Guest Profile
佐伯真唯子(さえき・まゆこ)
大学卒業後、大学の企画事務スタッフとして入社。その後美容専門学校を経て、2005年からエステティシャンとしてのキャリアをスタート。13年、株式会社ヴィエリスに創業メンバーとして入社。施術方法の開発からスタッフ育成、売上管理、人材採用まで、幅広い業務に携わる。19年3月、代表取締役に就任。同社の運営する「全身脱毛サロンKIREIMO(キレイモ)」は10〜20代の女性から多くの支持を集め、全国で70店舗を展開中。
特集「売上高で日本一」「CS(顧客満足度)で日本一」 「ES(従業員満足度)で日本一」。3つの日本一を柱に 「日本一の脱毛サロン」をめざす
1.柔軟な雇用形態を運用 定着率向上に取り組む
どのような革新的な人事制度も、設計は必ずしも難しくはないが、適正な運用となると右往左往する例が少なくない。多くの場合、あるべき論から設計され、職場の実情にフィットしないのだ。
全身脱毛サロン「KIREIMO」(キレイモ)を全国に70店舗展開するヴィエリスは、1600名超におよぶ社員の生活状況や志向性に合わせて、13の雇用形態を運用している。これだけのパターンを運用するには、何らかの齟齬も発生するのはないか。
だが、社長の佐伯真唯子に言下に否定された。
「いえ、問題なく運用できている。13の雇用形態は会社が決めて、上から降ろしたのではない。各部署と店舗で実施している上司と部下との月1回の面談から吸い上げた問題点や要望をもとに、雇用形態をつくった。だから現場の実情に即した制度になっている」
13の雇用形態とは①店舗(正社員)②店舗(パート・アルバイト)③店舗(月給制時短5時間)④店舗(月給制時短6時間)⑤店舗(月給制時短7時間)⑥店舗(土日休み月給制時短5時間)⑦店舗(土日休み月給制時短6時間)⑧店舗(土日休み月給制時短7時間)⑨本社社員⑩本社時短正社員(6・15時間)⑪カスタマーセンター(正社員)⑫カスタマーセンター(アルバイト)⑬本社時短正社員(6時間)。社員の98%を女性が占めるためワークライフバランスに配慮して細分化したのである。
13の雇用形態と並んで、キャリアチェンジも柔軟な雇用を可能にしている。例えば出産や加齢によって、エステティシャンの業務を体力的に継続しにくくなることがある。その場合、受付業務やカウンセリング業務、本社などにキャリアチェンジのできる人事が定着している。
その結果、美容業界全体の年間離職率が約50%にも及んでいるのに、同社の離職率はその2分の1まで低下した。それでも離職者増に悩む介護業界の16%に比べてもまだ高く、さらに定着向上への取り組みを進めていくという。
2.レッドオーシャン市場に 1年目から大量出店
同社の概要を俯瞰しておきたい。大手金融機関を経てM&Aに関わっていた吉福優が、2012年に設立した。翌13年、エステサロンチェーンでエステティシャンを経て、本部の部長職としてマネジメント業務に従事していた佐伯は、4人の創業メンバーに加わる。マネジメントのできるエステティシャン経験者として、吉福にスカウトされたのだ。今年(19年)3月に代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)に就任した。
一号店のオープンは14年。佐伯は、店舗運営方針を次のように振り返る。
「すでに脱毛サロン市場はレッドオーシャンだった。そこで脱毛サロンへの不満を解消する店舗運営に徹した。脱毛サロンには『なかなか予約が取れない』『施術中に寒い』『施術が痛い』などの不満があった。例えば部位別の脱毛を行うと施術時間がまちまちになって、予約時間を設定しにくいので、予約を取りやすくするためにメニューを施術時間90分の全身脱毛ひとつに絞った」
“不の解消”は後発企業が成功する要諦だが、さらに同社は思い切ったプロモーションに打って出る。元AKB48メンバーの板野友美をイメージキャラクターに起用した。狙いは的中して当初から集客力を発揮し、早くも1年目に22店舗を出店。全て直営店だが、勢いに乗っての出店ではなく、1号店がヒットしたら一気呵成に大量出店する計画だったのだ。
当時は脱毛サロンへの入店は恥ずかしいという風潮が残っていたので、店舗は路面店でないほうがよく、裏通りでも問題がなかった。さらに内装を社員総がかりで手がけたので、1店舗あたりのコストを掛けずに出店ができた。
3.ジェンダー平等の実現へ 国連本部でスピーチ
同時に同社は経営方針を「日本一の脱毛サロン」と定め、その具体策として「売上高で日本一」「CS(お客様満足度)で日本一」「ES(従業員満足度)で日本一」の3つを柱に据えた。佐伯は「脱毛サロンは対人サービスなので、ESが高くないとCSも高くならない」と当初から就労環境の整備に注力してきた。サロン運営と同様に“不の解消”に努め、雇用形態や人事制度をつくり上げたのである。
さらに社内に称賛の文化を導入した。エンゲージメントクラウド「Talknote」を導入し、社長以下全社員が活用している。社員が顧客から感謝されたことや、課題を解決したことなどを書き込むと、それを称賛する書き込みが加わり、互いに意欲を高め合うという作用が働く。この仕組みもES向上に寄与しているが、社歴が新しい分、旧弊が潜んでいないことも幸いしたのではないのか。
こうした佐伯の実績は社会的にも評価され、18年5月、国連本部で開かれた「2018国連ニューヨーク本部SDGs(持続可能な開発目標)推進会議」で、SDGsの5番目の目標「ジェンダー平等を実現しよう」の推進企業を代表してスピーチを行なった。さらに今年(19年)、国際女性デーに当たる3月8日に「国際女性デー・HAPPY WOMAN AWARD 2019 for SDGs」(主催・一般社団法人ウーマンイノベーション)で、滝川クリステルや知花くららとともに5人の「HAPPY WOMAN」に表彰された。
今後のヴィエリスはどこに向かうのだろう。
「当面、KIREIMOの店舗数を大幅に増やすことは考えていない。施術室の稼働率が低い店舗もあるので、各店舗の質の強化に力を入れていく。まだまだ知名度が十分でないので告知を図っていく」
新たにイメージキャラクターに起用した女優・渡辺直美が躍動するTVCMも、その一環である。インパクトは十分だ。3つの日本一に向かうヴィエリスの活力を象徴しているようにも見える。