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福富 七海(ふくとみ・なみ)
1954年神戸市生まれ。85年にカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社へ入社。社長室長としてデータベース・マーケティングの最先端を経験。90年9月に株式会社ランドスケイプを設立。
特集大企業から、街の小さな個人商店まで網羅 820万件のデータベースが営業戦略を変える
1.手作業でベースを作り 変更情報も一元管理
なんといっても、ランドスケイプの強みは、820万件の企業情報データベースを持っていることだ。このデータベースは国内最大。大企業はもちろん、中小企業、社団法人、医療法人や学校法人、公官庁、組合、支店・事業所・工場・販売店、各種施設や街の小さな商店までを網羅し、さまざまな属性項目とともに保有されている。さらには、企業グループ情報、取引先情報も徹底収集。法務省が押さえている法人が400万社に過ぎないことから考えれば、いかに膨大なものであるかが知れようというものだ。
いうまでもなく、このデータベースは一朝一夕に成ったものではない。電話帳、インターネット、法務局での閲覧、その他役所・保健所等に当たっての開示情報、有価証券報告書、さらには商工名鑑をはじめとする各種業界団体名簿などのさまざまなリスト…、ありとある情報源に当たって吸いあげ、手入力によって築きあげられたという。そして、その、数だけにとどまらない大きな特徴は、情報が「一元化」されているということだ。たとえば、移転や法人名改称、会社合併などによる変更前・変更後の重複登録のない、特定的な情報検索が実現できるシステムになっている。
このマスターデータベースをもとに、同社は、2013年、満を持して、データ統合ツール「uSonar」の販売を開始した。このソフトは、社内の新旧のデータの統合、各部署間の異なる分類・管理にもとづくデータ統合、協力会社や子会社とのデータ統合などが、手間暇かけずに行なえるうえ、売上げデータやそれぞれの企業属性が付与されているため、包括的、より量的・質的に深化した情報が得られることになる。
しかも、情報は、常に高精度なクレンジング・名寄せ技術に裏づけられた自動メンテナンスによる最新のものとなっている。顧客管理、グループ与信やマクロなリスク管理も可能。また、営業の重複や漏れを把握できるばかりか、ターゲット企業の探知が容易で、そのため、uSonarは、強力な市場開拓支援システムと言い換えることもできる。
このソフト販売により売上げは増大、現在、同社売上げの25 %を占めている。
2.人から印象の悪い業界にチャンスあり
同社の代表取締役社長・福富七海は、ローソンを経て、創業間もないカルチュア・コンビニエンス・クラブに入社、1990年にランドスケイプを設立した。前職で得たことは多いが、なかでも最大の収穫は、「一見、人からの印象の悪い業界を狙うのがいい。そこには大手参入もない」(福富氏)という考え。彼は、その道を迷わず選び、成功したというわけだ。さらに、福富哲学として重要なのが、「非ひきょう競」。要するに、他社と競争せずに自社を発展させようという考え方だ。共存の思想であり戦略でもある。
実際、大企業のデータが中心になる同業の大手と異なり、ランドスケイプは、小規模な会社のデータや資本系列にひもづけされた支店・販売店の詳細情報が充実している。また、本来競合となるはずの、オラクル、マイクロソフト、ソフトブレーン等、大手ソフトウエア企業との連携も可能となり、それが業務内容の拡充に活かされている。自社がとくに優位に立てないような機能はそぎ落とし、他社との提携を活用する発想だ。
2000年の米国最大のデータベースを誇るアクシオム社との業務資本提携は、インテグレーションの質と効率を高める飛躍台になったという(05年に関係解消)。「ノウハウと思想を学んだ」(福富氏)。
近年、同社が力を注ぎ始めたのが、「u名刺」。名刺を撮影するだけで即データ化、営業に必要な企業情報が瞬時に届くという業界初の名刺管理アプリ。営業マンの必携アイテムになるかもしれない。
3.今後の事業の柱を期待 210万件の富裕層データ
さて、企業情報についてばかり述べてきたが、実は、ランドスケイプは、日本人口の約75%をカバーする9500万件の消費者情報データベースも保有している。これらの活用は、同社の財産であり、今後の発展のカギともなるだろう。
現在すでに、居住地・職業・属性の三つを組み合わせて全データから210万件の「富裕層」を抽出。これをラグジュアリーブランドに提供するビジネスに乗り出している。一方、先方から預かったデータを解析し、富裕層視点のプライオリティをつけて戻すことも行なっている。この、富裕層マーケティングソリューションビジネスは、いまはまだ同社売上げの10%に過ぎないが、今後の可能性は大きい。
また、福富が将来的に構想しているのは、保有する膨大なデータを活かした「出店予測マップ」。従来、飲食、流通、サービス等チェーン展開をする企業の出店計画は統計データのみに頼っている。それを、次のような方式に進化させようとしているのだ。曰く、顧客データベースに既存の統計データを合体、それに建物情報、記事・事件から収集する個人情報、イベント等を中心とした法人情報を加え、検索エンジンを投入、分析とシミュレーションを行なった地理情報に反映するというものだ。
「この手法ならば、売上げ予測の精度も高い」(福富氏)
「情報は企業を自由にする」をモットーに成長してきた同社の伸びシロは、さらに大きいと見た。