株式会社AOI Pro 藤原次彦

Guest Profile

藤原 次彦(ふじわら・つぎひこ)

東京都出身。栄光学園高等学校を経て、1988年日本大学芸術学部映画学科を卒業。1990年、葵プロモーションへ入社するとCMプロデューサーとして数々の話題作を手がける。2004年には同社取締役に就任。その後入社20年目の2010年4月、44歳で代表取締役社長に就任する。 趣味のゴルフではハンディキャップ3の腕前。

特集老舗の大手広告映像制作会社 異例の高成長を支える前向き「イエスマン」志向

1.異例の成長で中期目標は前倒しで達成?!

 不況の広告業界で異彩を放って成長している会社がある。

 老舗広告映像制作会社AOI Pro.である。同社は今期(2013年3月期)、当初230億円だった予想売上高を258億円に上方修正した。17年3月期に売上高300億円を目標に掲げた中期経営計画を前倒しで達成しそうな勢いである。

 同社は1963年10月設立。90年に株式を公開し、00年には東証一部に上場を果たしたが、07年3月期以降、売上高は150億円を挟んで足踏み状態となっていた。

 それを打破したのが、10年4月に社長に就任した藤原次彦だった。東日本大震災で広告業界も大打撃を受けたが、同社の売上高は10年3月期の141億円を底に、159億円、216億円と上昇し、今期に至っている。

 こうした実績を目の当たりにすると、藤原がどのような手を打ってきたのか、気になるところだ。

「広告映像の制作現場で練り上げてきた私の仕事に対する考え方をまとめた〝AOISM〟が社員に浸透し、成長してきたことが大きいと思います」と藤原は語る。

 そのAOISMとは何か。藤原が7つのキーワードからなるAOISMを発表したのは社長就任の挨拶のなかでのことだった。

2.すぐに返事をするだけでライバルの8割には勝てる

 総勢600名ほどの社員を前に、まず藤原が発したキーワードは「史上最強のイエスマンになれ」だった。イエスマンというと、こびへつらいや何でも二つ返事で引き受けるようなマイナスイメージが強い。だが、藤原の説くそれは違う。

「イエスと言って、できないのは論外。かといってノーでは何もできない。また『やれることはイエス、できないことはノーと言える判断力』を問う人もいますが、それでは普通の人の領域を超えられません。そこで何事に対してもイエスと答え、すべて実行していけば、ライバルとの差別化が図れ、史上最強のビジネスマンになれるのです」

 まだ制作のアシスタントだったころ、藤原は先輩プロデューサーの「できません」「それは無理です」という返事を聞いて、残念そうな表情を浮かべる顧客の姿を何度も見た。結果、その顧客から仕事の依頼は二度と来なかった。

「だったら自分は絶対にノーと言わない」と藤原は決意し、27歳で同社の史上最年少プロデューサーに昇格してから実践し続けてきた。

 もちろんイエスを言う相手は、自分たちを選んで仕事を回してくれる顧客に限ってのこと。もしも難しい要望だったら、「検討する時間をください」といったん引き取り、どうしたら要望に応えられるかを徹底的に考え抜く。どうしても無理なら、要望に近い代替案を提案する。その繰り返しのなかで顧客との信頼関係が構築されていく。そうした史上最強のイエスマンになるためのポイントが残る6つのキーワードだ。

 その筆頭が「スピード・コミュニケーション」。

 電話にせよ、メールにせよ、連絡を受けたらすぐに返事を出す。遅くても3時間以内が原則だ。

「忙しいなら『後で電話を入れます』という一言でも構いません。それだけで相手の方は安心します。なしのつぶてでは不安がらせたり、無視されたと誤解されてしまう」

 現場のプロデューサー時代の藤原は徹底していて、寝る時も携帯電話をマナーモードにしてパジャマのズボンに挟んでいた。

「すぐに返事をする。たったこれだけのことで、ライバルが10人いたら、そのうち8人には絶対に勝てるようになれます」という藤原の言葉は説得力に満ちている。

3.大きな目標ではなく身近な目標を立てる

 次のキーワードは「絶対的実行力」と「ブレまくれ」。前者は自分が言ったことは、どんな小さなことでも必ず実行すること。後者は自分自身の軸を持ち、どんな強風でも倒れない柳や竹のように、しなやかに対応するということだ。
 また「テンションからモチベーションへ」というキーワードも。

 初めから大きな目標を立てるのではなく、身近な小さな目標を立て、それを達成していくことの重要性を説いている。

「仕事を頑張ってボーナスをアップし、時計を買うというような軽い気持ち、つまりテンションでいい。その積み重ねが、モチベーションへとつながっていきます」

 そして、残る2つが「随所に主となれ」と「毎日がプレゼンテーション」である。

 同社の制作現場には60人のプロデューサーがいて、そのうち稼ぎ頭の〝スタープロデューサー〟はほんの一握り。だが藤原は、それを目指す必要はないと説く。

「会社組織には管理や事務などいくつもの部門が存在していて、一人ひとり必ず主役になれる場所があります。自分の得意な場所を探し、そこで頑張ればいい」

 プレゼンテーションも顧客に対するものだけではなく、上司への報告や社内での稟議も実は重要なプレゼンテーションの場。なぜこれが必要なのか。気合をいれながら自分の言葉で説明をすることが、プレゼンテーション能力をもアップさせていく。

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