Guest Profile
水倉仁志(みずくら・まさし)
中央大学法学部を卒業後、野村證券株式会社へ入社。東京海上日動あんしん生命保険株式会社を経て2010年に独立。3社の保険代理店経営から、デジタルとアナログを融合させたユーザー主導の金融サービスの必要性を感じる。現在はIFA株式会社の代表取締役CEOとして、次世代型銀行の創造を目指している。
特集ブロックチェーン技術を活用しだれもが正しく評価されるプラットフォームを構築。ユーザー視点の金融サービス提供をめざす
1.空気のようなエコシステムAIre(アイレ)プロジェクト
2.日本初のブロックチェーンが 体験できるメディア
3.有名、無名に関係なく正しく評価される表現の場
4.「AIre VOICE」はメディアテック
5.19年夏までに 4つのサービスを提供
6.年内にユーザー100万人5年で1億人超をめざす
1.空気のようなエコシステムAIre(アイレ)プロジェクト
「空気の様に寄り添う、エコシステムの創造を。」をビジョンに掲げ、「ブロックチェーンを筆頭にした新技術を用い、よりユーザーが使いやすく、地域や生活に寄り添ったサービスを提供していくためのエコシステムの創造」という、広大な構想をもとに事業を展開するのがIFAだ。
ブロックチェーンというと、2017年暮れのバブルで「億り人(資産1億円以上の資産を築いた人)」を量産したかと思うと、18年1月の大暴落により、多くの投資家をどん底に突き落とした「仮想通貨」を思い浮かべる人も多いだろう。しかし、ブロックチェーンの技術は日々、進化を繰り返しており、「決済機能」(ブロックチェーン1.0)から、通貨以外の金融分野(未公開株式取引システム、ローン、クラウドファンディング、保険など)への応用(ブロックチェーン2.0)、さらには科学技術、医療、食品など、金融以外の分野でもブロックチェーンを活用したサービスや研究が世界中で広がっている(ブロックチェーン3.0)。
IFAがめざすエコシステムは「自分の情報」に対して主権を持つ世界で、同社では「AIre(アイレ)プロジェクトと呼んでいる。「AIre」とはスペイン語で「空気」、「ほんのわずかな時間でも停止してしまったら困るくらい身近なものにしていきたい」(代表取締役CEO 水倉仁志氏)という気持ちからそう名付けたという。「ブロックチェーンを活用し、ユーザー自身が主体となって、利便性、透明性、公平性、ワクワクを享受できる環境の提供」ということになるだろうか。
2.日本初のブロックチェーンが 体験できるメディア
19年3月、このAIreプロジェクトの第1弾が立ち上がった。
ブロックチェーンをはじめとして、Fintech、IoT(モノのインターネット)、ソーシャルレンディング、クリプトファンディング、情報銀行、AI(人工知能)などの先進的な情報を発信するウェブメディア「AIre VOICE(アイレヴォイス)1.0」だ。
この「AIre VOICE」は、既存のウェブメディアとは一線を画す。
水倉は次のように熱い思いを語る。
「AIre VOICEにより、当初は、ブロックチェーンをはじめとする先進技術を中心に、『知る』、『理解する』につながる記事を発信していくが、めざすところは発信型のメディアではない。ユーザーが投稿したものに対し、ユーザー同士が学んだり、参考にしたり、Facebookの『いいね』のように承認を受けられる場だ。もちろん、既存のメディアやコミュニティのように、肩書きのある人、有名な人たちの声、主張、考えだけが大きく取り上げられる場ではなく、学生でも主婦でも、自分の意見を持っていれば、著名な人たちの意見と同じように正しい評価を受けられる世界だ」
こうした考え方を担保するのが、ウェブメディアの裏側で走るブロックチェーンだ。ブロックチェーンの仕組みを取り入れることにより、“改ざんできない”メディア、自分の主張(オリジナリティ)を証明してくれるメディアになる。同社によれば、ブロックチェーンの仕組みを組み込んだウェブメディアは日本初の試みだという。
3.有名、無名に関係なく正しく評価される表現の場
水倉がこうしたメディアの発想をもつきっかけとなったのが、「3・11(東日本大震災)」だ。
