシスタント・ディレクター(AD)人材中心に派遣し、業界から圧倒的な信頼を得ているのが、フォーミュレーションI.T.S.だ。同社は、30年以上テレビ業界で活躍する、リサーチ会社フォーミュレーションから、社長の今別府亮が社内ベンチャーとして独立した。
現在の事業を始めて7年目だが、300人以上の社員スタッフが、常時、番組・CM・映画製作の現場で活躍している。
「テレビ番組の制作スタッフの派遣業務を行なっている会社は20社ほどあるが、ほとんどが制作会社への派遣。それに対し、当社の場合、テレビ局と直接、契約してスタッフを送り出しています。出勤は毎日、テレビ局です」
一本のテレビ番組を制作するのに関わるスタッフは、局のプロデューサー、演出家などが2割、残りの大半を外部の制作会社のスタッフが占める。こうした構造での番組作りが定着してかなりの年数がたつ。そうした決して新しくない業界にあって、創業7年という同社だけがなぜ、テレビ局と直接契約を結び、AD等のスタッフを派遣できるのか。
2.きめ細かなケアで、1年離職率は1割未満
今別府は、学生時代にAD、親会社のフォーミュレーションでリサーチャーやADを経験した後、営業統括を務め、キー局のテレビ局内にしっかりとしたネットワークを構築していた。加えて、自身の経験から、局の番組制作で抱えている問題にもよく通じていた。
「テレビの仕事は人気職種でなくなり、テレビ局内でもやがて人材の奪い合いになる。そこにビジネスチャンスがあると信じて起業しました」
しかし、局との直接契約によるADの派遣という前例のない仕組みの提案に、立ち上げて2,3年は、どの局からも相手にされなかった。その間、今別府は採用から、局へのアプローチまで、一人ですべてをこなした。地方にも足を運んだ。そうした厳しいなかでも、今別府は、1件、また1件と実績を積み上げ、信頼関係を築いていった。
「ADは特別な知識やスキルがなくてもやる気さえあればできる。でもそこで、だれでもいいから、人材を送り込めばよいということではない。ADは、現場に入ればたいへんな仕事です。無理を言われることもあり、へこんでしまうこともある。孤独になるし、心がくじけやすいんです。そこをどうやってケアし、明日、また頑張ろうという気持ちにさせるか、そこがポイントなんです」
今別府は自分でADを務めたこともあり、ADを長続きさせるコツを心得ていた。
もちろん今でも、同社では、スタッフのケアには十分すぎるほどの手間をかけている。本社の管理スタッフが6人、週に何度も局に出向き、社員とコミュニケーションをとり、「問題はないか、休みはとれているか、気になることはないか」等々、ヒアリングをして回る。もし何かあれば、すぐに営業スタッフが局の担当者に改善を申し入れる。
こうしたきめ細かなケアもあり、相対的に離職率が高いと言われているテレビ番組の制作業界にあって、同社スタッフの1年離職率は他社に比べて圧倒的に低い。
3.入社後研修、定時AD業界初に取り組む
テレビの制作業界は、これまで研修という制度と縁のない世界と言われてきた。しかし、同社では、業界用語、技術に関する知識などをまとめた研修資料を社内で制作、1.2週間の入社後研修を実施している。年々、研修資料の内容が充実してきており、同業からは「うちにも使わせてほしい」という声もあがっている。
入社後どこに派遣されるのかは、新入社員には気になるところだ。同社の場合、本人が何をやりたいのかをヒアリングし、局のプロデューサーに直接話をし、局と契約を結ぶことになる。本人のやる気次第で道が開けるということだ。
また社員のセカンドキャリアのサポートにも気を配る。当たり前だが一生ADで頑張りたいという人材はいないからだ。
「フリーでディレクターになりたい」というケースでは資金的な援助をしたこともある。地方の親元に戻らなければいけないという場合には、地方局に即戦力社員として紹介にも動く。テレビ局の仕事を熟知していることから、番組広報やライツ管理などのスタッフとして局採用される道もある。芸能プロ、音楽関連プロとのコネクションもあり、本人が希望すれば、間に入ってサポートもする。
局に直接モノを言えるパイプがあることから、同社では、これまでさまざまな提案を行なってきた。
たとえば、9時~17時という定時の仕事のADだ。テレビ局の仕事が好きで就きたいと思っていても、「徹夜がいや」で、「体力的にもきつい」という理由から、避ける人材もいる。そこで、今別府は定時のADをキー局に提案、即、認められて、現在、定時のADとして働くスタッフも増えている。働きやすい環境整備もあり、とかく体力勝負と言われるADの世界で、同社の正社員300人中、7割が女性だという。
どの局からも相手にされない起業から7年。今は「I.T.S.からの社員を待っている局もある」ほどの信頼を得た。そして、今別府が今後目指すのは「正社員1000人をテレビ業界に送り込む」だ。同社がそれだけの存在になれば、未だ過酷に見えるテレビ制作業界も大きく変わるのは間違いない。