株式会社プリローダ 大西千晶

Guest Profile

大西千晶(おおにし・ちあき)

1990年、大阪府生まれ。神戸大学発達科学学部に進学。さまざまな活動をするなかで農業と出合い、在学中の2010年、NPO法人「未来を耕す会」と株式会社プリローダを設立。12年には、京都造形大学で地球環境をテーマにした「未来EXPO」を開催、関西の学生を中心に700人が集まる大イベントとなった。未来EXPOは現在も継続され、毎年1回催されている。

特集3K農業を、稼げて、希望が持て、皆が喜べる農業に変えたい

1.食料自給率が低い日本、諸外国に依存する現状を改善しなければならない

「2050年には地球の人口は90億人に達するといわれています。現在でも食糧危機が叫ばれていますが、このままでいくとその状況はさらに深刻になるのは必定です。食料自給率が低い日本の場合、人口が減少傾向にあるとはいえ、将来を考えると、諸外国に依存する現状を改善しなければなりません。そんな危機感から“いまやらなければ”とプリローダとNPO法人とを立ち上げました」と熱く語るのは、株式会社プリローダ代表取締役の大西千晶さんだ。NPO法人・未来を耕す会の理事長も兼務する。

2.「自然が一番の道」を意味するプリローダ

 未来を耕す会が農作業を行ない、プリローダはその農産物の販売を担う。現在、未来を耕す会が管理運営している農場は耕作放棄地などを借り受けたもので、京都府内に2カ所(亀岡市馬路町、南丹市園部町。合計約4万2000坪)ある。無農薬の有機農法による露地栽培を基本とし、米をはじめトマト・キュウリ・ナスビ・ニンジン・白菜など、季節に合わせて種々の野菜を生産している。

 農場の専従員は3名。園部農場に隣接する場所にプリローダが空き家を借り上げ、専従員たちはそこで暮らす。田植えや草刈り、稲刈りといった多くの人数が必要なときは、体験型のイベントを開催し、参加者を募る。2013年の稲刈りのときには180人が参加した。その多くが学生や社会人になって数年以内の若者だ。

「園部農場のある地域は、まだ限界集落ではありませんが、確実に過疎化が進んでおり、農業従事者のほとんどが高齢者です。農業は若い人たちが引き継いでいかなければ、間違いなく衰退していきます。また、自然と共生する暮らし方を忘れてしまうと、これから先も自然環境は悪化していく一方です」

 社名のプリローダ((Priroda)には自然という意味がある。かつ「プリ(pri)は一番」、「ローダ(roda)は道」でもあり、「自然が一番の道だ」との想いを込めて大西さんは社名を決めたという。

3.流通に乗らない無農薬野菜でベビーフーズを研究開発中

「2010年にハーバード大学から発表されたレポートによると、たとえ低濃度であっても農薬を使って生産された農産物と、発達障害の子供たちとの間には何らかの因果関係がある、ということが示唆されています。食の安全確保は、いまの私たちにとってだけでなく、未来を考えるうえでも大切なのです」

 しかしながら、無農薬の有機農法、露地栽培といった環境に負荷をかけない農業は、現代のように何かと効率性を重視する生産方式とは対極にあり、そのうえ、農薬を使わない分、害虫対策や雑草処理などの手間もかかり、生産効率はけっして高いとはいえない。農業経営という面からも厳しい状況にある。

「プリローダの役割は、経済的にも豊かに暮らしていける農業を創出するための仕組みづくりにあります。無農薬の農産物に対する消費者からのニーズは日に日に高まりつつあり、3K(きつい・汚い・危険)の代名詞が付いた農業を、希望が持て、稼げて、皆が喜べる農業に変えることができると思います」

 同社では環境に負荷をかけない農業の推進と流通量の確保を目的に、地元をはじめ各地でプレゼンテーションを行ない、現在、京都・滋賀・大阪で8軒の農家と契約。自社ECサイト「Bio Vege(ビオベジ)」を通じ、野菜のセット販売を展開するほか、お米については一般企業への販売ルートを開拓した。

 農家の安定経営を考えるうえで加工食品の開発にも積極的に取り組んでいる。

「自然を相手にする農業では、形の悪いもの、収穫期を逃してしまったものなど、流通に乗りにくいものが必ず出ます。ましてや無農薬の露地栽培となると、日焼けや虫食い野菜なども多くなります。そこで、他の企業と連携して、見た目はよくないけれど栄養価の変わらないそれらを使ったベビーフーズを研究開発中です。2年後の商品化を目指しています」

4.子どもたちに農業体験を学習塾との連携計画も

 農業という職業の大切さのアピールや、無農薬の農産物を普及させるための活動にも積極的だ。たとえば、安心して農業に従事できる環境づくりや耕作放棄地の解消など、既存制度の壁を崩すための行政への働きかけも大西さんが先頭に立って行なっている。現在、都会のど真ん中に1000~3000坪規模の農場を運営する方法を模索しており、計画の立案や各種交渉に日々忙しい。

 また、未来へ向けての布石も忘れてはいない。

「まだ計画の域を出ていませんが、学習塾と連携して、子供たちに農業体験を通じて自然や農業の大切さを伝えたいと考えています。学校で学んでいる理科や算数が、実は農業にも活かせるということを理解してもらえるような内容にできればと思います」

 プリローダの主力は農業関連事業だが、並行して和装関連事業も展開を始めた。「和装文化を未来へしっかりと伝えていきたい」という大西さんの熱い想いによるものだ。例年約3万人を集客する若い女性向けのファッションショーに「関西コレクション」があるが、このイベントにおける和装コンテンツの制作一式を同社が担当している。

「未来のことを考え、こうしたほうがいいのではと思うことを即決、行動に移す。これが大切だと思います。とくに農業は食に直結するだけにその重要度は高い。いままでの農業のやり方を知らないからこそ、思い切ってできることがあるでしょう」

 また、農家の人たちが代々農業とともに受け継いできた自然との関わり方についての知恵や知識も、大西さんたち若い世代が学び取り、次の世代にも伝えていきたいという。

「こうした活動も、私たちの子ども以降の世代が、安心して暮らせる社会づくりに役立つと考えています」

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