「3・11以降『原発危険論』が一気に盛り上がりを見せているが、それ以前から、国が原発推進策を進めるなかでも、自らの知識や見識に基づき『原発危険論』をずっと展開してきた人たちもいる。特別の肩書きや有名でないというだけで、彼らの活動が正しく評価されないというのはおかしくはないか」
また水倉は証券業界に属し、顧客の資産運用に携わった経験があるが、そのときから疑問に思い続けていることがある。
「毎年、年初に著名なアナリストや証券会社を代表する人たちが、日経平均や為替の予想を発表しているが、その結果に関わらず、その翌年も同じ顔ぶれが並ぶ。結果の評価をしないまま、顧客に運用のアドバイスをし続けているというのは、あまりに顧客を軽視してはいないか」
あまりにもひどい昨今のコピペ文化の蔓延もきっかけのひとつだ。
インターネットの進化やサービスの多様化、スマートフォンの普及により、だれでも、blogやSNSなどを通じ全世界に向けて自由に情報発信できるようになった。しかし、日々、大量に発信される情報の中には、他人の受け売りは仕方ないにしても、間違った情報のコピペやリツイート、意図的にミスリードするような情報、詐欺行為の誘発につながるような情報も、本物の情報と同じ扱いでインターネット上を駆け巡っている。あるキュレーションメディアで発覚した悪質なコピペや記事内容の無断盗用、オリジナリティが求められるべき学術論文での大量のコピペ騒動もある。
「ブロックチェーンを活用すれば、内容の改ざんはできないし、悪質なコピペも排除できる。また2次利用されたときに、誤った解釈をされないように(コピペされた部分だけが独り歩きしないように)できるし、最初に投稿した人のオリジナリティを証明することも可能だ」
4.「AIre VOICE」はメディアテック
いま、「自分の権利を守る」ことは、世界的な流れのなかにある。学生でも、主婦でも、だれにも同じように、発言することができ、無名だからといってその発言が軽んじられることもない、本当の意味で言論を戦わすことのできる場が求められている。「ホンモノが正しく評価され、偽物が消えていく」そうしたフェアな言論の世界を構築するのが、AIre VOICEの狙いでもある。
「例えば『名前のある人、肩書きのある人だけが、正しいことを言っているのではない』と悔しい思いをしている人、自分の考えを正しく評価してほしいという人、世の中の動きより進んだ考えを持っている人などに利用してもらいたい。また、自分の意見をしっかりもった主婦や学生など、これからの時代にふさわしいライター候補の人たちにも参加してほしい」
とはいえ、既存のblog、Facebook、Twitterなどで自由に情報発信を楽しんでいる人たちは多い。そのためAIre VOICEでは、投稿に対するインセンティブを考えている。「ブロックチェーンの特徴でもある透明性や利便性だけでは、利用者を一気に増やすことはできない」(水倉氏)ということから、投稿への対価(AIreプロジェクト内で利用できる決済機能)、投稿内容に対するスコアリング(投稿者の主張はオリジナリティのあるものか、的確であるか、あるいはよく当たるかなどに応じた評価)の提供の準備を進めている。
現在、同社ではAIre VOICEを運営していくうえで、これまでのウェブメディアでは経験したことのない課題に直面している。
それは「ユーザーにブロックチェーンをどうやって体現してもらうか」ということだ。
「そもそも、ブロックチェーンは目に見えないものだけに、体験設定をどうしたらいいのか。既存のウェブメディアよりユーザビリティが悪くなってはいけないし、試行錯誤を繰り返している」(同社開発担当者)
また、ウェブメディアといいつつも、裏側で常時数名のエンジニアが張り付き、開発に手を入れながら運営するというのも珍しい。ひとつはコンテンツマーケティングにより内容の最適化を図るためだが、さらにはブロックチェーンを活用した商品やサービスのテストマーケティングという狙いもある。そうしたことから、同社ではAIre VOICEを「メディアテック」と位置付けている。
5.19年夏までに 4つのサービスを提供
IFAがブロックチェーンを活用して進める事業はAIre VOICEにとどまらない。
