式会社日宣メディックス 上金 健一

Guest Profile

上金 健一(かみがね・けんいち)

1968年茨城県生まれ。地元大学在学中にカメラマンのアルバイトとして勤務。90年、大学卒業後、同社初の新卒として入社。営業から求人情報誌や情報サイトの立ち上げを経験し、2011年常務取締役、2015年より代表取締役社長就任。オフタイムはバンド、釣り、バイクなどの数多くの趣味でリフレッシュ。 <カンパニーデータ> 株式会社日宣メディックス ■代表取締役社長:上金健一 ■業種:プロモーション広告の企画・制作、情報誌出版事業など ■設立:1982年6月 ■資本金:3000万円 ■所在地:茨城県水戸市元吉田町716-3 ■電話:029-248-2344 ■URL:http://www.nissenmedix.co.jp

特集茨城県を「情報」で活性化させる地域専門広告企業の「戦略」

1.広告代理店であっても多くの自社媒体を持つ存在

 長びく不況、そして消費増税の影響も続き、個人消費は冷え込みから抜け切れていない。こうした消費低迷のあおりを受け、広告業界も苦しい状況が続いている。

 だが、地方に目を移すと、地域に密着し、健闘している広告会社が存在する。

 その一つが、水戸市の日宣メディックスだ。

 創業は1982年。今日に至るまで一貫して、茨城県のみで事業展開し、発展してきた。同社の大きな特徴は、多数の自社媒体を持っていること。広告会社と言えば、新聞の紙面やTVの広告枠を売る企業のイメージが強いが、同社の場合、出版機能を併せ持ち、多くの自社媒体を持っているのだ。同社の売上構成比を見ても、情報誌関係が60%、販促事業(チラシ・パンフレット・ポスターなど)が35%、その他(インターネット関係など)が5%となっている。

 自社媒体は86年創刊の中古車情報誌『月刊オートガイド』にはじまり、現在では無料配布する地域情報誌、いわゆるフリーマガジンが主力になっている。求人情報誌『求人アルゾ』(98年創刊)、クーポン付き情報誌『クータ』(05年創刊)など、各カテゴリーで実績のある媒体が多い。現在10誌を発行し、その総発行部数は約70万部と、茨城県内でトップクラスの情報量を誇る。同社社長の上金健一は、この強さを次のように分析する。

「茨城県には、ローカルの民放TV局がないなど、広告掲載用の媒体が限られるという事情がありました。そこで、当社では、早い段階から自社媒体の展開を図ってきたわけです。それが、今日の事業基盤の構築にもつながりました」

 インターネットの普及に伴い、09年には茨城県の地域情報ポータルサイト「いばナビ」を開設。ショッピングやレジャー、グルメといったさまざまな生活情報が検索でき、掲載店舗数は5000店舗を突破している。同時に、インターネットの専門性に対応するため、ネット広告専門のグループ会社として日宣パートナーズを立ち上げ、「食べログ」「LINE」といった全国区の情報サイトとも提携している。

2.中期ビジョンに揚げた「オンリーワン地域活性化企業へ」

 同社は昨期、消費増税による不況に直撃され、営業利益が過去最低になったことを機に、15年1月創業者で現会長の粂田信行氏から、当時常務取締役だった上金氏にバトンタッチされた。

「確かにピンチでしたが、粂田会長は、資金力があるうちに、企業体質を思い切って改革するチャンスだととらえたのでしょう。最低レベルからの出発なら、『上金もやりやすいだろう』という親心もあったようです。社長に就任する前、粂田会長から会社の中期ビジョンを作るように指示されたのですが、『自分で立てた経営計画なんだから、社長として実行してみろ』と言われました」

15~20年の中期ビジョンでは、企業のミッション(使命)を「情報による地域活性化」、バリュー(価値)を「地域愛」、ビジョン(将来像)を「オンリーワン地域活性化企業へ」として掲げている。「地域活性化とは、地域に人、物、金、情報、そして地域への誇りをあふれさせること。オンリーワンとは、競合他社がやらないこと、できないと思うことを成し遂げること。そして、茨城に対する地域愛こそ、地元企業の強みだと考えています」と、上金社長は説明する。

「茨城県の広告会社として、茨城情報の発信によって、地域に貢献したい。茨城県は、都道府県の魅力度ランキングで、いつも最下位レベルなんですね。そのせいか、県民も茨城に対する誇りが薄いように感じます。つまり県民の多くが地元の魅力に気づいていないのです。ですから、県外だけでなく、むしろ県内から地域の魅力をPRしていきます」

3.エリアを絞ったほうが情報がヒットしやすくなる

 上金社長が進めているのは、茨城県を地域ごとにセグメント化すること。そして、各地域の情報をとことん深堀りすることだ。そのため、競合も多い水戸やつくばといった主要マーケット以外で、積極的に地域限定情報誌を展開していく。既に、09年には日立地域限定の生活情報誌『ひたっち』を創刊。ポスティングで6万部を発行している。13年には、筑西・下妻・結城地区限定の『月刊にしも』、鹿嶋・神栖地域限定の『かしす』という生活情報誌も創刊した。

 情報誌はすべて地域情報サイト「いばナビ」と連動。紙媒体とネット媒体を同時に使って情報を訴求することで、発信力を高める戦略だ。いばナビに関しては、最終的に地域のすべてのお店を無料で掲載するプロジェクトも地域限定でスタートしている。

「茨城県は面積が広いので、たとえば、いばナビで5000件の店舗を載せても、全県が対象だと情報密度が低くなってしまいます。エリアを絞ったほうが、情報がヒットしやすいのです」

 一部の比較的人口が多い地域には多くの情報誌があるが、それ以外では極端に情報が少ない。採算を考えたら、大手や競合は参入できないと、上金社長は見る。

 「当社には、長年培ってきた地元ならではの緻密な人脈、ネットワークがあります。媒体をベースにして、さまざまな販促ツールを企画提案するノウハウにも長けています。それに、当社には複数の媒体があるので、担当媒体ありきではなく、お客様に必要なサービスを複合でご提供することができます。そうしたノウハウを活かせば、従来情報誌の発行は難しいと思われていた地域でも十分採算が取れますし、いずれは全エリアの地域限定情報誌をネットワークでつなぐ、というオンリーワンのビジネスモデルも構築できるでしょう」

 地域限定情報誌も、いばナビも、いまのところ、誇れるような実績ではない。しかし、競合情報誌が少ないエリアだからこそ、地域に支持されやすく、そこから求人や販促ツールの依頼など2次的な収益も生まれ始めている。いばナビも、有料広告のニーズが高まっており、「媒体として成長すれば、収益事業として大きく花開く」と、上金社長は期待する。

「情報誌事業やネット事業だけでなくイベント事業、街づくり事業など、茨城の地域振興に役立つことは、まだあるはずです」と、上金社長は意気軒高だ。

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