Guest Profile
飯田 裕(いいだ・ゆう)
1955年3月生まれ、同志社大学を卒業後、大東京火災海上保険株式会社(現あいおいニッセイ同和損害保険株式会社)に入社。27歳の時にアイケイ商事有限会社(現株式会社アイケイ)を設立し、取締役に就任。35歳のときに同社代表取締役社長就任。
特集創業30年でも燃え続けるベンチャー魂、基盤は”毎朝の30分”
1.社長が面接で質問する3つのポイント
化粧品や健康食品などの通信販売でメーカーベンダー(製造・卸しの一体化)業態を築いた東証JASDAQスタンダード上場のアイケイは、他社の経営者たちから「社風が変わっている」と言われるという。
「私はそうは思っていないが……」
創業以来、良き社風づくりに取り組んできたと振り返る社長の飯田裕は、異を唱えながらも他社の感想を集約して「アイケイらしさ」を6項目に明文化した。これが社員採用のベースにもなっている。
採否の最終判断は同社の社風に波長が合うかどうか。突き詰めれば、社風をつくってきた飯田に波長が合うかどうか。飯田は社長面接で見極めている。
まず6項目の一部を紹介しよう。
①社員全員が一つのチームであり、全員がそれを知っていること。だから勝つのも全員一緒。②反抗と冒険と新しい企てをする自由が保証されていること。だから、一人ひとりが自立していて、仕事はいつもプロはだし。③自分たちのポリシーを何よりも大切にすること。だから、自分たちのやり方で常に挑戦し続けている。④地球の未来には、アイケイのような会社が必要だと真剣に考えていること。だから、ビジネスと地球環境との両立を目ざしている――。
同社の設立は1982年。業歴はすでに30年を超えるが、いまもなおベンチャー企業の気風を重んじていることが、6項目に顕著に反映されている。この項目に合致する人材を選別するために、飯田は面接でさまざまな質問を投げかけて、3点をチェックしている。
第一に、人を愛するマインドを持っていること。飯田は強調する。
「世間には会社経営に愛など必要ないという意見もあるが、そうは思わない。人を愛することは国を愛し、故郷を愛し、地域を愛し、家庭を愛することといっしょだ。一人でなく、チームを組んで成果を上げる当社の経営方法には必要な資質である」。
第二に、社会的な常識や理性を持っていることで、アイケイではこれを「規律」と呼んでいる。学生時代から束縛されることを嫌い、自由を好んだ飯田は、アイケイでも可能な限りルールを設けず、自由に働ける土壌を築いてきた。
「自由は成長のエンジンであり、ルールでがんじがらめにしたら社員は成長しない。しかし、自由を与えるには社員に自分をコントロールする理性が必要だ」(飯田)。
そして第三に、自分で考え、自分から動くクセを持っていること。これは社会人の基本だが「小学生でも自分で考えて行動する子がいるし、社会人でもできない人がいる」と飯田は喝破する。
2.毎日社長自らが鍛える「経営者の思考回路」
この人材観は、社員教育にどのように現われているだろうか。
かつて同社は、いくつかの大手経営コンサルティング会社にかなりの報酬を支払って、社員教育を委託していた。研修前に飯田は担当コンサルタントと綿密に打ち合わせて、カスタマイズした内容に仕上げたが、いざ研修に立ち会うと一般論の講義に終始する有り様だった。
どのコンサルタントも同様だった。飯田は「受講後の社員たちは会議室から出て一歩、二歩、三歩と歩いているうちに、研修内容が頭のなかから消え去っていた様子だった(笑)」と回想する。
優れたコンサルタントはクライアント企業の経営者以上に、社内の問題点に思考を巡らせるものだが、そんな人物は滅多にいない。研修は浪費に終わったと言っても過言でないだろう。
この経験を踏まえて飯田は、アイケイを設立して3年目の30歳のときから現在まで、30年間自ら実践していることを人材育成に取り入れた。それは、毎朝30分、仕事についてじっくりと思考することである。
飯田は毎朝5時30分に起床し、自らコーヒーを淹れ、日本経済新聞を読んで日々の動向を確認しながら今週、1ヵ月後、1年後、3年後と時間を追って、やるべきことを考えている。この行為は経営者型の思考回路を鍛える効能を発揮するという。
経営者型の思考回路とは「状況に応じて、行き当たりばったりではなく最適な判断を下す思考回路で、経営者にとって最も重要な能力だと思う」(飯田)。実際、夢に出るほどまでに毎日考え抜いているうちに、答えが見つかるようになった。思考が閾値を超え、回答を導き出したのである。
3.社員の自主的研究会に半数が参加
アイケイでは部長職以上の全員に毎朝30分の思考が義務づけられているが、一般社員も少なからず実行している。一般社員の場合、3年間継続すると実行しない社員に比べて明らかに差が出るという。たとえば会議で「よく考えているな」「まるで経営者のようだ」と唸るような発言をするレベルに進歩しているのだ。
さらに昨年から、社員の自主活動として研究会を発足させた。有志が5人集まれば発足できる制度で、次世代リーダーの育成、輸出入、PRの3チームが月2回会合を開き、半年をワンクールとしてレポートを提出する。
毎回の会合で作成される議事録は取締役全員にメールで送信され、それぞれにコメントが返信される。外部講師を招聘する場合は、費用を会社が負担する。アイケイの社員数は約250人だが、そのうち半数前後が活動に参加するほど浸透した。
新入社員にも研究を促している。今年4月には7人が入社したが、7人に「おもてなし課」と名づけたバーチャルな部署を組成させ、経済産業省が主催する「おもてなし経営企業選」への入選を目標に与えている。
こうして飯田が求める自分で考え、自分で動くという資質は鍛錬されている。大手中小を問わず多くの企業が起業家型社員の台頭を渇望して久しいが、アイケイの取り組みは、ひとえに確実性が高い。