Guest Profile
井上 崇(いのうえ・たかし)
大学卒業後、個人投資家として株式投資を始める。24歳で独立系ヘッジファンドを設立、株式やFXなどを中心にマーケットでのディーリング業務を展開。その後、企業のファクタリングやベンチャーキャピタリストとしてベンチャー企業に対する投資活動を開始し、スタートアップの企業を中心にハンズオン形態で経営資源も提供するスタイルを理念に投資。2015年に株式会社Gizumo設立、同代表取締役社長に就任。
特集3年かけてフルスタックエンジニアを育成日本にIT人材輩出の土壌をつくる
1.社会問題化する 優秀なエンジニア不足
2030年に日本国内でIT人材(エンジニア)が50万人以上不足する。20年からはプログラミングの義務教育化も始まるが、それだけで大きなギャップが埋まるとは考えにくい。加えて、企業で求められているエンジニアは単にプログラミングができる人材ではなく、“優秀な”エンジニアである。
大学卒業後、個人投資家として実績を積み、独立系ヘッジファンドを設立、そのリターンをもとにベンチャー企業に対する投資活動をスタートさせた井上崇は、IT人材の不足が社会問題化していることを実感していた。
「日本が高度経済成長を経験できたのは、国や大手企業が人材教育に投資し、社員はそこで身につけたスキルを終身雇用という仕組みのなかで存分に発揮するという土壌があったからだ。しかし、残念ながら、現在のIT人材不足に対して、国や大企業に同じことを望むのは難しい」
いまの日本の経済状況では、教育コストの負担は企業にとって重い。エンジニアは平均2~3年で転職してしまうという実情もある。
そこで立ち上がったのが井上だ。「優秀なエンジニアを輩出する土壌をつくる」ことを命題に、15年5月、Gizumoを設立。会社の理念に「人の未来を創る。」を掲げ、30年までに5000人から7000人のIT人材を輩出することをめざしている。
2.メンターは現役エンジニア 最新技術や実践力を学ぶ
Gizumoの事業内容は、自社プロパーエンジニアのみをアウトソーシングする「GIZTECH PRO」、受託型システム開発になるが、同業が多いなかで、同社を特徴づけているのが、IT人材の育成システムだ。
入社研修としては、独自に開発したカリキュラムに基づき、現役のエンジニアがメンターとなって、最新の技術、現場での実践経験などを踏まえ教えていく。知識偏重にならず、一人前のエンジニア(=独立しても自分の力で稼げる)としての即戦力をめざしており、研修期間中に、開発案件に直接関わることもできる。また「実際の開発現場で求められるのは、スキル+コミュニケーション力」(井上)ということもあり、研修のコースによっては、携帯ショップ、家電量販店などでの現場研修もある。研修先での接客、対人関係を通して、エンジニアとしてのスキルを学ぶ前に、実践現場で社会人としてのコミュニケーション力を身につけるという狙いだ。
研修を終え、ITの基礎を身につけてからは、GIZTECH PRO事業部への配属となる。
「当社の顧客にはIT大手や有名ベンチャーも多い。研修終了後、いきなり、有名なタイトルのゲーム開発に関わる、といったこともある」
そうした大きな現場には必ずGizumoの先輩が先に入っている。ときにはその先輩がメンター代わりとなって、現場での困りごとや悩みなどがあれば、常駐先で相談ができるというのも同社ならではだ。
Gizumoでは3年程度の時間をかけて、即戦力エンジニアとしてのキャリアを積み上げる。
3.多様化しているエンジニア ニーズに応える制度構築
自分一人で稼げるエンジニアになれば、多くのエンジニアと同じように、大手に転職したり、フリーランスになったりというケースが増えてそうだが、同社の場合はどうだろう。
「もちろんゼロではないが、『Gizumo』をもっと大きくしようと考えてくれる社員がほとんどだ」
同社には入社3年目以降に利用できるさまざまな社内制度がある。
たとえば「Giz直制度」。やりたい企画、やりたいサービスを役員に直接プレゼンするチャンスをもてるというもので、エンジニア向けメディア「Gizpuzzle」の作成など、すでに実現しているものもある。
子会社として独立をサポートする仕組みもある。
「エンジニアとしての能力は高くても、コーポレート系(人事・経理・総務)の業務は全くダメという人材は少なくない。その部分をサポートし、独立を支援する制度だ」
また、社員としての籍を離れてフルコミッションのフリーランス契約になれる制度もある。単価連動制で、売上げの大半が手元に残ることになり、社員時代に比べて、月額報酬が大幅にアップしたというケースもある。
さらにGizumoが転職エージェントとして機能する転職サポートもある。「本人のスキル、転職希望先のニーズを熟知した営業スタッフがスキルシートの作成を支援したり、転職に成功することが多い」(同)。エンジニアの多くが苦手とする年収交渉も、同社の営業担当が代行する。
福利厚生の面でもユニークな制度がある。
18年8月から始めた決算連動型社内通貨サービス「GIZコイン」だ。利益の3%を原資に、月間100枚(年間1200枚)の社内通貨を発行し、新たなボーナスとして支給するというもの。同社では、仕事の成果や貢献・感謝を従業員同士が互いに「いいね」を送り合い評価するアプリを導入しており、「いいね」を受け取った枚数に応じて、コインが配分される。換金する(=会社が買い取る)際の価格は直近年度の利益に連動する。
「会社が成長し続ければ、コイン1枚当たりの単価も上がる。社員へのインセンティブにもなる」
また、19年2月には、中小ベンチャーを対象にした国内最大規模の福利厚生サービスも導入。社員の働きやすさを向上させる取り組みには余念がない。
Gizumoが設立されて3年半が経過した。取引先、求職者、売上高はそろって右肩上がりで伸びているという。
「これまでの3年で一定の成果と評価を得た。今期からはスケールを狙う。そのためにも、当面220名の採用を実現したい」
井上がめざす「優秀なエンジニアを輩出する土壌づくり」は、着実に前進を続けている。