Guest Profile
渡辺 正憲(わたなべ・まさのり)
ユニテックシステム株式会社 代表取締役社長 事業内容:労務管理システム全般(開発・販売・サポート)/人材派遣、請負、紹介事業向け基幹管理システム/ASEAN向け開発事業、ASP、クラウド事業/ハードウエアロジック設計、製品開発 所在地 :東京都台東区上野1-10-10 うさぎやビル6階 設 立 :1986年10月 URL :http://www.uts-corp.co.jp/ 1959年生まれ。大手システムハウスで初の営業職として輝かしい実績を残し、86年ユニテックシステム創業メンバーとして、ブランディングを推進し、2008年より代表取締役に就任。現在人材業界向け基幹システムの業界TOPの座を確立する。
特集労務管理の精度アップと効率化を実現〝働き方の質〞を高める、勤怠管理システム
1.人材業界からのお墨付きで不正打刻を防止する
静脈認証が労働生産性向上を促すという革新的な手法が、遠からず具体化するかもしれない。その第一歩が静脈認証による勤怠管理である。
今年(2018)4月、出退勤管理とシフト管理、給与計算を直結させ、さらに生産性向上にまで連動する手のひら静脈認証式の勤怠管理システムがリリースされた。ユニテックシステムが開発した『コレクトタイムナビ』である。同社は人材派遣業界向けの基幹系労務管理システムの最大手で、社長の渡辺正憲によると「人材派遣会社の管理水準の向上を目的に、行政管轄の派遣業法講習会でも当社システムでの管理方法がモデルケースとして紹介されている」という。
いわば人材サービス業界のお墨付きを得たシステムが進化して、コレクトタイムナビが開発されたのである。
キッカケは同社がカンボジアの日系ホテルから受けた相談だった。現地雇用の従業員が他の従業員に成りすますなどタイムカードの不正打刻が頻発しているので、回避する手段はないかと。不正打刻を防止する勤怠管理システムとして、当初、同社は顔認証、指紋認証、IDカード認証を検討した。
しかし、3つとも欠陥があったと渡辺は振り返る。「指紋認証は他人の指紋を携帯電話で撮影すれば成りすましができ、顔認証は画像が劣化して判別しにくい。IDカード認証にはカードの不正取得というリスクがある。これらを踏まえて100%不正が発生しない静脈認証を選んだ」
2.効率的な人員調整、シフト管理に効果をあげる
認証のセンサーに採用したのは富士通フロンテック製の「手のひら静脈認証センサー」で、ミャンマーの国営銀行にも採用されている。非接触型なので、従業員はセンサーに手をかざしてスキャンするだけでよい。スキャン時間は1秒。取材時にデモ機のセンサーに手をかざして認証を試したところ、手をセットしてスキャンして離すまでの所要時間は、5秒に満たなかった。
タイムカードならカードを探して、ラックから抜き取り打刻してから、ラックに戻すまでに30秒程度を要するのではないのか。工場や倉庫など従業員数の多い職場では、出退勤時にタイムカードの前に行列ができてしまうが、コレクトタイムナビは、不正打刻の防止だけでなく行列に並ぶという非効率な時間の解消にも役立つ。
だが、コレクトタイムナビの機能はそれだけではない。
ほかにも以下のような機能を備えている。①クラウド型システムなので複数の事業所の出退勤状況をリアルタイムに把握でき、勤務時間管理と効率的な人員調整ができる、②就労条件の異なる従業員に対して、素早く柔軟にシフトを組める、③就業時間が自動集計され、CSVで出力されるので給与計算の負荷を軽減できる。「月末に勤務時間を集計して給与を計算するという手間を解消できる」(渡辺氏)。④パートタイマーや外国人労働者など従業員の入退社の多い職場でも、静脈の登録を過去データとして使用できるので、復職時にIDやパスワード作成の手間を省ける。
端末は、手持ちのタブレットやパソコンにアプリケーションをインストールするタイプ、専用機に静脈認証センサーとタブレットを内蔵したタイプの2種類。初期費用は前者が13万5000円、後者が20万円(※ともに機材購入費用込み)。ランニング費用は従業員数に応じて一人当たり200〜300円/月(利用人数規模による)が課金されるが、システムに登録されている人数ではなく、当月に実際に勤怠打刻を利用した実人数でカウントされるため、無駄なコストが発生しない。
3.大手小売りチェーンの試行導入もスタート
今年(18年)4月にリリースして以降、ホームページ経由で1カ月に大手製造業を中心に40件の問い合わせが入り、大手小売店チェーンの一部店舗で試行的に導入が始まった。一方、現地法人を構えるミャンマーでは、先行して昨年(17年)10月から販売を開始して、水関連工場や専門学校、日系の雑誌制作会社など約5社が導入している。
コレクトタイムナビの用途は勤怠管理だけではない。渡辺は「ゴルフ場やフィットネスジムなどの会員管理への導入も計画している。会員が入場時と退場時にセンサーに手をかざせば、利用状況をリアルタイムで把握できる」と語る。さらに労働生産性向上を導くスキームも視野に入れている。「例えば工場のラインごとや、スーパーなどの売り場ごとにコレクトタイムナビを設置すれば、勤怠状況に労働原価を加味して、部署別に業績と就労の相関関係が明らかになる。その結果、人数とシフトを最適化でき、労働生産性の向上にも役立つ」(渡辺氏)
勤怠管理だけにとどまらず、応用範囲の広いシステムなのである。
営業手法は自社ホームページ経由のほかに、自社発行媒体の活用を考えている。子会社のオーピーエヌ(東京都千代田区)が発行する『月刊人材ビジネス』(2万部発行)は、47都道府県の労働局も定期購読する人材業界唯一の専門誌で、同誌のチャネルでプロモーションを展開する方針だという。
同社は1986年の設立以来、32年間で人材業界に1800社の顧客を築いてきた。この基盤も有力な営業チャネルになり得る。海外展開も構想に入れ、開発ニーズが顕在化したカンボジアと先行販売したミャンマーを皮切りに、渡辺は「いずれASEAN加盟10カ国にコレクトタイムナビを普及させたい」と展望する。
労務管理の精度は事業の質に直結する。シフト勤務やパートタイマーの多い企業では、コレクトタイムナビの導入がターニングポイントとして評価される時代が来るだろう。