有限会社YPP 五味渕 のり子

Guest Profile

五味渕 のり子(ごみふち・のりこ)

1967年東京生まれ。生後間もなく難病の診断を受け 「6歳までは生きられないだろう」と宣告されるが、奇跡的に助かる。 立教大学卒業後、埼玉新聞に入社。10年間広告営業一筋に励み 女性初の課長に昇格。33歳でITベンチャーに転職の後、 経営コンサルタントを経て、2005年、有限会社YPP設立。 《企業・法人データ》 2005年2月1日設立。登録メンバー約400名で、 主として事務代行を請け負う。プライバシーマーク取得。 毎週月曜配信のメール、年1回開催のレジャー企画(家族で参加)、 ピンチヒッター制度(当日急に仕事ができなくなった場合に、 メンバー内でやりくりし合う)などにより、 メンバーの一体感を醸成している。 YPPとは「Your Partner&Planner」の略。 http://omakase-ypp.jp/

特集事情に合わせた働く機会を生み出し「一人でも多くの人に仕事の喜び」を

1.経理を中心とした事務の代行業務で、事情に合わせた働く機会

 経理を中心とした事務の代行業務で、右肩上がりに業績を伸ばしている有限会社YPP。代表取締役の五味渕のり子さんは語る。

「2005年の創業から3年くらいは赤字続きでしたが、その後は順調にきていますね。でも、創業当時とは業態も違うし、そもそもこの会社がこんな展開になるとも思っていなかったんです」

 経営コンサルタントの師匠のもとで修業をしていた03年。五味渕さんは、妊娠を機に「憧れの専業主婦」生活に入る。ところが、夢見ていた生活は自分に思いがけない変化をもたらした。


育児しながらの仕事で罪悪感を抱くことに
「家のなかで育児をするだけの生活に、すぐに不安を感じるようになってしまいました。自分がいつ社会復帰できるか、戻れる場所があるかもわからない。居ても立ってもいられなくなりました」

 ある日、出産報告のために顧客のところに出向いた五味渕さんの口から出てきたのが「仕事再開の準備が整ったので、よろしくお願いします」という言葉だった。

「自分でもびっくりしました(笑)。でもお客様に『それなら、また頼むよ』と言われてしまい、後には引けなくなりました」

 そこで立ち上げたのが、有限会社YPP。しかし、育児をしながらの仕事再開はまた、予想外の出来事の連続だった。

「何十人もの社員様に研修をしなくてはいけない日に、子供が40度の熱を出す。もちろん、研修をキャンセルするわけにはいかないから、子供を母に預けるなどして出かけるわけです。でも心のなかは罪悪感でいっぱい。あれほど『したい』と願った仕事なのに……。大きな仕事の約束を入れるたびに『この日は熱を出さないかな』と心配になる。仕事に対して、常にアクセルとブレーキを同時に踏んでいるような状態でした」

2.起業はできても、経理は苦手な社長が多い

 業績も伸びるわけはなく、見かねた先輩が、自分の会社を手伝うよう声をかけてくれた。

「営業職の男性が4人くらいの会社でした。この会社が経理で困っていたんです」

 経理担当は置かれておらず、お金の管理は社長か専務。当時はネットバンキングもなく、月末ともなれば、忙しい昼間にわざわざ銀行に行き、何十件という振込みを社長自らがしなければならない。

「月末だから振込みするのも行列なんですね。あるとき、社長のすぐ後ろに、小さい子供を抱いたお母さんが並んでいました。それを見て、忙しい社長がわざわざ銀行に来なくても、『外の空気も吸いたい』と思っている育児中のお母さんにお願いすればいいのに、と」

「経理の代行」という発想が浮かんだ瞬間だった。

 同じく子育て中の女性を一人採用し、ワークシェアという形で仕事をすることにした。

「どちらもフルタイムでは働けない、急に子供が熱を出すかもしれない。ワークシェアするしかなかったんですが、これがよかったんですね」

 現在、「メンバー」と呼ばれる登録者は、専業主婦中心に日本全国に約400名。海外にも広がりを見せ始めている。

「データ打ち込みの仕事なら、海外在住でもできる。ワークシェア制にしているので、『今日、子供が熱を出して、100件やるのは無理です』とSOSを出せば、グループ内で『じゃあ、私は50件』『私は20件』と、助け合えるんです」

 ワークシェアの利点がもう一つあった。社内で、たった一人が管理し、ともすればガラパゴス化しているような経理の現場を整理することができたのだ。

「自分以外の人が引き継ぐことを考えながら作業するので、誰が見てもわかるような形に整理される。お客様にも、とても喜ばれました」

 経理といえば、企業秘密でもある。なぜアウトソーシングが成立したのか?

「社外の人間に管理させるリスク以上に、困っている会社が多かったんです。ベンチャーではわざわざ経理は雇えない。社長がよくわからないながらもやるしかなく、ひどい状態になっている会社も少なくありませんでした」

 その会社に適した方法や使い勝手のいい経理ソフトなどをアドバイスできる上、出社するのは月末の2~3日のみ。ボーナスも保険もいらず、社員一人雇うのに比べ、格段に低コスト。五味渕さんの思惑は、見事にヒットした。

3.フルタイムのレールからこぼれた「人材」を活かす

 経営コンサルタントもやめて、この事業一本だけで成り立たせてみたいと思ってやってきた。一つの転機となったのが09年のリーマン・ショックだった。

「うちの事業自体は問題ありませんでしたが、夜逃げをされるお客様が出たんです。そのとき、『経理として状況が悪化していくのをただ帳簿につけているだけでは意味がない。財務についてもお客様にしっかりアドバイスできるようにならなければ』と思いました」

 現在は、テコ入れが必要な会社には元都銀の融資部長にコンサルに入ってもらうなど、さまざまな対策を打っている。

「これから社外から適切なアドバイスができるような『経理のプロ』へのニーズはますます高まっていくと思います。経理畑で定年まで働いたような方に、もっと活躍していただきたい。育児中という自分の状況からスタートした会社ですが、リタイア世代、介護中、病気療養中など、フルタイムのレールからこぼれただけで、立派に働ける人材がこんなにいるんだということを気付かされました」

『一人でも多くの人に仕事の喜びを』、五味渕さんの名刺に刻まれている言葉だ。

「経営コンサルタントもやめて、この事業一本だけでやってきた。振り返れば、壮大な実験をしてきたように思うんです。この事業で収益が上がって、フルタイムでなくても働ける場所があるということが実証できたら、事情があっても楽しく働けるモデルになれる。一日2時間でも働けることがどれだけうれしいことか、自分の体験としてわかるんです」

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