Guest Profile
河野 貴輝(かわの・たかてる)
1972年、大分県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、伊藤忠商事株式会社為替証券部入社。日本オンライン証券(現・カブドットコム証券)、イーバンク銀行(現・楽天銀行)の立ち上げプロジェクトに参画し、ITと金融の融合事業を手がける。イーバンク銀行で取締役営業本部長等を歴任した後、2005年8月、株式会社ティーケーピーを創業。11年、TKPガーデンシティ品川(旧ホテルパシフィック東京1F宴会場)の運営を開始。ニューヨーク、上海にも進出を果す。現在、全国1,288室、93,438席(2014年3月現在)を運営する業界のリーディングカンパニーである。
特集潜在的マーケットが顕在化した事例にみるニーズの掘り起こし方
1.「とりあえずやってみた」という重要なプロセス
「こうすれば、こんなニーズがあるだろう」「こんなにたくさんニーズの声がある」などの十分な仮説や机上の戦略から、いまの当社の事業展開が見えていたわけではありません。実はまったくの逆でした。当社のスタートは、いまはもう取り壊され新しい商業施設となった六本木のとあるビルを、取り壊されるまでの期間限定で、とりあえず借りてみたのが事業の始まりです。条件が限定された短期の契約ですから、当時のビルオーナーも、「黙って寝かせておくよりはよいだろう」という感覚で、当社もこの金額ならまず損することはないという思惑で、スタートしたのです。
「さて借りたけど、どうするか」
これが本音でした。明確なあてもなく、とりあえず物件を借り受けるなんて、大手企業ならおそらくありえないでしょうね。まず借りてしまって、そこからその物件の利用方法やニーズを考え始めたわけですから。
そこでまず目を向けたのが、当社が月額で借りている物件を小分けにして、日額あるいは時間で貸そうという発想です。
この考え方のビジネスはすでにたくさんありました。例をあげれば、コインパーキングやカラオケルームなどです。この発想をもとに設備投資をあまりせず、立地のよさで集客できるサービスの提供を考えました。そして始めたのがレンタルルーム、つまり貸会議室です。
私は大手商社在籍時、出向でベンチャー企業の立ち上げに参画していました。そのときに商社内では困らなかったのに、若い企業へ出向して困ったことがありました。それは打ち合わせのための会議室がとれないことでした。会社にとって会議室は必要不可欠ですが、会議室自体はお金を生みません。その会議室に毎月賃料を払うことに、若い企業は無駄という風潮があったのです。そうです、無駄なんです。使いたいときに使える会議室があればいいわけです。
一方で、貸会議室自体は昔からあるビジネスですが、ビジネスマンにとって都会のいい立地の貸会議室は意外と少なく、また貸会議室を運営する側からの積極的な営業アピールもない。そこで創業当初は会議室「1室」から、ネットを使ってアピールしながら、企業に利用を促す営業をしてみたのです。結果は予想以上のニーズがありました。
最近の企業戦略は机上での議論が激しく、いいアイデアも、企画段階でボツとなることが多いですね。しかし、まずはやってみることで、見えてくるニーズがある。そしてそれが意外に大きなマーケットであることに気づかされるのです。逆に実行力を伴わなければ、マーケットの存在すら気がつかない。
まずはやってみるという行動力からの発想が大事だとあらためて実感したのです。
2.新しいマーケットを掘り起こしたモデル
当社は貸会議室というハードと独自の戦略ソフトで現在、約八万社の企業の利用実績を獲得、新しいマーケットを創造しました。このような新しいマーケットを顕在化させた例は、コインパーキングをはじめほかにいくつもあります。 コインパーキングの原点は遊休地利用という視点です。バブル期には大都会での駐車場不足は深刻で、駐車場ニーズは旺盛でした。一方でこの時期は都心部の再開発も盛んで、将来はそこにビルが建つが、何ヵ月あるいは一~二年ぐらいは遊休地となっているという土地が多くありました。
その「訳あり物件」を短期間でも利用して、時間貸しならぬ分貸しサービスを展開したのがコインパーキングのビジネスモデルです。このモデルの最大の特長は無人化です。入庫から出庫、料金回収まですべて機械が行なうのです。売上げは、月額でその物件を運営会社が借り上げているなら、すべて運営会社のものです。ほかに売上げを一定割合で地主と運営会社で分け合う形態もあるようです。
パーキングビジネスは古くからありますが、遊休地の短期利用と無人化が受け入れられた。そしてそれが既存のマーケット利用者に認知され、新しいマーケットの創造を誘導する結果となりました。さらにもう一つ、遊休地を利用することで貸し手と借り手にWin-Winの関係が成立したところも見逃せません。
最近では、自動車所有が減少している背景から、月極契約者がなかなか決まらない悩みを取り込み、月極駐車場内にコインパーキングの機械を設置するという新しいマーケットを開拓。またカーシェアリングで自動車所有者以外のニーズの掘り起こしもしています。ハード+ソフトで成功している典型例となっています。
さらに、もう一つ注目してほしいマーケットの創造があります。それは航空業界です。フルサービスキャリアが寡占のなか、登場したのがスカイマークでした。フルサービスをしない、中古の機材利用で、それを価格に反映させて差別化を図り成長したのは皆さんご承知の通りです。
これは顧客にとってあまり必要のない機能やサービスを省くことで、顧客、企業の両方に対する価値を向上させたバリューイノベーションとしてのマーケット創造です。もともとフルサービスを必要としないマーケットは潜在的にありました。「もっと安くチケットが手に入らないか」というニーズです。それをスカイマークは実現したのです。今後、LCCの本格参入により、このビジネスモデルがどう変化していくのか楽しみです。
このように新しいマーケットは既存のマーケットに多く存在しています。が、その掘り起こし方がわからないだけです。それを発見するには、まず行動するということに尽きます。そうすることで、その市場が成熟したレッド・オーシャンであっても、バリューイノベーションから将来、ブルー・オーシャンになる要素は十分にあると思うのです。