スカイマーク株式会社 市江 正彦

Guest Profile

市江 正彦(いちえ・まさひこ)

1960年生まれ。82年に東京大学法学部を卒業し、日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)入行。13年取締役常務執行役員。15年9月、15年1月に民事再生を申し立てたスカイマークの6代目社長に就任。16年3月に再生手続きを終結させ、17年3月期には黒字回復を果たした。

特集民事再生により社長に就任。搭乗率アップ、定時性向上、業績回復で2020年9月までの再上場をめざす

1.航空業界の健全な競争には 第三極の存在が不可欠

日本の航空業界で健全な競争原理を機能させるには、全日本空輸(ANA)と日本航空(JAL)以外に第三極の存在が不可欠である。スカイマーク社長の市江正彦さんはそう確信している。その第三極の立ち位置を固めようとしているのが他ならぬスカイマークで、2020年9月までに株式再上場を果たす計画を推進中だ。
 スカイマークの設立は1998年。低価格モデルの航空事業として耳目を集めたが、2015年1月に民事再生法の適用を申請し(16年3月に再生手続き終結)、同9月に日本政策投資銀行常務だった市江さんが社長に就任した。17年3月期、同社は4期ぶりに黒字に回復した。
 民事再生時に同社にはANAホールディングスの資本が導入されているが、市江さんはこう持論を述べる。
「日本の航空会社はANAさんかJALさんの系列下に再編されてきて、純粋に独立系といえるのは鈴与グループのフジドリームエアラインズさんぐらいではないだろうか。ANAさんとJALさん以外に第三の存在がないと、価格のヒエラルキーが固定化して価格競争が起こらない。価格競争は社会のために必要である」
 市江さんの社長就任以降、同社の業績は着実に上向いている。機内の満席度を示す搭乗率は14年度までは70%に満たなかったが、15年度に76・4%、16年度に84・2%、17年度は84・4%にまで上昇した。17年度決算では売上高828億円、営業利益71億円を計上した。

2.5分早く搭乗する習慣を定着 定時運航率は国内ナンバー1

市江さんが注力した経営改革のひとつは、定時出発・定時到着の定時性向上である。
「到着時間が1時間遅れると怒り出すお客様もいる。私もサラリーマン時代、運賃が安くても遅れる飛行機には乗りたくなかったからよく分かる。また、機体に欠陥が見つかった場合は、修理に早くても数十分はかかるし、欠航も起こり得る。たとえば日本海側の運航では雷が当たりやすいという気象リスクを想定しなくてならない。
 従って、欠航を回避し定時出発率を向上させるためには、予備機を確保しておく必要がある。当社は27機を保有しているが、1機を予備機として羽田空港に確保している。当社の場合、1機あたりの売上げは年間三十数億円になるが、その分だけ売上げが減少したとしても予備機を確保しておくべきだと考えた」
 16年10月に定時性向上対策本部を設け、市江さんが自ら本部長に就任して、覚悟を示した。すると出発15分前の搭乗が義務付けられていたパイロットと客室乗務員(FA:フライトアテンダント)は、遅くとも20分前に搭乗するようになったという。
「5分早く搭乗する習慣の積み重ねが定時性の向上につながった。疲れているときやプレッシャーを受けたときに、万が一の油断が生じやすい。私は全社員に『迷ったときには安全性、定時性、経済性の順番で判断しなさい』と周知徹底している」
 14年度に約80%だった同社の定時出発率は、国土交通省航空局が発表した17年度の「国内線定時運航率調査」で93・06%と算定され、国内の航空会社12社のうち1位にランクされた。
 この成果を導いた原動力には、市江さんが明示した判断基準に加えて、情報共有体制の構築が大きく寄与したのだろう。毎日の「朝会」には、市江さんから支店長までの役職者が出席している。支店長はテレビ会議での出席だが、その場で各支店から前日の定時出発・定時到着が発表され、会議を重ねるうちに各支店が定時運航率を競い合うようなったという。しかも、朝会の議事録はイントラネットにアップされ、全社員がスマートフォンで閲覧できる。全社を挙げて定時性向上に取り組む流れが形成されているのだ。

3.「DUMBOシステム」で 情報共有 現場力で顧客満足向上を実現

情報共有は顧客満足向上にも役立っている。FAは全員がiPadを携帯し、利用客の発言をその都度アップして共有している。この取り組みは耳をダンボにして聞くという趣旨もあり、「DUMBOシステム」と名付けているそうだ。さらに昨年(18年)9月から機内アンケートもスタートさせた。
「ある空港で発生したことは他の空港でも発生し得る。DUMBOシステムで現場を見える化した。サービスではお客様が手荷物を棚に納める作業をサポートしたり、出発が遅れているときには『あと何分で出発します』とアナウンスすることなどが基本ではないだろうか。この基本がしっかりと根付いている現場力が当社の強みだと思う」
 安全性の強化に向けては、専門家を招いて「誉める達人研修」を実施して、社員のコミュニケーションスキルを磨いた。コミュニケーションの齟齬はヒューマンエラーの原因になりやすい。市江さんは強調する。
「安全を守るには正しいコミュニケーションが取れて、ルールのしっかりした会社にしなければならない。そのためには風通しを良くして、何か問題に気づいた人が相手に指摘してあげること。これは責務であり、忖度は不要だ」
 今後、着目したい施策は国際便の運航スタートである。今年(19年)春ごろに成田・サイパン間のチャーター便を運航させ、夏に定期便の運航を開始する計画だという。
 15年に現経営体制が発足して約3年。市江さん率いるスカイマークは劇的に変化を遂げている。

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