参入企業の増加で競争激化 徹底した差別化で生き残り

 「インバウンドはブームではなく、トレンドだと思います。ブームは消えますが、トレンドは小さな波はあっても続きます。2020年の東京五輪・パラリンピック以降も続き、一つのマーケットとして確立されてくるでしょう」

 

 インバウンドに特化したBtoBサイト「やまとごころ.JP」を運営するやまとごころ代表取締役村山慶輔はこう語る。同社では07年から、インバウンドに取り組む企業や自治体に対し、情報発信やコンサルティングサービスを提供してきた。

 

「これからのインバウンドビジネスで重要なのは差別化です。顧客を明確に定義して、その顧客に対して良質な体験を提供した上で、リピートしてもらう、ファンになってもらうことが重要です。特に中小企業の場合はターゲットを絞り込むことが成功の秘訣です」

 

 たとえば、イスラム教徒(ムスリム)だ。世界の4人に1人はムスリムで、インドネシアやマレーシアなど東南アジアから多くのムスリムが来日している。そのムスリムを狙い、カラオケチェーンのまねきねこ(四谷三丁目店)は「ハラール認証」を取得、イスラム教の教えに則った食事を提供して人気を集めている。

 

 LGBT(性的マイノリティー)をターゲットにするホテルもある。

 

「東京や京都などの富裕層向けのホテルもLGBTの受け入れに積極的で、実際、宿泊客は増えています」

 

 

「外国人目線」を持ったファシリテーターがカギ

 インバウンドビジネスで成功している企業の共通点として、村山は「外国人目線」をあげる。

 

「外国人目線」を持つにはどうすればいいのだろうか。

 

「ファシリテーターといいますが、中間に立つ人が必要です。それは外国人でも日本人でもかまいません。地域の人はずっとそこに住んでいるため、自分たちのことを客観的に見られず、地域の魅力に気づかない。これは企業も同じで、自分たちの商品やサービスを客観的に見ることが大事です。そのために地域や企業と外国人の間に立ってビジネスをつくったり、コンテンツを企画したり発信していくのがファシリテーターの役割です」

 

 たとえば、岐阜県飛騨市の「飛騨里山サイクリング」。里山を自転車で走り、ありのままの自然を楽しむという体験型プログラムだが、数多くの外国人がやって来る。人気の秘密はサイクリングだけではなく、地元の高齢者らとの交流、触れ合いにあるようだ。同プログラムをつくった山田拓氏は奈良県出身で、飛騨には縁もゆかりもないが、自身が世界中を旅した経験から、このツアーを思いついた。

 

 群馬県水上市のキャニオニングも外国人に人気があるが、ファシリテーター役を担っているのはニュージーランド人だ。

 

 広島県安芸太田町の取り組みも注目される。広島市内から車で1時間ほどの高齢化、過疎化が進む人口約6000人の町だが、広島市を訪れる欧米の富裕層をターゲットに、町の伝統行事である神楽の練習体験プログラムを実施し、インバウンド層の集客に成功している。練習は夜行なわれるため、参加者は町に宿泊することになり、地元に確実におカネが落ちる。このケースでは、外国の旅行会社がファシリテーターになった。

 

「インバウンドは日本中どこでも可能性があります。そしてインバウンドに取り組むと、地元の人が誇りを持ちはじめる。外国人が来るということで、わが町も捨てたもんじゃないと。これは町の活性化という点でも大きな効果の一つです」

 

 

最初の一歩はハードルを低くそして継続することが重要

 インバウンドビジネスに取り組もうと考えている企業や自治体、特に中小企業や個人経営店に対しては、最初の一歩のハードルをできるだけ下げることがポイントだと村山は助言する。そして、小さな成功を積み重ねていくことが大事だと。

 

「『トリップアドバイザー』という世界最大の旅行サイトがありますが、この中に自分のサイトを無料で持つことができます。小売りや飲食店などはまずはトリップアドバイザーで宣伝したり、フェイスブックの活用をおすすめします。実際、築地市場を散策するツアープログラムなど、トリップアドバイザーだけで成功している事例もあります」

 

 またインバウンドビジネスには「誰でも簡単に始められる」という魅力がある。

 

「極端な例では、店の前に外国語の看板を出すとか、留学生を雇って呼び込みをするといったことから始めてもいいのです。言葉の壁も、カタコトでも単語でも、気持ちが伝われば外国人は喜びます。インバウンドに取り組む時に、あまり大きくとらえすぎないこと。そして、とにかく早く始めることです」

 

 その上で、中長期的な戦略が重要だと強調する。

 

「アクションを起こしたら継続すること。儲かる、儲からないだけだと、近視眼的な判断になる。半年や1年で成果を求めてはいけません。成功しているところはみな5年、10年と続けている。それが日本のインバウンドの共通点です。すぐに諦めてはいけません。そうすれば中小企業でもナンバー1になれる可能性はさまざまな分野にあります」

 

*『CEO社長情報』vol.21掲載

 

|カンパニーデータ

事業内容●コンサルティング事業、研修・セミナー事業、メディア事業、求人サイト運営事業
設 立●2012年11月
資本金●900万円
社員数●10名
所在地●東京都新宿区新宿2-9-22 
多摩川新宿ビル3F
電話番号●03-5312-8314
URL●http://www.yamatogokoro.jp

 

プロフィール

村山慶輔

1976年兵庫県生まれ。米ウィスコンシン大学マディソン校卒業。在学中、20ヵ国以上を旅行。2000年アクセンチュアに入社。地域活性化、グローバルマーケティング戦略などのさまざまなプロジェクトに従事。06年に独立、07年インバウンド観光に特化したBtoBサイト「やまとごころ.JP」を立ち上げる。12年11月株式会社やまとごころを設立。現在、東京観光財団アジアセールス委員会委員長なども務める。