株式会社ジャパンインバウンドソリューションズ 中村好明

Guest Profile

中村好明(なかむら・よしあき)

1963年生まれ。上智大学卒業。2000年ドン・キホーテ入社。広報、IR、マーケティング、CRM、新規事業担当を経て、07年に社長室ゼネラルマネジャーに。08年からインバウンドプロジェクトリーダーとして訪日客誘致の責任者を兼務。13年ジャパン インバウンド ソリューションズを設立、社長に就任。著書に『インバウンド戦略~人口急減には観光立国で立ち向かえ!』(時事通信社)ほかがある。

特集インバウンド2.0から3.0の時代へ 地域連携、企業連携で備えよ

1.「爆買い」は過去のもの新規事業として取り組め

 盛り上がる日本のインバウンドビジネス。その先駆者といえるのが、ドン・キホーテグループのジャパン インバウンド ソリューションズ代表取締役社長中村好明だ。

 日本のインバウンドの現状について、中村は「インバウンド2・0」と表現する。これは2014年10月に消費税免税制度が改正されたことによる、03年に始まった「インバウンド1・0」からのバージョンアップだという。従来の免税対象は高級品、ブランド品、家電などに限られていたが、化粧品や食料品、医薬品などいわゆる消耗品にまで広がった。これが起爆剤となり、インバウンドビジネスはあらゆる領域に拡大すると中村は説明する。

 たとえば、インバウンドの担い手だ。1・0時代は旅行会社やホテル、運輸などプレーヤーは限られていたが、2・0時代はあらゆる業種に広がる。インバウンドを主導する主体も国や地方自治体などの行政中心から、2・0では民間が主役になる。また、対象地域も広がる。1・0時代は特定の観光地、たとえば東京、京都、大阪という大都市圏だけがインバウンドの対象だったのに対し、2・0時代は大都市圏に加えて地方都市も対象になる。

 さらに、観光スタイルも変化する。1・0時代は団体観光客が中心だったが、2・0時代はFIT(個人観光客)が主流になる。現在のインバウンド活況の象徴として、メディアでよく取り上げられる中国人団体客の「爆買い」だが、中村によれば、それはすでに過去のもので、いまや中心は個人観光客にシフトしているという。

「だからいままさにすべての企業経営者、自治体、商店主はインバウンドに目を向けるべき時代なのです」

 同時に、中村は注意点も指摘する。
「インバウンドを始めてみたけれど、儲からないからといってすぐにやめるケースは多い。ここで重要なのは、インバウンドは既存事業ではなく、新規事業だということ。投資ですから、短期に回収しようとしてはいけません。インバウンドは時間をかけて刈り取るものです」

 そして最もまずいのが「国内需要の穴埋めのため」という考えだという。

2.競合からパートナーへ「面」対応が商機を生む

 2020年の東京五輪・パラリンピックを境に「インバウンド3・0」の時代に突入すると中村は語る。
「東京五輪は一つのビッグイベントにすぎず、それに沸き立っている場合ではありません。むしろポスト五輪という視点が重要。要するにオリンピック後は日本の人口が急減していきます。そういう人口急減社会で、持続可能な経済を回していくには、日本のすべての地域、すべての産業が伸びゆく唯一の市場分野であるインバウンドにアクセスすべき時代が、インバウンド3・0なのです」

 3・0時代に向けたキーワードが「連携」だという。地域や企業が協力し合うということだ。なぜか。2・0時代は個人観光客が中心だから、団体客とは異なり、「点」のマーケティングでは通用しない。団体相手であれば特定の観光地、ホテル、レストランに連れていけばすんだが、個人相手の場合は個々のホテル、レストラン、観光地ではなく、その地域全体、つまり「面」としての魅力が求められるという。だから連携が必要なのだ。現在の2・0時代はまだ個々の企業が国内市場の延長でインバウンドをとらえており、同業者はライバルという認識だが、「それでは3・0の時代には取り残されてしまう」と中村は指摘する。同業でも異業種でも手を組むことが大事だという。

 実際、そうした動きは始まっている。新宿、横浜、札幌、名古屋などで、地域で競合する百貨店や量販店などが利害関係を乗り越え、インバウンドという一つの目的のもとに集結し連携している。中村はこれらの取り組みにかかわり、今後こうした連携地域を大都市だけではなく、地方都市にも拡大したいと意欲を示す。

3.インバウンド抜きに未来はないまずは小さな成功体験から

 インバウンドはすでに3・0に向かって始動する半面、2・0はおろか1・0すら始まっていない地域や企業も少なくない。そもそも外国人とは無縁の地域もある。また、インバウンドに関心はあっても何のノウハウも持たず、どこから手をつけていいのかわからないというのが多くの企業や自治体の正直なところではないだろうか。だからこそ中村は全国からお呼びがかかり、年間150件もの講演に飛び回っているわけだ。

「インバウンド3・0に向けて取り組みたいという地域や企業へのアドバイスとしては、小さな成功体験を積み重ねていくことだと思います。たとえば、温泉で有名な鹿児島県指宿市では14年、中国の春節(旧正月)にフォーカスして、初めてのフェスティバルを開いた。行政も民間も一緒になって勉強して。それが成功し、さらにインバウンドに力を入れていこうというビジョンが生れました。小さなきっかけで町がガラリと変わるケースは少なくありません」

 地域経済が疲弊し、地方創生が叫ばれるなか、その突破口としてインバウンドビジネスは大きな力を秘めていると中村は力説する。

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