永伸商事株式会社 山本伸次

Guest Profile

山本伸次(やまもと・しんじ)

1961年生まれ。兵庫県出身。大学卒業後、銀行勤務を経てパチンコチェーン、飲食業、ゴルフ場、ビルメンテナンスなど、さまざまなサービス業を経営の後、現在のミネラルウォーターの製造販売にライフワークを見出した。

特集ゼロから生まれた ミネラルウォーター事業を機に 環境問題、健康増進にも取り組む

1.大手企業経験の顧問団が 自社生産体制の構築を支援

今年(2018年)11月9日、東京ドームシティホテルで開かれた『2018ミス・インターナショナル世界大会』の公式飲料にミネラルウォーター『ミライズ』が採用された。
 製造販売元の永伸商事がミネラルウォーター事業に乗り出した着眼点は意外だった。社長の山本伸次は振り返る。
「かつて奈良市月ヶ瀬でゴルフ場を経営していた。だが、ゴルフ場経営は収益が天候に左右され、収益が不安定になりやすい。そこで、ゴルフ場のリソースで何かできないかと検討し、美味しいと評判だったこのゴルフ場の飲料水に着目した」
 事業化を計画したのはミネラルウォーター製造販売だが、同社にこの事業に活用できるノウハウはない。しかし腹を決め、自社生産体制の構築を決定した。すると、元大手飲料メーカーの役員、工場長、物流責任者などが協力の手を挙げてくれ、顧問に就任した。いまでも当時就任した7人が顧問を継続している。
「日本では、年齢によって埋もれている貴重な人材がたくさんいるということを、あらためて実感した。そして顧問団は『ゼロから事業を立ち上げるスリルがたまらない』という雰囲気で、懸命に取り組んでくれた」(山本)という。

2.100点満点の品質基準で 大手チェーンにも納入

ミネラルウォーター『奥大和の銘水』の発売を開始したのは12年春。前年(11年)に発生した東日本大震災の直後は全国でミネラルウォーターが品薄状態だったが、12年春には過剰に転じていた。同社が自販機ベンダーやスーパーマーケットなどに営業をかけた当初は、惨憺たる結果に終わる。
 しかし、同社の役員と社員が必死に奮闘する姿を見て、「助けてやろう」「売ってやろう」という人たちが現れた。彼らは、各業界の大手企業への販路をつないでくれた。経営姿勢と商品の品質が評価されたのだ。
 当然、大手企業は品質に対する評価が厳しい。各社から「一度、工場を見せてほしい」と要望され、現地視察が行なわれた。すでに合格基準は満たしていたが、100点満点には到達していなかったため、改善を重ね満点を目指し続けた。すると同社では解決に迷うような課題についても先方からのアドバイスにより、早急に解決できたことも数多くあった。物流体制にも助言をもらい、万全な体制を構築したのだった。
 その結果、次々に取引が決まり、その実績が新たな取引につながるという正の連鎖が始まっていく。取引先のなかには「安ければよい」という要望もあった。同社はできる限りのコストダウンで応えたが、「品質基準」だけは絶対に下げないと強く決心した。
 その後、自社ブランド『奥大和の銘水』『ミライズ』『結(ゆいのみず)』に加え、OEMによる製品供給も広がり、ミネラルウォーター事業が成長していった。それに引っ張られるようにミネラルウォーターの市場規模も拡大を続け、矢野経済研究所の調査によると、16年度はメーカー出荷金額ベースで前年度比3・6%増の2990億円と高成長を記録した。現在、同社の販路は、自動販売機、ホテル、スポーツジム、空港内売店、百貨店、スーパーマーケット、ドラッグストア、コンビニエンスストア、高速PA・SA売店などに拡大している。

3.100日プログラムが 評価され 「健康経営優良法人」に認定

同社にはミネラルウォーター事業の発展とともに取り組んでいるテーマがある。
 ミネラルウォーターと健康との関係に着目し、健康に資する活動として、ヨットレース、マラソン、トライアスロン、ウォーキングなど、数々のスポーツイベントへの協賛・協力を始めた。同時に健康に資する活動を推進するには、社員が健康でなければならないと判断し、健康診断の結果をもとに内科医の監修を得て、社員の食事・運動・生活習慣を見直して100日で健康を改善するプログラムをスタートさせた。
 第一期メンバーとして18名を選抜し、100日後に診断したところ、全員の健康状態が改善していた。その後、順次、社員が実践に入るとともに、さまざまな社内スポーツクラブを発足させた。いまでは多くの社員が自転車・ランニング・山登り・ヨガなどを通して健康づくりに取り組んでいる。
 こうした活動が評価され、2017年と18年、2年連続して、経済産業省より「健康経営優良法人」に認定された。
 さらに、この成果を社内にとどめず、地域にも広めていこう――そう考えて、本社周辺の商店街と大学の教授などと連携して、地域住民を対象に100日プログラムを実践し、着実に成果を上げている。
 もうひとつ、山本が「命題である」と強調する環境対策にも着手した。プラスチック廃棄物問題の解決に向けた取り組みである。18年10月24日、海洋汚染対策を目的に、欧州連合(EU)の欧州議会が使い捨てプラスチック製品の流通禁止を記載した規制法案を可決するなど、この問題は世界的な広がりを見せている。
 そうした動きを察知していたかのように、同社はプラスチック廃棄物に関わる研究会に参加して、生分解性を持つ素材開発の調査研究に入った。同時に自社で排出するゴミについて、最終的にどのように処分されているかの調査も始めている。

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