ラジオNIKKEIキャスターうちだまさみ の本音でトーク!

 

 キャスターとして、番組ディレクターとして、数々の上場企業社長へのインタビューを経験してきたうちだまさみ氏。

 その豊富な社長ネットワークを生かし、上場にかけた社長の熱い思いや本音に迫る。

 

 

 

 

顧客数は1800以上日本最大級の技術サービス

 折口雅博という名前を覚えているだろうか。ディスコ「ジュリアナ東京」を立ち上げて、一大ブームを演出した後、人材サービスを手掛けるグッドウイル・グループを率いて一時は、時代の寵児と持ち上げられた経営者が、折口氏だ。

 

 その折口氏に翻弄され続けた企業がある。それが、2014年12月15日、東京証券取引所第一部市場に上場を果たしたテクノプロ・ホールディングス(以下テクノプロHD)、および事業を行なうグループ会社を含むテクノプロ・グループだ。

 

 テクノプロ・グループは、1万1000人を超える技術者や研究者を「正社員」で雇用し(一部の施工管理技術者を除く)、大手企業や大学の研究室、公的研究機関など約1800の顧客と技術者派遣や請負の取引をする、国内最大級の技術系人材サービス会社だ。

 

 機械、電機・電子、情報システム、医薬・バイオ、施工管理など産業界が必要とするほぼすべての技術領域をカバーできる人材を抱え、稼働率は95%を超える。日本の独立系人材サービス業の中で、中国での技術サービスの事業化に成功しているのは同社グループのみで、さらなる成長が期待されている。

 

 その同社が上場(株式公開、IPO)を目指したのは、「並々ならぬ強い想い」があったからだと、西尾保示社長は話す。「“過去”と訣別し、新たなスタートラインに立つために必要だった」と。

 

 西尾社長がほのめかす過去とは何か。

 

 

投資ファンド傘下の毎日は熾烈な戦いの連続だった

 時は、テクノプロHD誕生前にさかのぼる。06年秋、グッドウイル・グループが、大手人材サービスグループを買収した。その中には、後にテクノプロHDの中核企業となる、現テクノプロも含まれる。技術系人材派遣業は、一般派遣業に比べると高い利益率が見込める、安定した事業分野だ。折口氏はそこに目を付けた。

 

 西尾社長は「この頃が、折口氏にとって我が世の春だったのではないか」と、皮肉交じりに振り返る。と同時に、折口氏によるこの買収が波乱の時代の幕開けともなったのである。

 

 大手人材サービスグループを買収した一年後、グッドウイル・グループは子会社の不祥事が引きがねとなり、経営破綻。経営権は外資系投資ファンドの手に移った。投資ファンドの目的はもちろん「利益追求」だ。企業を安く買い叩き、再生させた後に高値で売り抜けるため、不採算分野の売却や廃業を冷徹に進める。実際に、グッドウイル・グループ傘下の事業会社も、そのほとんどが他の企業に売却されていった。

 

 そんななか、技術系人材派遣分野を手放なすことはなかった。投資すべき「有望な事業分野」と考えていたからだろう。とはいえ、投資ファンドが管理の手を緩めることはない。西尾社長も「想像以上に厳しかった」と当時を振り返る。

 

 容赦ないリストラや、利益のすべてを配当にまわすことを迫るなど、ファンドとの会議は「常に熾烈な戦いの場」だった。そんな日々の中で「稼いだ利益を会社の成長のために使えないストレスが、社員を徐々に疲弊させていった」という。

 

 この「負の連鎖を断ち切らなければこの会社に未来はない」──西尾社長が選んだ方法が、「上場」だった。

 

 

人材派遣の地位向上と技術者の門戸開放

「歯を食いしばって残ってくれた社員に、もう一度誇りを感じてほしい」

 

 背水の陣といってもいいその決意を、自分の心のうちだけにとどめて、西尾社長は行動を起こした。

 

 まず、「会社が向かう方向を、社員に明確に示すため」長期ビジョンの策定に取り掛かった。次に、事業会社の名前をテクノプロブランドに統一し、グループ会社を統合した。その結果、多くの情報が共有化され、社員が幅広く働ける環境を整えた。矢継ぎ早の施策は、会社の雰囲気を確実に変え、次第に「上場」が社員共通の目標となっていった。

 

 このタイミングで強いフォローの風となったのが、あの「アベノミクス」。投資ファンドは、「勢いよく上昇している株式市場に上場すれば、大きな利益が得られる」と判断したのだろう、驚くほどあっけなく上場に同意した。そのGOサインで、テクノプロHDは一気に上場へと突き進む。

 

 そして、14年12月15日、ついにその日がやってきた。西尾社長はこの日を「なんとも言えない高揚感」で迎えたという。きっと、テクノプロ・グループの全社員も同じ気持ちだったにちがいない。ようやく自らの足で踏みだした、新しい一歩だったのだから。

 

 グローバル化が進み、コストを抑えながら、新技術・新商品開発の早いサイクルに対応できる優秀な技術者が、企業にはますます欠かせない。ところが、技術者として新卒者が大手メーカーに就職できるのは、ほんの一握り。志望先に就職できず、技術者への道を諦めてしまう学生も多いという。

 

「日本の優れた技術をさらに発展させるために、技術者の門戸を広げていきたい」という強い思いから、テクノプロ・グループでは、技術者を正社員として雇用した後も、充実した人材教育制度で、向上心の強い技術者の成長を後押ししている。

 

 同社の上場は、日本では決して良いとはいえない「派遣業に対するイメージ」を改善する可能性を高めたように思う。以前は、「派遣業」と聞いた学生の親が就職に反対し、内定を辞退するケースもあったというが、今年は全く聞かれない。これも上場効果だとすれば、テクノプロHDの上場は、技術系人材派遣業の地位向上と、優秀な技術者の増加を実現する、重要な起点になったとも言えそうだ。

 

 

 

*『CEO社長情報』vol.19掲載

 

|インタビューを終えて

 上場前の投資家回りでは、MBO(マネジメント・バイアウト)により関係全てが切り離されているにもかかわらず、何度もグッドウイル・グループとの関係説明を求められたそうです。

 西尾社長も「一時はさすがに気持ちが後ろ向きになった」といいます。その気持ちをすっかり晴らしてくれたのは、「グッドウイル・グループが再上場するのではない。

 テクノプロHDが新たに上場するのだ」という大先輩の言葉。重い過去を含めて、西尾社長は終始、穏やかな表情で語ってくれました。その表情からは未来への強い自信を感じることができました。