Guest Profile
広木 太(ひろき・まさる)
外資系HWベンダー2社でSAPビジネスを立ち上げに参画。その後、大手Sier系列のコンサルティング会社にて基盤レイヤーのコンサルティング・導入・運用などの業務に従事。2011年からクラウドテクノロジーに着手し、基幹システムへの採用を世界に先駆けて実施。16年3月にクラウド専業インテグレーター 株式会社BeeXを立ち上げ、17年3月に同社 代表取締役に就任。
特集基幹システムのクラウド化に専門特化 先駆企業として市場を切り拓く
1.世界的に加速する 基幹システムのクラウド化
企業経営の基本となる資源(ヒト・モノ・カネ・情報など)を有効活用するために、製造・物流・販売・調達・人事・財務会計などを統合的に管理し、経営の効率化を図るためのERP(統合基幹業務システム)。この企業の中枢システムは従来、オンプレミス環境(自社内にサーバーを設置)で運用するのが普通だった。しかし現在、クラウド化(クラウドマイグレーション)の動きが世界的に加速しており、日本でも転換が進んでいる。
BeeXは、そうしたERPの市場変化に着目し、2016年3月に設立されたベンチャー。親会社は東証マザーズ上場のテラスカイだ。テラスカイはクラウドインテグレーションに特化したサービスやソフトウェア開発を手がけており、BeeXはERP大手のSAPを中心に基幹システムのクラウド化と、導入後の保守・運用サービスを提供している。
BeeXの社長、広木太は「これまでの企業の基幹システムは効率化・安定性を重視していましたが、社会の急激な変化に伴い、今後はスピード重視に変わっていきます。そうした企業の基幹システムのニーズに素早く対応していくことが当社の使命」と話す。
クラウド化が国際的な流れだとはいえ、各企業で構築された基幹システムは巨大だけに、移行するのは容易ではないのが実状。そこで同社が目指すのが、次世代型ERPの実現だという。
「私たちはERPから、『ポストモダンERP』に変えていこうとしています。ポストモダンERPとはガートナー社が唱えているものですが、整合性・統合性を優先した結果、複数のシステムが密に連携した従来型の基幹システムを、ライフサイクルが長いERPのコア機能と変化が激しい周辺の機能に分け、それぞれの特性に合わせて最適なクラウドで構築し、連携させるという新たなERPシステムです。つまり、従来の『密結合』から、『疎結合』へと転換することで、変化の激しい社会ニーズ
に素早く的確に対応できるようにするものです」
ポストモダンERPによって得られるメリットとして、コンピュータの導入や管理維持にかかわる総コストの低減や、システムの導入や拡張が迅速かつ柔軟に行なえることによるビジネスの要求スピードへの対応力向上などがあげられる。
2.大企業にも顧客を抱える クラウド系ベンチャー
広木は、この道のエキスパートだ。外資系ハードウェアベンダー2社でSAPビジネスの立ち上げに参画したほか、NTTデータグループのコンサルティング会社でBASISと呼ばれるSAPの基盤構築や運用保守サポートのビジネスを立ち上げた。また世界に先駆けてクラウド技術を活用・最適化したSAPの基盤構築・刷新・保守体制の確立を手がけるなど、長年SAPの基幹システムにかかわってきた。
それだけに、自社の強みに絶対の自信を持つ。
「当社のようなSAPなど基幹システムの構築を手がける企業はたくさんありますが、その多くは、大手のSI(システムインテグレーター)の下請けというのが実態です。いわゆる『人月商売』と呼ばれるビジネスです。当社が同業他社と大きく違うのは、基幹システムのクラウド化に専門特化し、基本的にお客様と直接取引している点です。お客様にさまざまなご提案をさせていただき、お客様の変革に直接寄与していこうという方針で、小さい会社ながらも誇りを持って取り組んでいます」
同社の顧客には、AGC旭硝子、HOYA、ドームのほか、通販大手や大手ドラッグストアなどの大企業も名を連ねている。
3.事業初年度から黒字化 計画を上回るスピードで進捗
基幹システムのクラウド化によって、働き方も多様化するという。その代表が在宅勤務などのリモートワークだ。パソコンがあれば、どこからでもデータにアクセスできるので、オフィス以外でも仕事が可能だ。
また、社員の意識や組織にも変化がみられると、広木は指摘する。「これまで各企業の中に閉じていたものが、クラウド化によって外に開かれます。従来は特定のベンダーとだけ付き合っていたのが、ユーザーの集まりなどに参加しながら仕事ができるようになる」
たとえば、アマゾンのクラウドサービスAWSにある『JAWS-UG(AWS User Group-Japan)』というユーザー組織だ。そこでは企業や業種の垣根を越えて情報交換が活発に行なわれており、誰かが「こういうことをやりたい」と発言すると、「ウチではこんなことをやっている」とか、「こんな知恵がある」とか、「こんなパートナーと組んだ」といった情報が集まってくる。
「積極的な人は若手でもそういうコミュニティーに参加して、つながりをつくっています。実際、クラウドは基幹システムの仕組みが変わるだけでなく、組織や働き方まで変わるので、それを狙って導入したいという企業の声も多いです」
現在、2期目だが、業績は好調だ。1期目の2017年3月期の売上高は、当初目標額の2倍を上回り、事業初年度から黒字化を達成したという。広木は、「当初描いていた4年目くらいのステージを現在進んでいます。世の中のクラウド化のスピードが思った以上に早いという背景もありますが、当社の取り組みがお客さまに認めていただけているのだと非常に手応えを感じています」と自信を示す。
実際、同社が直接取引する企業は中堅企業も含め10数社で、今年度中にさらに数社増える見込みだという。
基幹システムのクラウド化の動きはまだ始まったばかり。BeeXはこの分野の先駆企業として、市場を積極的に切り拓いていく。言うまでもなく、その最前線に立つのは広木だ。