高崎市長 富岡賢治

Guest Profile

富岡賢治(とみおか・けんじ)

1946年8月生まれ。69年6月、東京大学法学部卒業。同年7月文部省(現文部科学省)入省。総務審議官、生涯学習局局長、国立教育研究所(現国立教育政策研究所)所長などを歴任。2003年1月群馬県立女子大学学長に就任(10年8月退任)。11年5月高崎市長に当選。15年5月より2期目を務める。

特集地方からニッポンの活力を斬新な施策で国に頼らない地方創生を目指す

1.「ものづくりシティ」目指す市単独で海外フェア開催

 2015年10月、群馬県高崎市は、欧州の中央に位置するチェコとポーランドの2カ国で、「ヨーロッパ商談会」を開催した。海外での技術提携や販路開拓を目的にした「ものづくり海外フェア」の一環で、市内の製造業を中心に13社が参加した。市が単独で海外商談会を行なうのは全国的にも珍しく、地方自治体の意欲的な取り組みとして注目されている。

 地域産業を推進する一方で、高崎市は芸術・文化活動も盛んだ。全国でも数少ないオーケストラのある地方都市で、高崎音楽祭や高崎マーチングフェスティバルが開かれるなど、音楽関連の活動が盛んなことから、「音楽のある街」としても知られる。また、高崎フィルム・コミッションによりドラマや映画などの撮影を積極的に誘致。高崎映画祭が毎年開催されている。

 市をけん引するのが、11年に就任した富岡賢治市長。旧文部省(現文部科学省)出身だが、国の施策に頼るだけではなく、独自の地域活性化策を打ち出している。

 高崎市には独自技術を誇る中小企業が多く、市は「ものづくりシティ」を目指し、さまざまな活動を展開する。12年から東京・丸ビルで「高崎ビジネス誘致キャンペーン」を開催。高崎が誇る世界的なものづくり技術や国内有数のビジネス立地環境をPRし、高崎のブランド力の向上と企業誘致・誘客を積極的に図っている。この延長として、海外に目を向けたのが前述の「ものづくり海外フェア」である。

2.さまざまな助成制度を設け商業の活性化にも注力

 大型商業施設に客を奪われ、個人商店の多くが青色吐息というのは全国共通の現象だ。そこで高崎市は地元商業活性化の一環として、店舗リニューアルの支援を始めた。改装費用の2分の1、最大100万円まで助成する制度で改装業者は市内の事業者に限られる。

 この大胆な施策により、たとえば、客足が遠のいていた町の電器店に家電やパソコンを買い求める客が来るようになり、トイレをきれいにリフォームし女性客が増えた飲食店もあるという。

「同じような助成金制度を設けている自治体はありますが、100万円までというのは例がないと思います。リニューアルに関心のなかったお店も手をあげ始め、当初の予算(3億5000万円計上)を上回りましたが、うれしい悲鳴です」

 この助成金制度が生まれたのには、背景がある。富岡市長が就任したのは東日本大震災の直後だった。消費が冷え込む中、零細企業や商店の仕事を増やすにはどうしたらいいのか。各方面で探ったところ、出てきた案が住宅のリフォーム補助だった。高齢者向けに家のトイレを改修したり、玄関の段差をなくしたりといった改修工事に対し、費用の30%、最大20万円まで助成する制度を設けた。

「この効果には半信半疑だったんですが、思った以上に、町の工務店や建具店などに仕事が生まれました」と富岡市長は振り返る。

 この成功を受け、15年度は空き家対策を実施した。空き家の取り壊しに5分の4の費用を助成するほか、補修して地域コミュニティーの場にすれば、運営費の3分の2を援助。また、山間部の空き家を若い夫婦に貸したら、家賃の半分を助成するというものだ。


 市はほかにも事業支援や創業支援などさまざまな資金援助制度を設けている。

3.ビジネス興隆を通じて安心して暮らせる街づくりを

 現在、ユニークな計画が進行している。14年2月の大雪でアーケードの一部が崩落した商店街「高崎中央銀座アーケード」の再開発。市の若手職員による再生プロジェクトチームなどでの検討を踏まえ、「昭和」をイメージしたレトロな雰囲気漂う屋台横丁として整備することになったという。

 市がアーケード本体の工事を行ない、中央銀座アーケード(全長約430m)の一部、崩落区間を含む約110m部分を飲み屋街にする。昭和風の店づくりは民間の力を活用するという。

「東京・新橋のように若い女性が立ち飲みするような場所になればいいなと思っています」

 一連の取り組みを見てきたとおり、富岡市長は前例や慣習にとらわれず、あの手この手の施策を思い切って打ち成果をあげている。

「要は何でもありで、チャレンジしようということです。すべてがうまくいくとは限りませんが、トライ&エラーでやっていく。地方自治体では汗をかいた施策を出し、やれることをちゃんとやりましょうということに尽きると思います」

 そうして目指す高崎市の姿とはどういうものなのか。富岡市長は次のように語る。

「地域再生ではビジネスの活性化が不可欠ですが、ビジネスを盛んにすることが目的ではなく、それにより雇用を増やし、それを背景にして、子どもからお年寄りまで、あらゆる世代の市民が落ち着いて安心して暮らせる街にすることが目的です。そうすれば外から移り住む人も増える。そのためにさまざまな施策に積極的に取り組んでいるところです」

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