Guest Profile
山中 武志(やまなか・たけし)
1951年大阪市生まれ。1974年京都大学経済学部経済学科卒業、日本アイ・ビー・エム株式会社に入社。1998年株式会社オークハウス設立、代表取締役に就任。
特集外国人にも人気の注目シェアハウス、運営企業の”大切な価値”
1.3年前から始めた「ソーシャルレジデンス」が人気
――まず御社のビジネスを確立された背景についてお聞かせください。これまでに何度も質問されたと思いますが…。
100回ぐらい話しましたね(笑)。私は大学を卒業して日本IBMに勤務し、1981年、30歳で独立して人材派遣とシステム受託開発などを行なう会社を設立しました。年商11億円で社員150人の規模にまでなりましたが、92年に負債26億円で倒産しました。そのとき、法人で3物件、個人で3物件、計6つの不動産物件を所有していました。
これらを活用するのに、ある友人が「外国人に貸したらどうか」というアイデアをくれました。当時はバブル経済のなごりが残っていて、多くの外国人が来日していたのですが、日本の家主は外国人に部屋を貸したがらなかったため、外国人は非常に困っていました。そこで6物件を貸し出しました。
6物件とも競売物件で3年後には落札されるのですが、当時は定期賃貸借契約が施行されていなかったので、普通賃貸借契約(※)の対象となる日本人には貸せませんでした。一部に違法性のある「外人ハウス」と呼ばれた劣悪な環境の賃貸アパートが乱立する時代でした。
(※)普通賃貸借契約の場合、契約の延長には借主の意向が尊重される(編集部注)
――その後の経緯はどうなったのでしょうか。
バブル崩壊後は日本人の留学ブームに入り、帰国後に「ゲストハウス」に住むようになりました。そして10年ぐらい前に「シェアハウス」と呼ばれるようになって日本人の入居が一気に進みました。当社は3年前から「ソーシャルレジデンス」と呼び、商標登録を取得しました。私が初めて名付けたもので、単にシェアするだけでなく、アクティビティをしようという趣旨を込めました。
2.入社したらハウスマネージャーからスタートいわば社長の代行者
――御社の賃貸借契約は不動産業界の標準とは大きく異なっていますね。
日本の賃貸借契約の問題は保証制度にあります。部屋を借りるのに連帯保証人を求める国は日本ぐらいで、しかも連帯保証人が2人に保証会社を付けるなど屋上屋を重ねています。
それに対して、当社の物件は敷金ゼロで、連帯保証人も保証会社も不要です。しかし、約4000人の入居者が住み、月商は約2億5000万円ですが、未収による損金は月に20万円もありません。家賃の未収率が業界平均で2〜3%のところ、当社は0・1%以下となっています。なぜ、この実績が出るかと言えば、入居希望者と契約書の読み合わせを兼ねた面接を1時間にわたって行なうからです。
――入居面接では何をチェックするのですか。
約束を守る人かどうか、言葉遣いがていねいでコミュニケーションをきちんと取れる人かどうか、清潔で自己管理できる人かどうか。勤務先の規模や国籍、年齢、収入などの外形基準はありません。
担当するのは営業部の「ハウスマネージャー」という職種で、入居審査では私の決済を必要とせず、全権を持っています。いわば社長の代行者です。
ハウスマネージャーの業務は他にも契約業務、入居後の状況把握、トラブル発生時の警察対応、リノベーション、ハウス運営管理全般に及びます。入居者の4割が外国人なので英語力は不可欠です。当社は入社したらまずハウスマネージャーに就けますが、自分の判断を尊重してもらえる仕事なので、非常にモラルが高いですね。
そしてハウスマネージャーを経験した後に、物件選定やデザイン、改修、マーケティングなどに異動させています。
3.毎年2回社長が行なう全社員インタビュー
――多くの不動産賃貸会社とは違う固有の人材観を持っているのではないでしょうか。
社長の代行者として誇りを持つことを大切にしています。また、ハウスマネージャー職を経験してから他の部署に異動するので、次の仕事に対するイメージを持つという発展性のあるキャリア形成を志向していることが大切です。独立して自分でシェアハウス経営に入ることもOKであり、実際、女性を含めて数人が経営しています。
――新卒と中途の採用状況はどうなっていますか。
新卒は年間2~3人、中途採用は15人ぐらいです。当社では100~150人のお客様に1人のハウスマネージャーを就けていますが、開業ペースが上がっていて、年間に1500部屋を開業しています。そこで20人くらいの増員が必要になってくるのです。
入社後は2週間の集合研修を経て、3ヵ月にわたって先輩のもとでOJTを行ない、4ヵ月目に担当エリアを持つというステップを踏んでいます。
――中途入社の社員の場合、前職の特徴はありますか。
前職は千差万別ですが、不動産業界出身はいません。不動産業界の方は英語が苦手である場合が多く、採用試験に合格しないのです。不動産業界出身者を対象外にしていませんが、語学力を問うために応募してきません。
――組織運営で特に大切にしていることを挙げるとしたら何でしょうか。
オークハウスはフラットな会社で、私を含めて役職の違いは役割の違いであり、価値は同じであるという考えで経営しています。ある意味で平等社会です。風通しは非常に良いと言えるでしょう。
この文化を大切にするために私は毎年2回、全社員にインタビューを行なっています。尋ねることは「勤務時間に無理はないか?」「社内での不満や問題意識はないか?」「社内で次にやりたい仕事は何か?」「いつ頃までオークハウスに勤務するのか?」の4点です。できるだけ社員の成長と将来計画に沿いながら会社も成長したいと考えています。