株式会社エフアンドエム 森中一郎

Guest Profile

森中 一郎(もりなか・いちろう)

1961年、大阪府生まれ。 立命館大学卒業後、84年株式会社日本エル・シー・エー入社 、87年に株式会社ベンチャーリンク転籍、西日本の営業を統括。90年7月、従来の夢であった20代での独立起業を実現するため退社。株式会社エフアンドエムを設立し、代表取締役に就任。2000年には大阪証券取引所ナスダック・ジャパン(現・JASDAQ)上場を果たした。

特集「会社は人」人材の育成なくして企業の成長は望めない

1.想定外が起こる環境下で、「延命」に終わった企業と「強い会社」企業の違い

 大倒産時代の到来と言われている。リーマン・ショック、東日本大震災と想定外のことが次々と起こる環境下で、 強い会社とは何か、どのように強い会社を作るのか、を考えてみたい。
 ここでは、「強い会社」を「倒産しない会社」と定義した上で、リーマン・ショック以降の中小企業を取り巻く金融情勢を振り返ってみると、セーフティネット保証・中小企業金融円滑化法の施行、中小企業緊急雇用安定助成金など、国の政策として行政・金融機関が一体となって中小企業に対する支援を実施していることが分かる。
 確かにそのおかげで倒産を免れた企業は少なくない。
 これら支援策が機能している間に景気が底入れし、業績も上向きになっていくという筋書きだったはずが、東日本大震災という未曽有の災害によって一変した。
 支援制度も延長はされたものの、今年度は廃止・縮小傾向にある。新規の資金調達は困難になり、銀行から返済の再開を迫られる企業も出てくる。
 何も準備ができていない企業を待っているのは、倒産である。大規模な支援が「延命」に過ぎなかった、と総括されてしまうことになる。
 目論見違いを震災の責任にしてしまうのは簡単であるが、一方で体力を回復し支援を必要としなくなる企業も珍しくない。「延命」に終わった企業とそうでない企業の違いはどこにあったのだろうか?

2.社員を“人罪”にするなかれ人材教育で“人財”を育てよ

ポイントは二つある。
 一つ目は、財務体質強化への取り組みである。「延命」に終わった企業の多くは、支援を受けている時期に経営者が売上げを上げることばかりに気をとられていた。売上げさえ上向けば状況が改善すると考えていたことが問題である。他方「延命」に終わらせていない企業は、支援を受ける際に経営者が財務体質の強化をセットで考えている。それも銀行主導ではなく、あくまでも経営者が主体となって、財務的な土台を築きあげることを考えている。
 二つ目は、人材育成への考え方である。「延命」になっている企業では、目立った社員教育をしていないケースが大半である。売上げは上げたいが社員は教育しないという支離滅裂な状態と言える。社員の成長なくして企業の成長はない。企業はあくまでも箱であり、その中にどのような人材がいるのかで会社は決まる。『会社は人』であり、企業にいるジンザイを、人罪、人在、人材、人財のいずれにするのかは経営者次第である。いままではモノの生産量が多い企業や、資金量が多い企業が勝つ時代であったが、これからはヒトによって差別化できる企業が勝つ時代になってくる。特に中小企業はどれだけたくさんの「人財」を育てることができるかが重要なポイントになる。多くの中小企業は採用には力を入れているが、採用してからの教育は特になく本人次第という会社が多い。「見て学べ」はもはや指導ではなく、またOJT頼みでは育たない。期待通りに成長しないので上司は怒る。認められずにいるのは苦しいため、退職という選択肢にたどりつく。
 そうなれば、もう一度採用から時間・手間・お金を使わなくてはならなくなるのである。中小企業は採用と同様に、いやそれ以上に教育・人材育成にも力を入れていかなくてはならない。

3.中小企業の研修の目的は社員の行動を翌日から変えること

 右肩下がりの企業に共通してみられる情景が3つある。①会社の社員同士が責任の押し付け合いをしている。②変化しないと生き残れないと言っているが行動を起こさない。③ヒトに投資をしない。これらは時間・手間・お金の投資に置き換えられ、一つでも当てはまる会社は注意を要する。それぞれヒトに関するという点で共通しており、伸びている会社はこのことを明確に課題として認識し、行動に移している会社である。理解はしているが行動には至らない会社が多いのが現状であろう。
 人材育成=研修と捉え、とにかく研修をしさえすればいいと取り違えることには注意したい。研修の目的を誤ると時間とカネの浪費になってしまう。
 研修の実施そのものが目的となり、経営者の自己満足になっているケースは実は少なくない。講義形式の座学に終始し知識をつけさせることが目的になっているのである。これは中小企業ではNGである。中小企業における研修は、翌日から社員の行動が変わることを目的とすべきである。大企業のように「この種がいつか芽吹けば」などと言っている時間はない。
 研修を受ける方法として、セミナーなどに参加する手段と、講師を招き社内で研修する二通りあるがどちらがいいのか? と質問を受けることがよくある。外部研修の利点は少人数でも参加させることができる点。反面、共通体験・共通言語にはなりにくい。社内研修は体験を共有できるため研修の内容が共通言語になりやすい。一方で意外と参加者の日程調整が困難である。
 それぞれ一長一短があるが、ここでは共通言語となることを最重要視するべきである。一番もったいないのは外部研修に一人で参加させることである。なぜならそこで学んだことが身に付き、実践されているかを測りにくいため、最も効果を実感しづらい結果となるからである。そのため外部の研修に派遣する場合は、複数名を同時に参加させるか、同じ研修に別日程でも参加させる。要するに一人だけしか受講していないという状況にしないことがポイントである。その点、社内での研修の場合は一度に複数の社員が同じ体験をしているため共通言語となり、翌日以降の行動変革につながりやすい。
 冒頭で触れたとおり、これより先の経営環境に当面厳しい状況が続くことに異論はないだろう。「財務体質の強化」と「人材育成」は、これからの中小企業経営においてますます重要性を帯びてくるキーワードであることは間違いない。

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