いつの時代も消費のカギを握るのは主婦だと言われる。荻野久美子さんは、その主婦マーケットのもつポテンシャルの高さに注目し、女性の社会進出、社会復帰の道をITで切り拓くべく、自ら2社を起業した。

 

 イベント会場での飛び込み営業をきっかけに、6ヵ月かけて世界的な大手自動車メーカーからビッグビジネスを獲得。株式会社マミーゴーでは起業から1年も経たないうちに、自身の力で世界を相手に戦っている。コンプライアンスの関係で詳しい内容は明かせないが、都内で10月以降、主婦を対象にした画期的なイベントプロモーションを実施する。

 

 

主婦が社会で活躍できる仕組みづくりを目指す

 だが実のところ、荻野さんは専業主婦志望だったという。

 

「短大2年のときに父親がリストラにあい、生活は困窮を極めました。前年に買ったばかりの家の住宅ローンもまるまる残り、仕事をするしか私の選択肢はなかったんです」

 

 普通の勤めでは稼ぎはたかが知れていると、6歳上の兄と空間デザインの会社をつくった。その会社も軌道に乗り、現在は社員20名、両親に適度な仕送りを渡せるまでに成長した。

 

「ふと振り返ると、成長した自分、社会に必要とされている自分がいました。そこで思ったのは、働く女性の応援をしたいということ。自分で貯めた1000万円で、会社をつくろうと決めました」

 

 自らも子どもをもつ身(現在2歳)として、主婦が社会で活躍できる仕組みづくりが必要と感じていた荻野さん。「社会の動きや世の中の流れに敏感な主婦」をキーワードに、2010年ヒメルリッチを起業する。

 

 ヒメルリッチでは、主婦が社会に必要とされるためのスキルを学ぶ、オンラインの教育事業「お稽古ポータルサイト」を立ち上げた。そのユニークなビジネスモデルが評価され、経済界「金の卵発掘プロジェクト2011」特別賞を受賞。だが、B to Cの限界と、いくら人材教育をしても出口(働く場)が整っていなければどうにもならないという現実に直面する。

 

 そこで、出口につなげる手段として人材派遣会社との提携を考え、プレゼンして回ったのだが……。

 

「8割の会社で、30代以上の主婦に需要はないときっぱり言われてしまいました。可能性よりも、子育てや家事、社会経験の乏しさというデメリットのほうが多いと感じられてしまうわけです。もう悔しくて泣きながら帰りましたね」

 

 

女性目線でつくるアプリで差別化

 主婦が社会で活躍できる場を作り、自らの営業力で

 さらに切り拓く

 それならば自分でやろうと、14年1月に立ち上げたのが、マミーゴーだ。業務の柱は、エクセルやワードのデータ入力を主とするITサポート、Web制作、スマホアプリの開発。あくまでも″ママとIT”の組み合わせにこだわる。

 

「現状、アプリ開発はエンジニアの約9割が男性で、サービス内容も男性目線になっています。ですから、ママエンジニアが女性ならではの視点でWeb制作、アプリ開発をすれば差別化につながり、競争力をもつと考えました。また、主婦は自分が消費者でもあるので、生活に即した発想をたくさんもっています。当社では″ITマミー部”というのをつくって、月に2回、ママたちに集まってもらいIT教育を行なっています。いまメンバーは60名ほどですが、彼女たちのリアルな声をマーケティングに生かし、企画できるのが強みです」

 

 確かに独自性はあるが、「本当にできるのか?」という不安感をもたれることもあるという。だからこそ、信用を得るためにビッグクライアントを何としてでもつかまえなければならない、という思いは強かった。

 

 そうした熱いエネルギーが行動につながったからこそ、冒頭で述べたとおり、大手自動車メーカーからのチャンスを勝ち取ることができたのだろう。自らが主婦の代表として、その会社のプロモーションの欠点、具体的にいうと、購入の決定権をもつ主婦をターゲットから外していることが、いかにマーケットの取りこぼしにつながっているかを指摘。その部分を開拓する斬新な方法を提案し、見事トップの心を射止めたのだ。
現在、このほかにもいくつかの案件が進行中で、主婦経験をフルに活用して、幼児の知育アプリも進行中だ。今期はすでに黒字のメドが立ち、15年春あたりには社員採用を予定している。

 

 

働く女性の新しいロールモデルになりたい

荻野さんが開発したス

マホアプリ「女性の働

き方スタイル診断」。

世の中に眠っている起

業家スピリッツの顕在

化を狙う。

 荻野さんは本業のかたわら、大学生向けビジネススクールで月2回、レクチャーも行なっている。そこで知ったのは、なんと9割近くの女子大生の夢が専業主婦だということだった。

 

「自分もそうでしたが、これには本当にビックリ! 彼女たちの目に映る30代、40代の働く女性の多くは、独身だったり、離婚していたりする。ですから、″仕事=結婚をあきらめる”というマイナスイメージが強いようです。

 

 でも、私がいつも主張するのは、″仕事をする=家庭円満”ということ。自分が働けばご主人の仕事の大変さもわかるから、ねぎらいの言葉もかけられる。だから働こうよ、と言いたいし、私自身が彼女たちの一つのロールモデルになりたいですね」

 

 仕事と家庭を両立させるのは不可能なことではない、という荻野さん。「働く主婦=家庭円満」という新しいロールモデルをつくる。その大きな目標に向かう足取りは力強く頼もしい。

 

 

*『CEO社長情報』vol.15掲載

 

|プロフィール

荻野 久美子(おぎの・くみこ)

1979年大阪生まれ。父親のリストラを機に、兄と店舗のデザイン設計・製作施工を事業とするクリエイティブ
スペースノット(現株式会社ノットコーポレーション)を立ち上げる。以後14年間、経営に携わり、年商6億円まで成長させる。財務・ 営業・マネージメント・人事労務(キャスティング)の経験を生かし、約5年間で貯めた自己資金をもとに2010年株式会社ヒメルリッチを設立。11年オンライン教育事業「お稽古ポータルサイト」で経済界『金の卵発掘プロジェクト』特別賞受賞。14年株式会社マミーゴー設立。14年3月日本女性ビジネス協会副代表に就任。

 

 

《企業データ》
ヒメルリッチ/2010年9月設立。「お稽古ポータルサイト」を中心とした教育事業のほか、研修、教育、経営等のセミナーの企画・運営等も行なう。マミーゴー/2014年1月設立。主婦ママの視点を生かした、スマートフォンアプリの企画・開発・運営、マーケティングリサーチ。
■ヒメルリッチ http://www.himmel-rich.com/
■マミーゴー http://mammy-go.jp/