株式会社朝日エル 岡山慶子

Guest Profile

岡山 慶子(おかやま・けいこ)

朝日エルグループ会長。ESD日本持続発展教育推進フォーラム、キャンサーリボンズなどNPO法人の副理事長、理事をはじめ、共立女子短期大学生活科学科社会心理学研究室非常勤講師、内閣府男女共同参画会議、消費者庁の委員など公職を歴任。著書に「ゆりかごからゆりかごへ入門」(共著、日本経済新聞社)、「女たちのすごいマーケティング13の法則」(中経出版)など多数。

特集創業以来27年間利益を出しつづける 異色の広告会社の顧客は「援助の必要な人」

1.能力の高い女性があふれているその証拠を見せるため起業

 創業以来27年にわたって高い売上高と利益とを継続して出しつつ、会社を大きくするわけでもない不思議な超優良企業がある。バブル崩壊もリーマン・ショックも東日本大震災もまったく影響なし。業種的にいうと広告代理店に属するが、企業の抱えるマーケティング的な難題を解決するための処方箋を書いているような会社である。なぜこんな会社が存在できるのか?
 もう一つ同社をわかりにくくしているのは社会的に意義のある団体や研究会を立ち上げ自ら推進していっていることだ。こうした仕事は本来おカネにならない……。
 会社名は朝日エル。彼女たち(仏語でELLES)が中心になって働く会社である。
 男女雇用機会均等法が施行された1986年に朝日エルは生まれた。朝日広告社にあった女性だけの営業チームから、当時課長だった岡山慶子さんが中心となり独立した。当時米国では、『ワーキングウーマン』や『サヴィ』などの働く女性向け雑誌が売れ、日本でもリクルート(現リクルートホールディングス)社の発行した雑誌『とらばーゆ』が、女性の転職を意味する流行語になっていた。こうした市場を狙って、大手広告会社はこぞって女性チームを作った。つまりはその1つであった。
 岡山さんは「私は一番いい時代に生まれた」と振り返る。髙島屋の石原一子さん(東証一部上場企業初の女性取締役)のように男性と戦わなければいけなかった時代は終わり、男性が競争相手になるにはまだ早かった時代。「一緒に頑張ろうよ」と言ってくれる男性が現れ、実際にそうやってくれたそうだ。
 朝日広告社内で「メディアの特性」について研究していた岡山さんは、営業で活用したいと思い部署を作ってもらった。
 女性営業チームとして活躍するなかで独立を考えたのには2つの理由があった。1つは若い女性社員の結婚・妊娠・出産。当時はまだ男女雇用機会均等法が浸透しておらず、女性が働く環境として不十分だった。「この人たちを働きやすくしたい」と単純に思ったが、何も善意だけではない。社内には能力のある女性があふれており、その人材を活用しないのはもったいないと思った。それ以上に世の中に対して女性が働いて実績を上げられるという証拠を見せたかった。

2.初の化粧品「ソフィーナ」は「なぜ売れないか」を花王に提言

 独立するきっかけとなる出来事があった。82年、花王が初の化粧品ソフィーナを発売する際に「ソフィーナは売れるのか」について花王の役員へプレゼンテーションを頼まれたのだ。岡山さんは、正直に「ソフィーナはなぜ売れないか」というテーマで提言し、花王という企業が化粧品を出すギャップについて説明をした。すると、当時の佐川副社長(後に会長)に「全員、社員になってくれ」と請われた。
 どこかの会社の一員になるのは本意ではないと考えていた岡山さんは、外から手伝う形をとった。社会的にはまだアイデアや情報にお金を出すという習慣が日本にはなかったが「考え方にお金をください」と願い出る。花王も面白がってくれ、コンセプトワークなどが仕事になった。花王1社で数千万円になった。
 その後、松下電工(現パナソニック)が美容家電を始める際にもマーケティングに携わることになり、この2社との仕事がその後につながる経験となった。
 マーケティング至上主義ではなく「人の気持ちはどこにあるのか? 世の中にとって正しいことは何なのか?」を常に考え、探った。これが現在でも続いている。
いやな人とは仕事をしないだから本当の仕事がやってくる
 岡山さんにとって会社とは3つの意味がある。1つ目は利益を上げるところ。2つ目は社会に貢献するところ。3つ目は働く人たちが楽しくて、自分の生きがいがそこで実現できるところ。この3つに沿わないことは行なわない。そのため、会社は大きくしない。会社の規模は小さくても事業は大きくできると考えているのだ。
「仕事が増えると人も増やさなければと思いますが、妥協して人を入れたくない。本当にやりたい仕事だろうか? 一緒にやりたい人だろうか?」
 仕事がくる理由は「いやな人と仕事をしなかったから」と振り返る。好きなことに対して夢中になれれば、誠実な仕事ができる。そのため、初めて会った相手に伝える3つの確認ごとがある。
 1つ目は「クライアントである」。広告業界では広告主のことだが、カウンセリングでは「援助を必要とする人」という意味をもつ。つまり顧客は患者という前提に立ち、惜しみない援助をする。
 2つ目は「選ぶのは私たち」。必要とされる援助は何か、それを達成できるのかを判断する。そして「本当にこの人たちと仕事をしていいのか?」を問う。
 3つ目は「絶対に無理はしない」。タイミングが合わない、予算がないときもある。無理なら無理と伝える。
 前述したように景気が非常に落ち込んだ時代でも売上げも利益も上げ続けた。
「ビジネスや人も〝核〟があって、その周りをフリルやピンタックで飾っている。うちは、飾りの仕事はしない」と断言する。〝核〟となる仕事がなくなるときは、企業としてなくなるときに等しいからだ。それでも予算が削減されたときはどうか。
「予算を縮小してまで引き受けることはしません。値下げした実績なんて、あとには残らない。そのかわり良い仕事なら、絶対に残る」
 こうした姿勢は強者の論理のようにも聞こえるが、結果こそが同社の実績なのだ。社会貢献的な活動に力を入れているのも、その必要があればこそである。社会性の強いものでも「最終的には利益は出る」と岡山さんは言い切る。
「無一文のチャレンジはできないですよ。チャレンジするためにも儲けは必要。お金が儲かるのは好きですもん」

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