Guest Profile
古橋 将(ふるはし・まさる)
1984年生まれ。2008年早稲田大学法学部卒業。11年早稲田大学大学院法務研科(法科大学院)修了。12年最高裁判所司法研修所修了、弁護士登録、東京弁護士会入会。13年日本司法支援センター入所。14年法テラス多摩法律事務所赴任し、16年4月まで務めた後、16年に霞ヶ関法律事務所にパートナー弁護士として入所。現在に至る。
特集攻める企業を支えるプロのスキル
1.企業のリスクを事前に把握し、 経営者に的確に伝える役割を果たしたい
「何かあったらお願いしますよ」
弁護士にあいさつをする際のよくあるやり取りだが、その問題点を指摘するのが、霞ヶ関総合法律事務所パートナーの古橋将弁護士だ。
「何かがあってからでは遅い。どんな些細な紛争や争いであっても、必ず小さくない痛みを伴う」。だから「リスクが顕在化する前に、手を打っておくべき」というのが古橋の考え方だ。
成長著しいベンチャーの場合、トップ(創業者)が戦略づくりから、事業の執行、組織運営、リスクマネジメントなどあらゆる業務を統括するケースが多い。だが、事業に直接、影響の出にくい部分については、おざなりになりやすいのも事実だ。とりわけ事業のリスクについては、「創業者がいちばん知っているから」という理由で、軽くみられることもある。
訴訟事件を含め企業に関わる数々の紛争を扱う古橋は、紛争に触れる度に「一歩手前(=紛争になる前)で、適切なアドバイスをしてくれる人はいなかったのか」と思うことばかりだという。
古橋の弁護士としてのキャリアは一般的なイメージと少々、異なる。
多くの場合、弁護士登録後、法律事務所の経営者にあたるボスの指導を仰ぎながら、実務を学ぶ。しかし、古橋はあえて、特定のボスがいない日本司法支援センター(法テラス)に入所した。特定のボスがいない分、自由があり、さまざまな腕利きの弁護士と事件を共にし、多くの視点を得ることができた。さらに、日本弁護士連合会で、法廷技術を研究するチームに入り、プロとして必要な技術を磨いた。古橋は、若手の時代にその技術を集中的に磨けたことが自分の一番の財産であるという。実際に、その技術を生かし、弁護側の勝率0・08%程度(無罪を勝ち取った割合)と言われる裁判員裁判で、検察側の立証が不十分であることを示し、無罪を勝ち取ったこともある。現在では、日本全国の弁護士会に法廷技術を伝える講師として派遣されているのだそうだ。
2016年には、霞ヶ関総合法律事務所に入所。1980年から続く老舗の事務所で、役員の責任追及、経営権争い等企業関連の紛争、不動産に関わる紛争や経済系の刑事事件等、企業に関連する紛争を幅広く扱うようになった。現在では、企業の顧問業務も多く扱っている。企業のリスクを考えるには紛争の経験も重要だ。顧問としてのアドバイスを求められたときに、多くの紛争を担当した経験が役立っているという。
ベンチャー企業の場合、事業の成長に貢献してきた仲間同士の経営権争い、後継者候補間の主導権争いに加え、安易な役員報酬の設定(第三者的に見れば法外な額)が事業売却やIPO後の紛争に発展することもある。古橋によれば、こうした企業成長にダメージを与えるようなリスクは、少なくないのだという。だからこそ、急成長成企業には、リスクを事前に把握し、経営者が理解しやすいように伝えられる弁護士が必要だ。古橋はそういう存在になりたいと考えている。「まだまだ修行中の身」と控えめな古橋だが、今後は、企業法務・企業紛争、不動産に関わる法務などを中心に、さらなる専門性を磨いていくという。