――村上さんはグローバル人材のスペックとして全米トップクラスの大学院で修士号以上を取得した上で、GPAが3・5以上などを挙げています。日本のビジネス界にとってはレベルが高すぎるという印象ですが……。
村上 その通りなのですが、頭ごなしに説いても仕方がないので、私はグローバル人材をインターナショナル人材、マルチナショナル人材、トランスナショナル人材の3種類に分けています。インターナショナル人材は海外出張を命じられたら翌日でも平然と出張できる人材で、マルチナショナル人材は海外現地法人に赴任し、家族とともに現地で暮らせる人材です。就労ビザを取得して、所得も現地での取り扱いとなる生活をする人たちです。
 トランスナショナル人材は国家や国籍などを超えて変幻自在に生きられる人材です。小学校、中学校、高校、大学、さらに就職、起業など人生の節目、節目をどの国で過ごすことが最も効率的かを考え、実行している人材です。

 

――地球全体が母国という意識なのでしょうか。
村上 そうです。日系地球人とか韓国系地球人とかフランス系地球人という立ち位置です。トランスナショナル人材はグローバル人材の完成形と言えるでしょう。

 

――グローバル人材に必要な語学力はどんな手段で習得すればよいのですか。
村上 インターナショナル人材を育成するには365日1日も欠かさず毎日1時間、中学校3年間の英語の教科書のCDを聞きながら音読することです。1年後には頭の中で中学校3年間の英語の教科書の英文が鳴るようになります。
 マルチナショナル人材の育成では『CD付文で覚える単熟語』(旺文社)シリーズの準2級、2級、準1級、1級の順に毎日1時間CDを聴きながら音読。1級になると英語を学ぶのでなく英語で学ぶ〟という質的な変化が起こります。4冊の英文が頭のなかで鳴るようになるまでには3年。さらにトランスナショナル人材には『テーマ別英単語ACADEMIC』(Z会)の初級、中級(人文・社会科学編、自然科学編)、上級(同)の計5冊を同様に毎日1時間CDを聴きながら音読します。所要期間は5年で、この5冊の英文が頭のなかで鳴るようになれば、ネイティブ並みの英語力が身につきます。
 こうして段階ごとに1年、3年、5年の計9年を費やせばトランスナショナル人材の英語力が身につきます。22歳の新入社員なら31歳でそのレベルに到達する計算です。

 

――リベラルアーツもグローバル人材の要件であることは、日本でも一般論としては知られていますが、どのぐらいの水準が求められるのですか。
村上 必要なリベラルアーツについては私の著書『村上式シンプル仕事術―厳しい時代を生き抜く14の原理原則』に全て書いてあります。この本はたった1570円(税別)ですよ(笑)。この本には、文系と理系それぞれの職種にとってリベラルアーツを身につけるための必読書リストも書いてあります。

 

――評論家の立花隆さんの本棚のようなイメージですね。 
村上 いえいえ、そこまでインテリではありません。ただ、経営者の愛読書を見ると、いまだに司馬遼太郎の作品ばかりじゃないですか。もう、そういう時代はお仕舞いにしましょうよ!

 

――日本の人材マーケットに語学とビジネススキル、さらにリベラルアーツまでも兼ね備えた人材はどれだけいますか。
村上 日本人に人材がいなければ外国人を採用すればよいのです。ビジネスに年齢、性別、国籍は関係ありません。
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――でも、グローバル人材に使われた経験がないと、グローバル人材を採用しても使いこなせないのではないかと思います。
村上 そんなことはありません。測定可能な目標と評価基準を明確に設定して、信賞必罰の人事を実行すればよいのです。まず上司と同僚と部下の意見を取り入れてチームとして本人の四半期目標を策定し、未達成になったらチームで次の四半期のリカバリープランを協議し合う。ふたたび未達成なら人事部が関与して適正と思える業務に異動してもらい、それでも成果が出なければ再就職の支援をして、合意の上で退職してもらうしかありません。
 終身雇用の時代が終わった今、経営者が心にもないのに家族主義経営を口にすることは不誠実です。

 

――成果主義が徹底されると成果を出し続けても燃え尽き症候群に陥るリスクはないでしょうか。
村上 メンタルヘルスにもしっかりと取り組むのです。グーグルでは瞑想を取り入れたり、毎週金曜日の夕方に、社内でパーティーを開いたりしてメリハリをつけています。それからオフィスの各所には常時ソフトドリンクと果物などを用意して、社員が何時でも飲食できるように取り計らっています。

 

――そうした企業の例は日本企業の中にどこかありますか。
村上 残念ながら日本では米国企業の日本法人ぐらいしか見当たりません。

 

――例えばグーグル日本法人をベンチマーキングすることが現実的な改革方法になりますね?
村上 グーグル日本法人にはあらゆるタイプの企業が視察にお越しになりました。しかし、ほとんどが物見遊山にすぎず「社員食堂が凄い!オフィスがおもちゃ箱をひっくり返したようだ!」などと見た目の感想を述べただけでした。グーグルの経営陣とディスカッションをすれば視察が実になると思いますが、そんな企業はまずありませんでした。
 グーグルの人材育成を知りたければ表面的な視察でなく『How Google Works―私たちの働き方とマネジメント.』(エリック・シュミット著)や『ワーク・ルールズ!』(ラズロ・ボック著)を読むことをお勧めします。

 

――ありがとうございました。

 

 

*『CEO社長情報』vol.22掲載

 

|プロフィール

村上 憲郎(むらかみ・のりお)

1947年大分県生まれ。70年京都大学工学部卒業。卒業後、日立電子に入社。78年日本DECに転職、86年から5年間米国本社勤務、帰国後92年に同社取締役に就任。94年に米インフォミックス副社長兼日本法人社長。99年にノーテノーテルネットワーク社長。2001年にドーセントジャパンを設立し、社長に就任。03年より米グーグル副社長兼日本法人社長に就任。09年グーグル日本法人名誉会長。現在は同社の経営からは退き、村上憲郎事務所代表を務めている。14年12月エナリス代表取締役に就任 (現任)。