株式会社エボラブルアジア 吉村 英毅

Guest Profile

吉村 英毅(よしむら・ひでき)

1982年生まれ。大阪府出身。東京大学経済学部経営学科卒。経営管理と金融工学 を専攻。大学在学中の2003年にValcom(現エボラブル アジアに吸収合併) を創業し、代表取締役社長に就任。2007年にエボラブル アジア(旧社名旅キャピタル)を共同創業し、代表取締役社長に就任。

特集WEBサービスのトップブランドも活用継続率90%の"ラボ型"オフショア開発

1.オフショア開発の課題を解決

 日系オフショア開発企業の最大手、エボラブル アジアはオフショア開発のリスク要因を解消し、受注拡大に向かっている。

 ITシステムのオフショア開発は、開発過程のブラックボックス化を要因に、開発コンセプトからの乖離やバグ発生など品質不安が付きものだった。その影響で日本のシステム開発市場規模は約10兆円と推計されるが、オフショア比率は1%、金額にして1000億円にとどまっている。

 一方、米国とEUでは計100兆円前後の市場規模に対して、同比率が10%に達している。

 同社社長の吉村英毅は「日本では今のITエンジニアの供給不足が今後も続く見通しにあるので、1%が10%に近づくかもしれない」と市場性を見出している。

 オフショア開発に踏み切るうえでの課題は品質管理だが、この課題を解決したのがベトナム法人の運営する「ラボ型オフショア開発」だ。

 ラボ型オフショア開発は、同社のベトナム法人がクライアントごとに完全専属チームを組成。クライアントのプロジェクトマネージャーが現地に常駐するか、日本とスカイプで常時つなぐなどして直接、作業指示や進捗管理、品質管理を行なっている。吉村は「エンジニア一人ひとりの業務を時間単位で把握できて、業務を100%コントロールできる。社内開発と同等の環境が実現している」と語る。

2.エンジニアは500人稼働率100%

 品質の担保は、チームメンバーとなるエンジニアの採用でも確保されている。

 新たなクライアントから業務を受注するたびに専属エンジニアを正社員として新規採用するが、選考時にはクライアントから可能な開発言語、経験年数、開発実績などのスペックを確認。そのうえで、現地法人が一次面接を実施して、最終面接はクライアントが実施している。

 吉村は「既存の人材を当て込むのではないので、人材がスペックに完全にマッチする。この採用方法を取っているのは当社だけだ」と明言する。

 コストメリットもラボ型の特徴である。従来のオフショア開発で人件費が月30万円以上に高騰している現状に対して、同社の人件費は月25万円平均に抑制できている。“ラボ型”という体制が稼働率100%を可能にし、コストメリットを生み出しているのだ。

 現在稼働しているラボは大手通信事業会社や大手広告代理店からスタートアップ期のベンチャー企業まで60社。毎月5社のペースでクライアントが増え、500人のエンジニアが就労している。ラボの継続率は約90%で、約75%のクライアントがラボ人員を増員させている。

 同社がラボ型オフショア開発をスタートさせたのは2012年。当時から、エンジニア数200人前後のラボ型サービス事業者が数社存在していたが、同社は2年で追い抜いた。

3.競争力の源は採用力と生産性

 何が同社の競争力となったのだろうか。

 吉村は2点を挙げる。
 第1に採用力。例えば今年5~6月にそれぞれ40~50人を採用したが、応募者は各月1000~1300人に上った。ベトナムのIT企業では最大級の応募者数である。エン・ジャパンの現地法人が運営する採用媒体「ベトナムワークス」は現地の採用市場で約70%のシェアを持つが、エボラブル アジアは同法人と包括的業務提携を結び、ベトナムワークスは24ヵ月連続で応募者数トップを記録した。

 採用力の背景は「当社がベトナムのIT企業の中で成長力が著しく、ブランディングされたこと」と吉村は分析する。

 競争力の第2は、クライアントと中長期の受託を前提に取り引きしていること。一つのプロジェクトを終えたらチームを解散するのでなく、継続的に案件を受託するために在籍期間とともにエンジニアの生産性は向上する。これがクライアントにメリットをもたらしているのだ。

 エンジニアの離職率が低いことも、人材の質向上に結びついている。ベトナム企業の年間平均離職率は20%超だが、同社の場合、その3分の1にすぎない。

 その秘訣は「企業文化経営にある」(吉村)という。現地法人では、リクルート出身者で構成されたマネジメントチームが表彰制度やイベント、クラブ活動などベトナム企業には珍しい活性化策を導入し、社員の定着を高めている。

 ラボ型オフショア開発はクライアントが業務にコミットして、同社が人材管理にコミットする体制だ。吉村は「両社がコミットするので失敗のしようがない。だから継続率も高い」と言い切る。

 こうした実績を受けて、日本でのクライアント獲得でも営業環境が整ってきた。

「日本のWEBサービス分野のトップブランド企業から当社のラボ型開発が評価され、続々と利用されていることで、営業はしやすくなった」

 今後の事業拡大を想定して、同社はベトナム法人のエンジニア数を3年後に5000人、5年後には1万人を見込む。開発拠点の建設計画も進行中で、エン・ジャパンの現地法人と共同でサッカー場などスポーツ施設も併設した「エボラブル アジア・タウン」を建設する計画である。

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