Guest Profile
河野 貴輝(かわの・たかてる)
1972年、大分県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、伊藤忠商事株式会社為替証券部入社。日本オンライン証券(現・カブドットコム証券)、イーバンク銀行(現・楽天銀行)の立ち上げプロジェクトに参画し、ITと金融の融合事業を手がける。イーバンク銀行で取締役営業本部長等を歴任した後、2005年8月、株式会社ティーケーピーを創業。11年、TKPガーデンシティ品川(旧ホテルパシフィック東京1F宴会場)の運営を開始。ニューヨーク、上海にも進出を果す。現在、全国1,288室、93,438席(2014年3月現在)を運営する業界のリーディングカンパニーである。
特集「安くなった事業用インフラを使い、高い付加価値を生み出すキャピタルゲインの発想を持とう」
1.供給過多になり市場の縮小均衡が図られない場合、価格競争による地盤沈下
2012年から13年にかけて、都心部を中心にオフィスビルやオフィススペースを持つ複合商業施設の開業が増加傾向になります。これにより、事業用インフラのさらなる供給過多が懸念され、商業施設やオフィスビルの空室率上昇が不動産業界では懸念されています。震災後の心理的影響もあって、新しいビルには入居者があふれ、その一方で古いビルには空きスペースが増えていきます。この傾向は、市場原理として当然なことです。
一般論ですが、供給過多になり市場の縮小均衡が図られない場合、価格競争による地盤沈下が起きます。現在のオフィスビルや商業施設の供給過剰レベルでは、まだ極端に大きな地盤沈下現象が起きることはないと思いますが、少なからず古い建物や利便性の低いオフィスビルなどは競争力を失い、いくら安い値段をつけても空室が埋まらないという状況が予想されます。
2.顧客を引き付けるサービスの本質を見極め、集中投資で集客力を磨く
TKPは国内に直営展開する886室(2012年10月5日現在)の貸会議室やカンファレンスセンター、バンケットホールなどはすべて最寄り駅から5分の立地にあります。これは利便性追求の一環です。TKPでは顧客に向けた利便性の追求について妥協することはありません。顧客ニーズを取り込み、何が求められているのか、その本質的なものを見極め、そこに集中的にお金をかけていけば、より良いサービスが提供でき、それが集客力につながると考えているからです。
事業用インフラが供給過多な時代、事業者に集客力があれば、事業展開を一気に加速させることができます。
数年前に比べ、同じコストを払えば、立地やスペースをアップグレードできる優位性があります。言い方を変えれば、グレードの高い事業用インフラを安いコストで仕入れることができるわけですから、実質的に損益分岐点を下げることができる。その場所で圧倒的に質の良いサービスを提供し、利用への動機づけができれば、お客様は来てくれます。これを磨いていけばどこにも負けない集客力となるのです。
逆に良い立地であっても、サービスによって集客力を磨かなければ、安いインフラという恩恵はあまり受けられません。
元来、不動産賃貸業はインカムゲイン、つまり配当利益のビジネスでした。物件の純利回りが10%を超えれば、収益性の高い物件といわれています。しかし、これを借り手の立場で考えてみると、物件を仕入れて(=借りて)、その物件に付加価値(ものやサービス)をプラスし、収益を上げるということですから、「賃料」をコストとしてキャピタルゲインを得ているのと同じことになります。
もちろん、付加価値を提供するサービスに集客力が伴わなければ、いくら事業用インフラを安く仕入れられたとしても、インカムゲインを割り込んでしまうということもあります。そうならないために、いままでにない新しい魅力を持ったサービスを創造することにお金をかける、投資をするということが大切になります。そういう投資が思い切ってできるかできないかで、集客力に大きな違いが生まれてきます。
せっかく安いコストで事業用インフラが手に入るのですから、そこから生まれた資金を活かして、サービスの絶対的価値を高めてやろうという発想が重要なのです。
3.個人の力で付加価値を生み出し、この国のGDPを担う
たとえばほんの数年前、お店を始めようとすると、当然のように1000万円、2000万円というイニシャルコストがかかっていました。それが景気低迷や事業者の高齢化などの影響で空き店舗が増加し、さらに独立開業マインドの冷え込みも加わり、いまや居抜き店舗を利用すれば、100万円もあれば飲食店を開業できる時代になりました。
事業用インフラを安価に手に入れられれば、そこで提供する本質的なもの(やサービス)に経営資源を集中できますね。初期投資が少なくて済むということは、ひと昔前から比べれば、開業リスクが小さくなっているということですし、そのぶん中身にお金をかけられるわけですから、これほどビジネスの中身を磨けるチャンスはないといえるでしょう。
それでも日本には大企業病なるものがまだまだ蔓延しているのでしょう。以前に比べリスクがどんどん小さくなっているにもかかわらず、新しいビジネスにチャレンジしようとする人が少ないのが現実です。
事業用インフラが高いときは、そのコストを吸収できる国内の大企業を中心に、企業活動全体がうまくいっている証しです。この場合、企業が付加価値を産み、GDPを支えていることになります。ところがいまは事業用インフラが安いわけですから、大企業が産み出す付加価値だけでは以前のような期待はできません。こういうときこそ、個人自らが付加価値を産み出さなくてはならないのです。いうなれば、個人の作り出す付加価値の集合体でGDPを形成する時代となったのです。
日本は国の政策と大企業を中心とした企業群に守られてきた経済立国でしたが、これがもう限界にきているということでしょう。考えてみれば、米国では大リーガーを見ればわかるとおり、付加価値が生み出せない人は即日解雇です。ビジネスマンでもこれは同じです。台湾では労働人口のおよそ80%が個人事業主です。日本も集団から個へ、企業の内外を問わず、付加価値を生み出す源泉が移行しつつあるのです。
個人が産み出す付加価値は、個人がリスクを取り、ビジネスを立ち上げることから始まります。幸い、安い事業用インフラは都心部でもまだまだたくさんあります。安い元手で付加価値を高くする。いまの日本ではこれができるのですから、チャレンジしない手はありません。