Guest Profile
丸 幸弘(まる・ゆきひろ)
1978年1月26日、千葉県生まれ。東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命工学専攻課程を修了。博士(農学)。大学院在学中から教育とビジネスに興味を持ち、学生団体Business Laboratiry for Students設立にかかわる。2002年、有限会社リバネスを理工系大学院生のみで設立。世界初のバイオ教育ベンチャー。2004年株式会社リバネスに組織変更、代表取締役に就任。 ●業種:知識製造業 ●設立:2002年6月14日 ●資本金:6000万円 ●売上高:非公開 ●住所:東京都新宿区四谷2-11-6 VARCA四谷10階 ●電話:03-6277-8041 ●URL:http://lne.st/
特集社員37人のうち60%が博士号 頭脳集団率いる社長が目指す「知識製造業」
1.面白い会社がある
2002年、15人の理工系大学生・大学院生によって設立されたリバネスは、次々とユニークな試みを実践してきた。日本全国の小・中・高校に出張し、最先端科学を子供たちと出前授業で楽しむ。
2010年には日本各地の大豆をスペースシャトルで国際宇宙ステーション「きぼう」へ輸送。10カ月後、帰還した大豆を各地の子供たちと栽培、研究する「宇宙大豆」プロジェクトを手がけた。こうした事業の数々に、てっきり「理系離れが進む日本の子供たちの教育」が主なる起業目的かと思えば、代表取締役CEOである丸幸弘は笑顔で受け流した。
「 いやいや、僕たちは教育者じゃないし、社会貢献のつもりもありません。出前授業はこの会社に入れたい子供を作るためにやっているんですよ」
昨年、株式会社を立ち上げ、自分で開発したカードゲームを商品化したことで、「12歳社長」としてメディアに取り上げられた、一人の小学生がいた。彼をプロデュースしたのも、丸だという。
「彼とも出前授業で知り合ったんです。化学が好きで、原子をカードにして、化学結合を楽しむゲームを作っていた。おもしろいと思って、出版社などに企画を持ち込みましたが、すべて断られたんです。そこで僕がお金を出すので『自分で会社を作って商品化しなよ』ということになったんです」
このエピソードには丸が強い危機感を抱く、この国の企業の問題点が凝縮されている。
「なんで、断られたかわかります? みんな『小学校では化学を勉強しないから売れない』なんですよ。固定観念に縛られている。それじゃあ、新しいものが生まれるはずがありません」
事実、カードゲームは2万1000部の大ヒット。シンガポール、中国での発売も決定した。丸はこれを「知識製造業」と呼ぶ。
「人を育てることは、日本の経済に直結する。僕らはそれを証明しようとしているんです。次代の発想を生み出す人材を作るために、テクノロジーを持つ日本企業は全社、僕らの活動に賛同してほしい。これからの時代、製造は日本でなくてもいい。でも智恵を作るのは、日本であるべきなんです」
2.感性を生かす仕組みをつくるそれが21世紀型企業
なぜリバネスは固定観念に縛られず、自由な発想でビジネスができるのか? 丸は「感性で動いているから」と言い切った。
「人間のモチベーションが上がるのは、感性に特化したとき。僕らは感性で発案し、それがビジネスとなる仕組みを作る。従来の日本企業はまず仕組みありきでしょう。仕組みの上に感性が乗るわけがない。これは20世紀型企業と21世紀型企業の違いでもあります」
社員の6割が博士号を持つリバネスでは、それぞれがリスクを負ったうえで好きなことを推進していく。勤務形態も自由。毎日出社する義務もない。
「僕らは日々、21世紀型企業としての実験をしているんです。会議をするのに、全員が一つの場所に集まる必要はない。別々の場所でスカイプなどを利用したほうが効果的だという結果も出ました。大企業は、僕らの様子をうらやましそうに見てますよ。彼らもやりたいけれどできないんです。『そんなこと言ってないで、一緒にやってみようよ』というのが僕らのスタンス。僕らと仕事をすることで、社員の意識が変わる。大企業が大企業であり続けるのではなく、大企業が進化していくところの手伝いがしたいんです。手伝うことはなんでもいい。そうして出てきたアイデアが出前授業だったり、宇宙大豆だったりするんですよ」
現在、リバネスには様々な企業からのオファーが引きもきらない。
とある企業の研究所からは「人事部を通さず、人材をとりたいのだがどうすればいいか?」などという相談まで持ちかけられたという。
「これは深刻な問題なんですよ。そもそも文系が多い人事部に、研究所が欲しい人材がわかるはずがないんです。いまはスピードが命の時代。欲しい人材をすぐ揃えないと新規事業に間に合わないのに、多くの企業が旧態依然なんです。だから韓国に負けるんですよ」
日本のお家芸であった半導体など、いつの間にか韓国に抜かれてしまった現状を、丸は憂う。
「韓国は『これをやる』となったら、お金もドンと出して、すぐさま人材を集めます。僕らの父親世代のエンジニアがどれだけ韓国に行ったかわかりませんよ。日本が韓国に負けたんじゃない。その躍進を担っていたのは、いまの日本を作り上げてきた優秀な日本のエンジニアたちです。彼らも本当は日本のためにその能力を使いたかった。それを受け入れるところが日本になかったんです。
エンジニアや科学者はもっと企業とコミュニケーションをとらなきゃいけない。もっと力を持って、発言権を持たなければ、日本の多くの企業がこの先、伸びる確率は0%です」
そんなことにならないために、リバネスは存在する。目指すのは、各企業の中に知識製造業のラインを作ること。
「知識製造業の感覚をシェアできたら、日本はもう一度、経済世界一に返り咲けると思うんです。僕らは知識しかもっていない会社ですから、やる気のある企業のために、世界中から一番の知識を集めてきて、協力しますよ」
その気構えの一方で、問題に感じているのが、自ら考えることをせず、答えを求める企業の多さである。
「往々にして、僕らに『何をしてくれるの?』という姿勢なんですよね。宇宙大豆のときも、みな『大豆を宇宙に持っていったらどうなるの?』なんです。わからないから、一緒に考えて、一緒にやるんですよ。どうして、答えがわかっていることしかやろうとしないんでしょう? 僕らに答えを求めて、自分たちは何を考えるというんでしょう? そんな発想だから、会社がどんどん弱っていくんです」
社名「リバネス」の由来は「Laeve a Nest(巣立ち)」。
創業10年を迎え、巣立ちの環境は着々と整っている。