株式会社ディー・エヌ・エー 南場 智子

Guest Profile

南場 智子(なんば・ともこ)

津田塾大学卒業後、1986年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。90年ハーバード・ビジネス・スクールにてMBA取得。99年ディー・エヌ・エーを設立、代表取締役社長に就任。2011年代表取締役社長を退任、取締役等を経て、17年より代表取締役会長。ほかに横浜DeNAベイスターズオーナー。著書に『不格好経営』(日本経済新聞出版社刊)がある。

特集「パッション・オア・デス」を 浸透させ、 永久ベンチャーで あり続ける

1.政府の働き方改革を受けての取り組みとは違うと思いますが、御社はいろいろな働き方を模索して実行されています。その背景からお聞かせいただけますか。

<南場>
政府の目的とは別に、DeNAも働き方改革の目標を整理しています。コンプライアンス遵守をベースとして、最も重視しているのがパフォーマンスを最大化することで、それに付随して、働く仲間が幸せでいてほしいということです。何によってパフォーマンスが上がり、皆が幸せになれるかはシンプルで、それは夢中になれることだと思っています。

2.夢中になれる?

<南場>
夢中になればパフォーマンスが上がりますし、夢中になっているときは幸せだと思います。夢中になれる組織をつくるには、いくつかの要素があると思いますが、ひとつは目標に対する〝腹落ち感〞です。例えば、お金儲けという目標にはあまり多くの人が共感しないでしょうが、自動運転を実現させて地方の交通不便を解決して交通事故を減らそうとか、多くの人たちが病気になる前に健康の大切さに気づいて、病気になってからの後悔を減らすという目標に「良い目標だよね」と皆が共感すれば、ワクワクして腹落ちします。

もうひとつはチームが目標に対して近づいているという感覚と、個人として成長しているという感覚。この2つが目標に向かっている過程で重要です。目標が腹落ちしていてもプログレスを感じられないと効果が出ません。第一歩としてこれをやってみよう、第二歩としてこれをやってみようという目標の設定によって、前進している感覚を持てることが重要だと思います。

それからチーム全体の環境として、前向きで清々しいチームであることです。一人ひとりが目標に合意して全力で真撃に仕事に向き合っているとか、情報の共有も透明性が高いとか、お互いに助け合うとか、マネジメントが一人ひとりの強みを確認して活かそうとしているとか、そういうチーム環境です。つまり、腹落ちする目標、チームレベルと個人レベルでの目標に対するプログレス、チーム環境……この3つの要素を整えることがDeNAの働き方改革であり、人を大切にする組織としての具体策だと思っています。

3.目標にはいろいろありますが、会社としての目標はどのように設定するのでしょうか。

<南場>
会社全体としてはインターネットやAIを用いて世の中をディライトする(喜ばせる)ことが目標ですが、De NAは実にいろいろな事業を行なっています。オートモーティブ事業ならあらゆる人やモノが快適に移動できる社会をつくるとか、ヘルスケア事業なら健康寿命を延伸するとか、ゲーム事業なら歴史と記憶に残る楽しみを提供するとか、スポーツ事業なら人と街を元気にするとか、それぞれの事業に目標を設定しています。

4.大きな組織で皆に目標を腹落ちさせることは大変ではないかと思います。

<南場>
事業本部長に高い資質のひとつとして要求しているのは「情熱を口にすること」です。自分の事業に対する情熱をどんどん発信しないと、メンバーが他の事業部に引き抜かれる仕組みにしています。2017年8月に発足させた「シェイクハンズ制度」は、事業本部長が他部門のフロアで事業を宣伝して廻って、やりたいと手を挙げた社員がいたら、その社員は何ができるのかを面接して、握手をしたら自動的に異動が決まるという取り決めです。すでに40件以上の異動が成立しています。逆に、事業本部長がそういうことばかりしていると自分の事業部の社員が抜かれることにもなりかねません。

5.そういうこともありますよね。

<南場>
「パッション・オア・デス」と言っていますが、事業本部長は他のフロアで情熱を発信し続けながら、自分のフロアでも情熱を発信し続けなければなりません。

それから自分の成長を実感させるために「ストレッチャーサイン」を実施しています。これは本人にとってギリギリの難易度の仕事を任せることで、できるかどうかフィフティー・フィフティーの確率の仕事を任せることで凄く成長します。本人も張り切ります。

6.落ちこぼれてしまう社員にはどんな手を打つのですか。

<南場>
できない場合はチームで助けましょうという方針で、チームで助けてもできない場合は仕事に穴が開いてしまうので、そのリスクはチームが取るという考え方で整理しています。

DeNAで人が育つ要因には組織の形態も挙げられます。ピラミッド型でなく球体型の組織で、一人ひとりが大小の違いはあっても球の表面積を担っています。球体はどの角度から見ても真正面なので、一人ひとりが、自分が担う表面積においてDeNAを代表しているという考え方です。

7.創業はITベンチャーが勃興し始めた1999年ですね。当時描いていた会社像と現状を比べてみていかがでしょうか。

<南場>
創業当時はITブームが起きたからどうするかという状況ではなく、会社を生き残らせることに必死でした。振り返ってみると当時はITの黎明期でたが、今はAIやIoTなど次のうねりが来ています。「ソサエティ5・0」「インダストリー4・0」「産業革命」などの言い方がありますが、99年当時と同じうねりが始まったと感じてワクワクしています。20年前はうねりから風向きを見据える立場でしたが、今度は2400人の素晴らしい仲間と1000億円の内部留保を背景に、自ら風をつくり出したい。私どもは「永久ベンチャー」というコンセプトを掲げていますが、次々に新しい挑戦をしていくことがDeNAのアイデンティティです。

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