Guest Profile
清水 弘一(しみず・こういち)
大学卒業後、大手SE会社に入社し、セールスエンジニアとして配属。2006年にグループ企業のゲーム会社に転籍、ゲーム業界と本格的に関わる。12年リンクトブレインに転職、新規事業の立ち上げ等に関わりながら、CSO(戦略担当役員)として事業戦略の立案に携わる。18年10月代表取締役に就任。
特集ゲーム業界成長の方程式
1.クリエイターが活躍できる感動にあふれた世界を共創する 設立10周年に向けて転換を図るゲームづくりのプロ集団
2.プロゲーマー集団を 同社が支える理由
3.ゲームが磨いた技術が 世の中を大きく変える
4.クリエイターが60代でも 活躍できる場を創出する
1.クリエイターが活躍できる感動にあふれた世界を共創する 設立10周年に向けて転換を図るゲームづくりのプロ集団
2.プロゲーマー集団を 同社が支える理由
今年(2018年)の8月中旬から9月にかけてインドネシア・ジャカルタで開催されたアジア大会では「eスポーツ(PCゲーム、家庭用ゲーム、モバイルゲームを用いて行なう競技)」がデモンストレーション競技として実施され、日本代表が金メダルを獲得した。20年の東京オリンピック、24年のパリオリンピックでも、eスポーツの採用が検討されており、これからますますeスポーツや、プロゲーマーへの注目が高まることが期待されている。こうした背景もあり、ゲーム開発・運営および人材事業で豊富なノウハウを有するリンクトブレインでは、9月、プロゲームチームの「野良連合」との業務提携を発表した。プロゲーマーの活躍に販促効果を期待し、資金提供という形で支援するケースは多いが、リンクトブレインのような関わり方は珍しい。
10月から代表取締役社長として、同社を率いる清水弘一は、業務提携となった理由を次のように説明する。
「いまはまだプロゲーマーの人数が少ないので希少価値が高い。しかしこれからプロゲーマーが増えていけば、全員が同じように稼げるわけではない。ゲームに関わる人材の育成・供給をし、ゲーム業界といっしょに成長してきた当社として、彼らがこの先ゲーム業界に関われることは何か、プロゲーマー引退後のセカンドキャリアを含めてサポートをできないかと考え、業務提携というかたちになった」
3.ゲームが磨いた技術が 世の中を大きく変える
同社は大手SE会社傘下のグループ企業で活躍していた2人が、ゲーム会社に不足している人的リソースや、各社の業務を補完するソリューションの提供を目的に、11年に立ち上げた会社だ。
清水は創業者2人と同じ会社にセールスエンジニアとして入社。傘下のゲーム会社で新規事業等に携わり、2人の独立後、あとを追うように、12年、リンクトブレイン3人目のメンバーとして入社した。
以降、同社は順調に実績を積み上げ、これまでに有名ゲームを含む200から300のタイトルに関わってきた。
「全員がすべてに関わったわけではないが、社内にそれだけの開発に携わった人たちがいる。ゲーム業界を見渡しても、これだけの経験値をもつ会社は当社のほかにはない」
またそうした経験を積むなかで、人材も育ってきた。大学や企業からの要請で、クリエイターとして最前線に関わっている人材が、ゲーム開発におけるテクノロジーについて講演する機会も増えている。
「当社のブランディングにもなるし、採用にも効果があることがわかった。講演活動は、人材育成の一環としても継続していく」
ゲームはとくに子どもに対し害を及ぼすものとして長く扱われてきた。しかしそうした誤った見方は、この数年で一気に払しょくされようとしている。というのも、ゲーム業界が磨き続けてきたテクノロジーや、プレイヤーの言動が社会を大きく進歩させる原動力になっているからだ。
今年の8月に開催されたゲーム開発者会議「CEDEC2018」(コンピュータエンタテインメント協会主催)で、インターネットの黎明期から第一線に関わっている慶應義塾大学の村井純環境情報学部教授は「ゲームがインターネットを育てた」と語った。あるゲームユーザーから村井教授の研究室に「インターネットの遅延のせいで、ゲームで負けてしまった」という抗議があり、それをきっかけとして遅延を低減する研究を進めたことがあったという。
また、スマホの表現力の進歩により、身近なテクノロジーとなったVR(仮想現実)やAR(拡張現実)、高精細な表現力で自動車の実用化プロセスを変えると言われている3Dなどは、ゲームへの応用により技術力が磨かれていったものだ。
同社にも「VRやARの技術を応用した研修用教材、教育ツールの開発が中心だが、ゲーム業界以外の企業からの依頼が増えてきている」という
4.クリエイターが60代でも 活躍できる場を創出する
現在、同社では、創業10周年にあたる21年をひとつの目安に、会社のポジショニングをより明らかにしていこうと考えている。不足するリソースの供給やソリューションの提供といったこれまでの「課題解決型」から、さらに一歩踏み込んで自らがクリエイティブの場も提供する「機会創造型」への進化だ。
その第一ステップとして、昨年(17年)、経営理念を新たに策定した。
「変化に挑み、“つながる”すべての人々の幸せと成長を実現する経営」だ。それを支えるのが5つのリンクトブレインマインドで、なかでも「チャレンジし続ける」、「プロフェッショナルであり続ける」とあるように、“続ける”ということが、変化の著しいクリエイターの世界ではますます重要になってくるのだという。
そしてこの10月から、あらためて会社としての存在意義と意思を明確にしたのが「クリエイターが活躍できる感動にあふれた世界を共創する」というミッションだ。同社が一貫しているのは“CREATOR FIRST”という立場。ゲーム、エンターテイメントが提供する感動体験は「クリエイターの果たす役割が大きい」と話す。クリエイターがもっと社会的地位を高め、10年後、20年後も活躍できる場を提供することを目指して、「機会創造型」への進化を打ち出した。
21年までの中期目標を達成するために、同社では64項目のアクションプランを設定している。それらが明らかにされることはないが、「一段ずつクリアしていけば、確実にゴールまでたどりつけるプランになっている」と強気の姿勢をのぞかせる。
いまなお事業を継続している100年企業は少なくない。しかしIT業界の1年がドッグイヤー(人間の7年分)と言われたように、テクノロジーの進歩に一層の拍車がかかるこれからの100年は、スピードでも、そのダイナミックさにおいても、これまでとは比べものにならないだろう。
そうした環境のもとで、清水は将来目標として「いまの30代が50代、60代になっても、クリエイターとして実力を発揮できる場を創出できるよう、クリエイティブの世界で100年廃れない会社にしたい」と口にする。
そのための近道が「変化に挑み続けること」だと明らかにした。