株式会社日本M&Aセンター 分林保弘

Guest Profile

分林 保弘(わけばやし・やすひろ)

1943年生まれ。立命館大学経営学部卒。日本オリベッティ入社、同社会計事務所担当マネージャーを経て、91年日本M&Aセンター設立、翌年代表取締役社長に就任。「会計事務所」「地域金融機関」「商工会議所」等の情報をマッチングするプラットホームの概念を提唱し、中小企業M&Aの社会的意義を理念として確立。2006年10月に東証マザーズ上場、翌年には東証一部上場を果たす。日本における中堅中小企業のM&Aの第一人者として活躍中。10年より東京商工会議所議員も務める。

特集マーケットの縮小、後継者難の時代。強い会社はこうして目指そう

1.企業環境が激変! 大手も中小も動き始めた

 昨年の東日本大震災以降、大型M&Aが相次いでいることにお気づきの方も多いと思います。丸紅は米国の大手穀物商社を買収し、世界2位の穀物卸企業になりました。三井住友海上はインドの大手保険会社に出資、アジア進出を加速させています。
 海外進出の事例ばかりではありません。家電量販業界ではビックカメラがコジマを、ヤマダ電機がベスト電器を傘下に収め、合従連衡が進みました。食品業界ではアサヒグループHDがカルピスを買収しました。
 こうした動きの背景にあるのは、わが国における人口減少です。いわゆる「内需」の多くを構成する15~64歳の生産年齢人口は、今後50年間で8173万人から4418万人へと、約5割も減少することが見込まれます。


売上高1~2億円企業も再編の渦中に
 これだけ国内のマーケットが縮小するのがわかっていれば、打つべき手は明らかです。市場がある海外へ出ることです。
 いまや自動車、電機、素材、機械など主たる製造業の企業は、売上高の約8割を海外で稼いでいます。かつては内需型企業と言われた、資生堂、ユニチャーム、キッコーマンですら、4~5割は海外からの売上げになっています。
 一方、国内市場に拠るしかない業態では、集約化によって規模の確保を図っています。百貨店、スーパー、食品、住宅、旅行……、今後はあらゆる業種で大手2社ないし3社が高いシェアを占める寡占化が進んでいくことでしょう。
 もちろん、中小企業も例外ではありません。当社が支援したM&Aは、直近6年間の売上げベースで約3倍に増えました。この中には売上高1~2億円、社員10~20人の企業も含まれています。まれに、すでに再編のピークが過ぎてしまった業界で「売ろうにも買い手がなかなかいない」例(タクシーや酒卸業など)もあるのですが、ほとんどの業種では、まさにこれから、生き残りを賭けた再編の大波がやってくるのです。

2.経営者の力量が今後の業績を左右する

 非上場企業には今後、M&Aを選択するしかない事情もあります。それは経営継承の問題です。
 帝国データバンクが国内40万社を対象に実施した調査により、実に65・9%の企業に後継者がいないことが判っています。売上高10億円以下の企業では、その数は70%にも達します。経営者の平均年齢はすでに60歳になっており、状況は切迫しています。
 先日、非上場企業を経営する知人が急病に倒れました。幸いにして回復し職場復帰できたのですが、その際「自分にもしものことがあれば、専務を後継者とするよう言っておいた」というのです。本人は安心したつもりになっていたのでしょうが、残念ながらこの承継は現実的ではありません。
 なぜなら、彼の経営する会社には70億円の借入金があり、創業者である彼が自らの資産を担保として債務保証をしているからです。非上場企業の後継者になるということは、こうした債務保証も引き受けるということです。専務にその覚悟があるでしょうか。また債権者である銀行は、それを認めるでしょうか。
 となると、現実的には担保となっている資産の相続人でもある親族しか、企業を承継できないことになります。とはいえ、それが会社や従業員、そして親族の方にとって最善のシナリオであるかは、また別問題です。

 最善の事業承継方法を選ぶ のが経営者の最大の責務
 後継者となる親族は、自分の好きな道・得意な道を選び、勝ち残り、成功した創業者とは違います。
 仕方なく――と言っては語弊があるでしょうが、創業者の親族であったがために経営者候補の重責を担わされるわけです。しかも、国内市場の縮小により経営環境はますます厳しくなるわけですから、最低でも創業者以上の手腕がなければ、会社を伸ばしていくことは困難です。非常に酷な話です。
 かといって会社を清算することになってしまえば、従業員は職を失うことになりますし、取引先にも迷惑がかかります。これまで築き上げた資産も、破棄しなければなりません。トップとしては最も苦しい結果ではないでしょうか。

 企業の未来は〝トップ1人〟の経営能力、すなわち「決断力」「人間関係」「実行力」で、いかようにもなります。厳しい環境変化を逆にチャンスとして、勝ち残り、発展させていくこともできるのです。時代の変化に対応し、最善の事業承継方法を選択することは、経営者の最大の責務です。長期・中期の企業戦略を考えるとき、M&Aは最も有力な選択肢となります。

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