「今年(19年)の夏までに、FP(ファイナンシャルプランニング)機能をもったアプリケーション(もしくはサービス)として『AIre MINE(アイレマイン)』、クラウドファンディングや寄付、投資などに対応する『AIre SHARE(アイレシェア)』をリリースする計画だ。また、3つのサービスがそろうまでにウォレット機能の『AIre BRIDGE(アイレブリッジ)』の提供もスタートしたい」
日本ではこの先も人口減少が続く。労働人口も減少していくなかで、国としての経済力を維持していくためには生産性のアップが不可欠だ。とくに日本のサービス産業は諸外国と比べて生産性の低さが指摘されている。実はFP機能をもつ「AIre MINE」には、金融サービス分野での生産性アップを後押しするという狙いもある。
「金融サービスの営業は、新規が8割、既存客が2割というのが一般的だ。新規客をどんどん獲得していかないと、稼ぎが悪くなるからだが、顧客の立場からすると、『釣った魚にはえさは与えない』という状況に置かれることを意味している」
AIre MINEには、この悪循環を断ち切る機能を持たせる考えだという。専用アプリでの提供になるか、詳しくはまだ決まっていないが、ユーザーのニーズ、環境の変化、ライフプランに対する考え方などを入力すると、そのときの状況にふさわしいライフプランが提案される。「ユーザー満足度の高い的確なアドバイスにはインセンティブが付与され、その蓄積がアドバイスの評価にもつながる」という仕組みも取り入れる。
このAIre MINEでは、ユーザー自身が「保険の見直しをしたい」「マイホームを購入したい」という気持ちが熟したときに初めて、マッチングを行ない、フェイス・トゥ・フェイスの場を設ける。AIre MINEを使い込んでいくことでユーザーのニーズも明確になり、確度の高い見込み顧客となる。その結果、ユーザー満足度の高い的確な商品・サービスの提供が可能となり、生産性アップにもつなげることができる。
「AIre MINEは万人に使ってもらいたい」と水倉は思いを語る。すでに世にある金融リテラシーの高い人が利用するツールではなく、特別、金融に関する知識がない人でも楽しんで利用できるものをイメージしている。「気遣いのできるコンシェルジュかもしれないし、RPG(ロール・プレイング・ゲーム)のようなものになるかもしれない」という。
「ライフプランは、その人の人生をより良くするためのアドバイス」(水倉氏)だからこそ、みんなに利用してもらいたいのだ。
6.年内にユーザー100万人5年で1億人超をめざす
金融サービスの分野は、以前ほどではないとはいえ、規制や法令での縛りが厳しい世界だ。IFAがブロックチェーンを活用して参入しようとしているサービスには、法令の整備が追いついていないところも少なくない。
「大手上場企業であれば、法整備が整うまで参入しないが、われわれはスタートアップだから、時代を先読みして一歩を踏み出すことができる。もちろん法令遵守の精神は堅持する」
今後の具体的目標について水倉は「この1年でユーザー数100万人の突破」をあげる。
「いまはまだ大企業が一歩を踏み出せないタイミング。その間に、無視できない規模のユーザーを確保したい。サービスがとがっているだけでは、いずれ大手に飲み込まれてしまう。この1年でどれだけのユーザーから信頼を勝ち取ることができるか」
この数年のテクノロジーの進歩はすさまじい。AI、IoT、クラウドコンピューティングに、ブロックチェーンの世界もしかり。1年も経たないうちに、新しいテクノロジーに置き換わってしまうものもある。そうした時代の一歩先を行くため、IFAでは、数年後にはブロックチェーンに取って代わるかもしれない新しいDLT(分散型台帳)の仕組み「DAG(ダグ)」を提供するObyte(旧Byte-
ball)との間でMoU(覚書締結)を2019年3月22日に発表した。(現在パートナー契約締結に向けて協議中)
「今後も含め、われわれが提供するサービスは、AIre VOICE、AIre MINE、AIre SHARE、AIre BRIDGEまで。以降は、エコシステムとしてのプラットフォームの提供が中心になる。その意味から、われわれには競合は存在しないし、すべての会社がわれわれのパートナーになりうる」
19年中にユーザー100万人を達成し、5年でユーザー数1億人超へ。日本国内だけのローカルサービスにとどまらず、アジアでの展開も視野に入れる。「AIreプロジェクト」の壮大な計画は始まったばかりだ。