Guest Profile
吉岡 順元(よしおか・のぶもと)
1967年生まれ。一橋大学法学部卒業。92年大学卒業後、大手外資系コンサルティング会社に入社。大手百貨店会計システム再構築プロジェクトを経て、化学系工場の生産管理系システムの構築・導入を数多く経験した後、製造業、流通業系のプロジェクトに従事。その後、独立系コンサルティング会社の立上げに参加。国際物流やSCM案件等の他、社内のコンサルタント養成道場の場長等を務めるが、「上下流一貫したサービスを提供したい」との思いから同社を退社。それまで協働してきた仲間と2003年6月にビジネステクノクラフツを設立。現在に至る。
特集「知の共有」「強固の絆」をキーワードに人生を賭けたくなる環境を提供する
1.知的特訓を通して 「議事録作成百本ノック」に 耐えられる人材を育てる
これほど若手社員が密度の濃い知的特訓を受ける企業も珍しい。知的特訓の一つが「議事録講座」。特訓を実施しているのはITコンサルティング会社のビジネステクノクラフツである。社長の吉岡順元は議事録の役割をこう説明する。
「ITプロジェクトの成否を分けると言われるプロジェクト管理の重要性は年々大きくなっている。議事録作成は若手コンサルがPMO(Project Management Office)領域で最初に担う重要な作業であり、議事録の作成と上司のレビューによる修正に追われる“議事録百本ノック”状態に陥ることもある。我々が作成する議事録はプロジェクト遂行上の判断を行なうインプットとなるため、作成者には議事内容を客観的かつ論理的に記述する高度な文章力が求められる。議事録作成という業務はコンサルタントの技量を測る有効な手段にもなる」
議事録講座では講義と実践演習で議事録作成のノウハウを徹底的にたたきこむ。圧巻は演習で、模擬会議ビデオを視聴して議事録を作成するが、作成した議事録は講師が講義内容の理解度を定量的採点、細かい言い回しまで徹底的にレビューする。受講者は採点結果およびレビュー内容を確認しながら自身の議事録の問題点を認識する。研修で徹底的に議事録に向き合うことで本番のプロジェクトと同様の議事録作成プロセスを体感し、スキルを磨く。同社ではこの議事録講座を全社員の必修科目として受講させ、さらに教育研修メニューとして他社へもサービス提供している。
この講座で議事録作成スキルを習得することには、同社の経営コンセプトが投影されている。「あるべき姿を描き出す経営者的視点と現場業務に関する知見」「あるべき姿をカタチにできる技術力」――議事録作成は補助業務に見えて、実はコンサルティング業務の基礎をなすのだ。
2.主力業務は 大手企業のPMO支援
吉岡は大学を卒業してアクセンチュアに入社。化学系工場の生産管理システムの構築・導入や、大手家電メーカーの大規模グローバルサプライチェーン構築プロジェクトの国際物流領域のリードマネジャーなどを担当した。2000年に独立後、自社にノウハウを蓄積することをめざして03年にビジネステクノクラフツを設立した。
事業領域はコンサルティング事業、システム開発等のソリューション事業、教育研修サービスの3領域。主力はコンサルティング事業で大手企業のPMO支援である。
大手総合商社の全社輸出入管理システム導入プロジェクトでは、PMOとして新システムの構築・導入管理、社内利用率100%に向けた計画立案・推進支援を手がけた。所要期間は2年、プロジェクト予算は総額約10億円。システムベンダー含め延べ約380人が関わった本プロジェクトへ同社から4人が参画し、開発初期に検知された遅延や品質問題を解決、計画通りの本番リリースを実現した。また、生命保険会社の営業チャネルIT化推進プロジェクトでは役員がクライアント企業のプロジェクトマネジャーの片腕として参画。営業社員用PCの在庫管理・運用体制の確立、教育コンテンツの企画・政策支援、営業拠点側インフラ対応など派生プロジェクトを含めた9億円規模のプロジェクトを成功に導いた。その他、巨大特殊法人のシステム更改をはじめとした大規模プロジェクトのPMO支援を多く手がけている。
プロジェクト管理以外でもITO(IT OUT SOURCING)やシステム開発等、さまざまな案件を手がけているが、同社の特徴は立ち位置にある。案件の多くはクライアント企業からの直接受託で、複数コンサル協業が当たり前の巨大プロジェクトのPMOを除けば、大手コンサルティング会社などからの再受託案件はほとんどない。この立ち位置の利点について、吉岡はナビゲート機能の発揮を挙げる。
「クライアントは“想い”をもってプロジェクトを立ち上げている。下請けではなく、クライアントの想いに直接向き合うことができるので、想定外の事態に直面しても最善の着地点にナビゲートする自信がある」
3.思考を楽しむ社員が 際立つ成果を出し続ける
元請けの立ち位置を確保できるのは、吉岡を筆頭に役員と社員にクライアントから直接指名される逸材が揃っているからだ。過去に受注したクライアントのみならず、協業していたITベンダーからも同社のノウハウやスタンスを信頼しての案件の相談が絶えないため、営業担当者を置いていない。
管理部門を除けば社員の多くはコンサルティング職である。どの社員にも共通しているのが、論理的思考力が卓越している点であり、ことに際立つ成果を出し続けている社員は「考えることが根っから好き」という。
「人間の思考力にオンタイムもオフタイムもない。モノゴトを考える姿勢は筋トレのようなもので、基礎的思考力は非常に重要。当社では新人研修期間中、毎日、「自分が見つけた新しいこと、良いと思ったこと」についての3分間プレゼンテーション訓練をしている。毎日、新しいテーマを用意しなくてはならず最初は苦労するが、2ヵ月後には日常生活の中から自然とテーマを見つけられるようになる。漫然と日々を過ごすのではなく、常日頃からあらゆることに対して“何故そうなのか?”や“どうすればより良くなるか?”を問い続けることで自分の脳を常に鍛える習慣が身に付く」
ビジネステクノクラフツは今年(19年)で設立16年目を迎える。
「クライアントから指名されるような、ピン(一人)でも食べていけるコンサルタントに育てることを重視している。コンサルティング会社は事業規模を拡大すれば、業務品質にバラツキが生じやすいが、それを抑えるために、一人一人の基礎能力の底上げをめざしている」
これだけ高度な事業水準をめざす企業風土の中では燃え尽きる社員も少なからず発生しているのではないか。ところが定着率はきわめて高く、6年前から毎年3~4人採用している新卒社員で退職者はこれまで1人のみである。「知の共有」「強固な絆」をキーワードに、教育制度や給与水準、福利厚生なども含めて、社員が安心して人生を賭けることのできる環境を整えているのだ。