PCの前ではなく人前で優秀な人間であれ

 うちナビ社長の角南圭は父親からの教えを胸に創業から歩んできた。かつて父親にこう言われたのだった。

 

「負けず嫌いもいいけども、人を思いやることなら誰にも負けないことのほうがカッコイイだろう? そういう人間になれ!」

 

 この教えに応えることが本当の親孝行だと認識した角南は、日本の行く末に資することを志して同社を設立した。

 

「この国のために働く」(角南)と意を決し、国民生活の根本である衣食住のいずれかの領域で創業しようと考えたのだ。

 

 成長志向だけならITベンチャーのほうがふさわしいだろうが、ITの普及は社会の質を高めたのか。社会が便利になり、ITを楽しむ人々が増えたものの、一方でイジメや適応障害など負の副産物を大量に生み出した。だからITは角南の選択肢にはなかった。

 

「衣食住に関わる業界で胸を張って、ど真ん中の人生を歩み、一点の曇りもない会社が勝つことを証明する」(角南)。そのためには旧態依然とした不動産業界こそ恰好の舞台であると判断したのだ。ビジョンにはこう書かれてある。

 

「私たち、うちナビには、大切にしたい生き方があります。それは、日本人がいままで大切にし続けてきた〝人のため〟〝この国の将来のために〟働くという生き方です。この生き方こそが、人としての〝ど真ん中〟であると信じています」

 

 このビジョンは社員の育成方針にどう反映されているのだろうか。同社の育成方針はオーソドックスで、人として真っ当になることを大前提にしている。角南が社員に望んでいることはきわめてシンプルである。

 

「PCの前で優秀な人間になるのでなく、人間の前で優秀な人間になってほしい。普通に思いやりのある人間に成長してほしい」

 

 

ベンチャーらしい制度を撤廃大人の企業への転換図る

 角南はベンチャー企業の創業社長には珍しく、ベンチャー企業は人材育成に好環境という通説に真っ向から異を唱えるのだ。

 

「大手に新卒入社した社員とベンチャー企業に新卒入社した社員が30歳を過ぎたとき、どちらが社会人として高い水準にあるか? それは前者だろう。大人として成熟できる環境があるからだ」

 

 角南は評価の基軸が違うのだ。「ベンチャー企業は人材が育つ」という言葉は、昔から多用される採用活動の方便のようなものだが、若くして役職に就けばその言葉が幻想でなく現実味を帯びてしまう。

 

 これを角南は一蹴するのだ。

 

「若いうちから権限を与えられるのでベンチャー企業の社員は成長が早いと言われるが、現実は違う。人として未熟な新卒2~3年でマネージャーになるなどの人事はおかしいと思う」

 

 実は同社にも、いかにもベンチャー企業らしいイベント色の強い人事制度があったが、すべて撤廃した。大人の企業へと転換を図っているのだ。

 

 今年3月期で売上高11億円、15店舗、社員100人、社員向け住宅物件紹介の法人顧客1000社の規模に達して、次のステージに進む段階に入った。採用方針も切り替える。社員の新卒入社と中途入社の比率は5対5だが、今後は新卒採用にシフトして、中途採用は2014年度で終了させる。

 

 この方針にもかかわらず、あえて角南は、会社説明会で学生たちに大手企業を勧めているという。
「大手企業は普通に働けば給料と役職が上がっていく。ベンチャー企業は入社していきなりエースになれるかもしれないし、後から入社した社員にどんどん追いぬかれて一生ヒラ社員で終わるかもしれない。だから大手のほうがよいと」

 

 ベンチャー企業への幻想を払拭させるために、あえて意表を突く言い方をしているのだろうが、真意は大手かベンチャーかという二者択一でなく、もっと深い問いかけにある。

 

 採用時に話すことは「うちナビで働く理由を一つだけ作ってください」。そして同業他社との違いは「世のため、人のため、この国の将来のために働くこと」と説明したうえで、同社の挑戦に本気で参加したいのか、本当に社会に貢献したいのかなどを自問させて評価しているのだ。

 

 

近い将来には小中学校の経営を計画。教員には企業勤務を義務づける

 現在35歳の角南は、人づくりを本格化する目的で、ある時期になったら学校経営に乗り出す構想を描いている。

 

 小学校と中学校を開校する意向だが、特徴は雇用する教員に民間企業への勤務を2年間義務づけて、広く社会を知ってもらうこと。社会を知らなければ社会に有意な人材を教育できないという意図からで、うちナビも受け入れ先として協力する方針だ。

 

「そして私が60歳や70歳になったときには、教育でひとかどの足跡を残せるようになりたい」

 

 それにしても、学校経営までそれほど時間の余裕があるわけではなく、未来の目標と言えるような時期ではなくなった。学校経営を実現するには2年後に計画している株式上場との関係も出てくる。

 

 一方で株式上場は、社員の行動指針にある「私たちが大切にしている生き方や考え方を、一番になるという手段をもって、広く世の中に伝えていきたい。目指すは一番、それ以外にない」を実践する手段である。それは、社員に「ど真ん中、生きる」というビジョンを実践させることでもある。

 

 07年の設立時を振り返って、角南は「資本金が3億5000万円も集まったのは私の志を応援してくれる人が多かったからだ。おかげで信念を貫き通せてきた。志さえあれば何とかなる」と語る。

 

 この思いは多くのベンチャー企業経営者への問題提起でもある。

 

 誰しも創業時には作りたかった会社像を持っていたはずだが、作り続けていない社長が多いのではないか。利益が出ていればそれでよいと思っているのではないか。そう問いかける角南は「私は最後まで理想とする会社作りに努めていく。その先頭に立ち続ける」と確信をもって宣言する。

 

 

*『CEO社長情報』vol.15掲載

 

|プロフィール

角南 圭(すなみ・けい)

1979年2月9日生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。在学中に先輩とコンサルティング会社を立ち上げ経営するなか、クライアントから会社譲渡の打診を受け、2007年2月に株式会社うちナビを創業。以来6年間で16支社を展開する。