株式会社クリテック工業 若林 勇二

Guest Profile

若林 勇二(わかばやし・ゆうじ)

1970年生まれ。大学卒業後、人材派遣会社や出版会社で主に営業を担当。新会社の設立にも携わり、新規開拓営業も経験した。その後、代理店統括業務などを経て、父親が代表取締役を務めるクリテック工業に入社。2007年から社長に就任し、現在に至る。

特集メーカーとして施工管理まで対応 〝道路インフラの下支え〟で日本一を目指す

1.日本全国に70万橋 市場規模260億円

日本全国には約70万橋の橋があるといわれる。その橋を通るときに、騒音や衝撃の発生を抑える役目を果たしているのが橋梁用伸縮装置だ。これは温度変化による橋の伸縮を吸収するために設置されるもので、車で橋を渡っているときに感じる“カタンカタン”という衝撃は、橋梁用伸縮装置が設置されていることによるものだ。
 この橋梁用伸縮装置メーカーとして、同業他社とは大きく異なる取り組みにより、安定した業績を残しているところがある。1996年創業のクリテック工業だ。そして、社長として同社を率いているのが若林勇二。父親が社長を務めるクリテック工業に入社し、2007年に社長に就任した。
 経歴をたどれば、父親の会社を継いだということになるが、そこまでには紆余曲折があった。
「社会の役に立つ人間になれ」と厳しく育てられた若林は大学時代に法曹界への道を志す。しかし度重なるチャレンジも報われず、人材紹介会社に営業職として就職。すぐさま実績をあげ、その後、営業力を生かした起業を思い立つが、事業環境の変化もあって断念。次の就職先をどうするか、友人たちに相談して歩くなかで、異口同音に言われたのが「お父さんの会社を継いではどうか」だった。
 会社を継ぐことになれば、従業員の生活を守らなければならない。そのためには「まず、橋梁用伸縮装置メーカーとしての未来はどうなのかを知る必要がある」と考えた若林は、業界について、イチから調べることにした。その結果わかったのが市場規模は約260億円、そこをクリテック工業含め、中小20社で分け合っているということだ。約70万橋ある橋梁の補修だけでも毎年20社でこなし切れないボリュームがあり、新規建設する橋梁もある。さらに、この先、技術が進歩し、自動運転が当たり前になっても、道路そのものはなくならない。
 つまり、この市場で戦っている限り、仕事がなくなることはない。競争力を高めていけばよい。そう判断した若林はクリテック工業への入社を決める。

2.元請け、直販は教育の一環 下請け体質には染まらない

入社した当時、同社は社員数6名ほどの規模だった。社長以外はみな同じ、その環境下、若林は持ち前の営業力で、人脈頼みだった営業(紹介によるため受注確度は高いが、利益が薄い)を改め、自社の実力に見合う取引関係の構築を進めていった。以来、十数年、入社時の3倍以上の社員を抱える規模(現在の社員数は約20名)となり、以下の強みをもつ企業として評価されている。
 クリテック工業の強みの第一は、メーカーでありながら、直接施工管理まで一気通貫で行なえる数少ない会社であること。橋梁関係の新設、補修工事は、その多くが官公庁からの発注であり、ほとんどが現場のニーズを直接聞くことができないケースだ。そのため同社では、メーカーとして製品の改良・開発が必要か、現場ではどんな課題をもっているのかを自ら確かめるため、一気通貫で業務を行なっている。
 2点目が、商社を通さず顧客に直接販売していること。自社で価格を決められるので、市場に左右されることなく、最適な価格を自社で設定して販売数を確保でき、橋梁関係の幅広い会社との直接的な取引を実現している。そして3点目が、ファブレス(自ら生産設備をもたないメーカー)であること。生産工場は毎回、ほぼ決まっているが、自社工場にしてしまうと、営業と工場との緊張関係が薄くなり、品質やコスト、納期に甘くなる。それに対し、営業と工場が適度な緊張関係を保つことで、製品品質、サービス品質を高めることができる。
 最後の4点目が、元請けでの受注も取りに行くこと。通常は一次下請けとなることが多い同社だが、若林曰く、「土木関係の工事は、未だに上下関係に厳しいという古い体質が残っており、下請けでの仕事に浸りきっていると、本来、下請けがしなくてもよい仕事でも、引き受けることになる」。そこで自社が元請けとなり、下請けに仕事を出す立場を体験することで、下請けとして行なうべき業務を明確に意識できるようにするのだ。これは同社ならではの教育の一環で、同業で同じ考えで元請けをしているところは皆無だという。

3.会社の理念を共有する 社員は20代から80代まで

同社では採用にあたって、橋梁用伸縮装置についての知識はとくに問わない。入社して1ヵ月はみっちり教育研修が用意され、その後も、社員20人規模のものとは思えないレベルの各種業務マニュアルが整備されている。外部研修受け放題、改善提案会議など、同社ならではのものもある。ちなみに、新卒1期生の女性は、業界のことをほとんど知らずに入社したが、トップセールスとなり、採用担当の任を負うまでになっている。
 同社で重要視しているのが、「誠実な社員と健全な協力会社と理解ある顧客との最高の信頼関係を構築し、社会に貢献し続ける企業を目指す。」という経営理念だ。現在、同社の社員は約20名、20代から80代までの各世代が顔をそろえる。限られた人員全員が貴重な戦力として機能するためには、同じベクトルのもとに集まる必要がある。その目安がこの理念だ。
 クリテック工業では、毎年、経営計画をていねいに製本し、社員全員に配布している。上場企業を含め、ここまでして経営計画を社内で共有している例は、全国でも1%ほどしかないという。
「とくにオーナー系企業の場合、トップの頭の中だけにプランがあって、社員は蚊帳の外。しかも、あるときに『A』と言ったものが、そう日もおかずに『B』に変わるということも少なくない。それでは社員が迷ってしまう」
 そうした事態を起こさないためにも、毎年、明らかにしておく必要があると考えた。
 つねに社員第一に考える若林が現在、大きな目標として掲げているのが「業界№1シェア30%」。業界最大手が15%程度と言われている一方で、現在、同社のそれは3%にとどまっている。
「この先15年、20年かかるかもしれないが、私が代表でいるうちに達成したい。№1になるということは、社員の自信と誇りにつながる」
 クリテック工業は「明るく楽しく、末永く」をモットーに、日本のインフラの下支え日本一を目指す。

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