Guest Profile
出雲 充(いずも・みつる)
1980年広島県生まれ。2002年東京大学農学部農業構造経営学専修卒業後、株式会社東京三菱銀行入行。03年株式会社ドリームキャリア取締役に就任。05年ユーグレナを創業し代表取締役に就任。金融庁金融審議会専門委員。著書「僕はミドリムシで世界を救うことを決めました。」(ダイヤモンド社)
特集「あたま」の実践を周知し、チャレンジを応援する文化を醸成
1.求める人材の要件は、一番になることに情熱を注いだ人
昨年12月のことである。ユーグレナという不思議な名前の会社が東証マザーズに上場し、その社名ゆえに、話題を振りまいた。
ユーグレナとはミドリムシの学名で、同社はそのミドリムシの屋外大量培養に成功し、商品開発を行なうバイオベンチャーである。社長の出雲充は33歳。その若さにも注目が集まったのかもしれない。
年間売上高は2012年9月期に15億8500万円、純利益は1億9700万円を計上したが、今年9月期にはそれぞれ20億5500万円、4億5000万円となる見通しだ。
同社は、ミドリムシが光合成で二酸化炭素を吸収して成長する特性に着目。「炭素循環社会の創造」を目指して燃料や食品、機能性食品、化粧品、飼料などへの活用に取り組んでいる。
構想が遠大であるだけに研究体制は重層的だ。
東京大学や大阪府立大学などと共同研究を行なう一方で、それぞれの分野で他社との開発研究も推進している。バイオ燃料開発でJX日鉱日石エネルギーと日立製作所、環境浄化技術開発で清水建設、食品流通で伊藤忠商事、化粧品開発で日本コルマーという体制だ。株主としてANAホールディングス、電通、東京センチュリーリースが名を連ねる。
だが、現時点で商品化しているのは食品が中心で、売上高の大半を占める。社長の出雲充は「2020年までは食品が大半を占める計画だ」と述べる。
2020年以降には前述したバイオ燃料などが展開するということを暗に示しているのだ。現在研究開発に注力している。
同社の社員数は45人で平均年齢31歳。未知の領域に挑み続けるベンチャー企業らしく「5GUTS」と題する人材観を掲げている。①常識と戦う度胸はあるか②自分を信じ抜く度胸はあるか③あらゆる可能性を受け入れる度胸はあるか④どんな苦境をも、笑い飛ばす度胸はあるか⑤社会に、仲間に、そして家族に、夢を語る度胸はあるか。
だが、出雲に確認すると「人間には元気なときと、そうでないときがあります。だからガッツのない人は仲間でないという趣旨ではないのです」という。
同社の企業ビジョンは『バイオテクノロジーで、昨日の不可能を今日可能にする』というものだ。これに共感し、ともに行動できる人を迎えたい。これが真意だ。 そのうえで同社は、どんなことでもいいから一番であると自負できる人を求めている。サプリメントの販売なら自分が一番、広報なら自分が一番など一芸に秀でていて、一番になることに情熱を注いできた人を求めているのだ。
「上場後はユーグレナの知名度が上がったこともあり、スキルの高い人材がどんどん入社を希望してくれる。さらに地球規模でビジネスを目指していることから、語学力が高い人材も多い」
2.単なる成功だけでなくチャレンジして失敗を評価
こうして確保した人材の潜在能力をいかにして引き出しているのか。失敗を恐れずに果敢にチャレンジするという方針は多くのベンチャー企業と同様だ。
同社の特徴は評価の順位にある。通常、①チャレンジして成功②チャレンジして失敗③チャレンジしない——という順で評価されるが、出雲は違う。
「チャレンジして成功が一番という評価の仕方には、成功しろというプレッシャーが仕組まれている」
③については同社も同じだが、①と②の順位が入れ替わる。チャレンジして失敗しても頑張った、成功したら儲けもの。そう判断して、失敗を頭ごなしに否定しないのだ。
「石油化学コンビナートを建設するとか、数千億円をかけて半導体の工場を作るのなら、一発必中でなければならないでしょう。当社はもちろん株主の皆さまのお声にこたえながらも、小さな失敗なら、いろいろな経験を積んでその後の成功に生かす。例えばミドリムシの実験を進める上で失敗することに萎縮して、新しいことを実行しないことが一番のリスクなんです」。
失敗を全否定しないカルチャーを評価方法で担保していると言えばいいだろうか。
加えて、出雲がことのほか重視しているのは社員のメンタルである。考え方はシンプルだ。
明るく、楽しく、前向きに働いても、暗く、苦しく、後ろ向きに働いても、仕事の量は変わらない。だが、質においては雲泥の差が生ずる。また、暗い職場に入れば明るい人でも暗くなってしまうが、暗かった人でも職場が明るければ明るくなる。
そう考えて、社員に「あ(明るく)た(楽しく)ま(前向きに)」を求め、毎週の全社朝礼で繰り返し話しているという。
この教えはともすれば精神論に傾斜しがちだが、同社は評価に取り入れて、定着を進めているという。この評価では年2回、定性評価、定量評価、目標達成の観点で評価を行なう。
「あたま」を実践すれば、多くの仕事をこなせるようになり、それが目標を達成させるというスパイラルを形成すると考えて、策定した評価方法である。
出雲のこうした人材育成方法は、あるいは前職である銀行時代のアンチテーゼかと思わせられたが実はそうではない。むしろ応用しているのだ。
「当社の経営方法は銀行で学んだものを応用しています。私ほど銀行のマニュアルを熱心に読む行員はいないと言われました。まさかミドリムシのベンチャーを立ち上げることが目的とは、誰も思っていませんでしたが(笑)」
出雲は明るく、表情が豊かで、声も大きい。「あたま」の実践を率先垂範して、次の成長段階へ向かっている。