Guest Profile
内海 州史(うつみ・しゅうじ)
1961年生まれ。86年4月ソニー入社。SCEアメリカ、セガアメリカ、ディズニー・インタラクティブなどを経て、2014年4月ワーナーミュージック・ジャパン代表取締役社長。16年7月サイバード代表取締役社長となる。
特集ターゲットは高感度女子。オリジナルIP(知的財産)でグローバル展開を強化する
1.社長に就任されて2年弱、業績は順調に回復されているようですね。
2.具体的にどのような手を打たれたのですか。
3.女性向けの市場はそんなに活況なのですか。
4.認知度は低いけれど、一部の女性に圧倒的な人気がある。
5.今後のエンタテインメントについてもう少し具体的に教えていただけますか。
6.女性向けマーケットは海外でも伸びているというお話でしたね。
7.女性向け市場以外についてはどのような戦略をお考えですか。
8.そうした攻めの経営を進めていくうえで、人材が大切になってきますね。
1.社長に就任されて2年弱、業績は順調に回復されているようですね。
<内海>
決算内容は非公開なので詳細は明らかにできませんが、社長就任時の赤字から前期は黒字へとⅤ字回復し、前向きに攻めの経営ができる状況になってきました。
2.具体的にどのような手を打たれたのですか。
<内海>
自社の強みを見極めて、そこを強化してこうというのが基本姿勢です。当社はゲームを中心にさまざまなモバイルコンテンツを提供していますが、その中でも女性向けコンテンツの強化を図っています。というのは、いま女性向けマーケットが国内はもちろん海外も非常に伸びており、社内のタレントも豊富だからです。主力の女性向け恋愛ゲーム「イケメンシリーズ」を筆頭に、女性向けゲームの人気が高まっています。
3.女性向けの市場はそんなに活況なのですか。
<内海>
私はゲーム業界や音楽業界に長くかかわってきましたが、女性向けコンテンツはそれほど詳しくなく、当社に入ってから経験し、市場の将来性に着目しました。女性のいわゆるオタク市場もさまざまで、ややマイナスのイメージがありましたが、いまは市民権を得つつあります。池袋の乙女ロードに代表されるような女性オタクの聖地も生まれました。そういう方々を我々は、高感度女子と呼んでいます。
重要なポイントは、人気と認知は違うということです。たとえば、広く世の中に名前が知られるアーティストでも、ドーム球場などのライブ会場が一杯になるかというと必ずしもそうではない。一方で、ごく一部の熱狂的なファンしか知らなくても、会場が埋め尽くされる。当社がターゲットとする女性向けマーケットがまさにそれです。
4.認知度は低いけれど、一部の女性に圧倒的な人気がある。
<内海>
そうです。ただ、ここでの人気とは、より深く対象にかかわりたいとファンが思うかどうかということです。サービス提供者とユーザーだけではなく、ユーザー同士のコミュニティーも含めて、いろいろデザインしていくことで、そのエンタテインメントがより楽しくなる。そうしたコミュニティーを意識したエンタテインメントの提供がこれからは大事になります。実際、女性向けマーケットはゲームだけで閉じていない。当社のアニメや物販のイベント、2・5次元など女性向けの市場は大きな広がりと可能性があります。
5.今後のエンタテインメントについてもう少し具体的に教えていただけますか。
<内海>
ゲーム業界では「ゲーム・アズ・サービス」といわれますが、プロダクトからサービスへということで、当社はメーカーであるとともにサービス業でもあります。ユーザーは新しいものを求めるので、目まぐるしく変化するデジタルの技術革新に対応しながらプロダクトとサービスを提供していく。これからは拡張現実(AR)やVR(仮想現実)などのエンタメ領域で活用できるエンタメ向け新技術「エンタメテック」が重要になります。新しい業態のエンタテインメントには、新しい技術対応が欠かせないと思います。
その一方で、リアルイベント等も大事です。当社は累計1700万ダウンロードされている恋愛ゲーム「イケメンシリーズ」のキャラクターによるイケメン総選挙をここ数年毎年、声優さんをお招きし、ファンの皆様の前で順位を発表するリアルイベントを開催したり、2・5次元舞台や夏祭り等、非常に多くのファンの皆様から好評いただいてます。8月に「イケメン戦国◇夏の陣(仮)」というゲームとTVアニメのコラボイベントや、9月には、「イケメン夏祭り(仮)」も開催予定です。
6.女性向けマーケットは海外でも伸びているというお話でしたね。
<内海>
当社は現在、台湾や香港を中心とした中国語圏と、北米やシンガポールなどの英語圏で自社で事業展開しています。欧州でもファンが増えています。たとえば「イケメン戦国」は日本の戦国時代を舞台にしているのに、グローバルにファンが増えている。昨年(2017年)4月、米ロサンゼルスでアニメ・エクスポという世界的アニメコンベンションに出展したのですが、当社の社員がコスプレをして、女性に壁ドンをするというサービスを行なったところ、長蛇の列ができ、現地取材まで受けました。海外の女性にもうまくやれば、日本の独特の表現がうまく受け入れられるのだと確信しました。
7.女性向け市場以外についてはどのような戦略をお考えですか。
<内海>
高感度女子向けにトンガった展開をグローバルに提供する一方で、従来からの強みでもあるさまざまなコンテンツやエンタテインメントとコラボしていきたいと思っています。
当社は、小学館と名探偵コナンシリーズをはじめとしたゲームを制作しています。占いや、芸能にも幅広いネットワークを持っています。新しい技術と、このようなエンタテインメントを結びつけた展開を目指しています。
8.そうした攻めの経営を進めていくうえで、人材が大切になってきますね。
<内海>
当社は今年で創業20周年ですが、社内はとても風通しがよく、言いたいことが言える、意見を言いやすい環境です。平均年齢も若く、活躍しています。一般的にゲームや音楽業界ではメインのディレクターやプロデューサーは40代以上が多いのですが、当社では20代のディレクターが当たり前です。この業界は動きが早く、文化的、知的なチャレンジをしていかなければいけない。ですから若く柔軟な感性で活躍できる組織風土は大きな財産だと思っています。