経常利益率が常時5%以上の会社は例外なくモチベーションが高い

 業績の良い会社で社員のモチベーションが低い企業はときにあり、すべての会社でモチベーションが高いとは限らない。これに対して、社員のモチベーションが高い企業は間違いなく業績が良い。これは私の研究成果である。

 

 従って経営者がまず行なうべきことは、業績を向上させるための戦略の構築ではない。ただただ一人ひとりの社員が真っ赤に燃えて良い仕事をできるような環境づくりである。社員のモチベーションが上がれば業績があとからついてくることは、私のヒアリング調査やアンケート調査でも、見事なまでに相関関係を形成している。

 

 これらの調査では、モチベーションの高い会社は不況時にも業績がぐらつかず、常に良い業績を維持していることが明らかになった。経営者が社員のモチベーションを高めることは、好不況にぐらつかず良い業績を維持する唯一の方法であるといっても過言でない。

 

 そもそも経営者の仕事は大きく3つある。第一に、企業が進む方向を明示して決断すること。第二に、経営者が明示して決断したことに対して、全社員が真っ赤に燃えて良い仕事をするための環境を準備すること。そして第三に、人財を育てること。経営者が育てる人財とは後継者であり、社員を育てるのは社長でなく直属の上司の仕事だ。部課長を育てるのは取締役や本部長、部員や課員を育てるのは部長や課長の仕事である。

 

 つまりモチベーションを高めることは、経営者にとって最高の使命の一つである。売上げを上げるとか、新商品を作るとか、コストダウンを図るとか、ライバル会社に勝つとかは、私に言わせればすべて結果としての現象である。

 

 会社の盛衰は需要が決めるというのが、これまでの経済学だった。

 

 ケインズは有効需要の縮小が不況をもたらすと述べたが、この経済学は数十年前に終わったと思う。 会社の盛衰を決めるのは有効需要でなく有効供給である。いかに市場にとって有効な、つまり価値のある財やサービスが供給されるかで会社の盛衰が決まる。これが私の現場研究の結論である。

 

 有効供給を可能にするのは間違いなく社員のモチベーションだ。私はこれまで7000社を超える会社を訪問したが、そのなかで好不況にぐらつかず経常利益率が一度も5%以下に落ちたことのない会社が約1割ある。

 

 この約700社は例外なく社員のモチベーションが高い。訪問して社内に入れば、私はプロなのですぐにわかる。電話一本でもわかるし、社員と話せばもっとわかるし、アンケート調査でもわかる。

 

 

業績志向に走ると社員は疲れ果ててしまう

 どんな業種の経営者でも自分の会社を良くしたいし、自分は幸せになりたいし、自分の周囲の人たちも幸せにしたいと思っている。口に出すか出さないかはともかく、皆そう思っているものだ。社員を不幸にしたいとか、自分は不幸でもよいなどと思っている経営者は一人もいない。しかも、良い会社にしたいし、良い人生を送りたいというのは社員にとっても共通の思いだ。

 

 そうであれば、モチベーションを高める方策を実行すればよいのだが、モチベーションを下げてしまう方策に走ってしまう会社が多い。自分と社員が幸せになるには業績を高めることだと思ってしまうのだろう。経営者

「もっと業績を伸ばして成長しよう」と言うと、社員は心身ともに疲れてしまうのだ。

 

 モチベーションを高めるには業績志向でなく、社員やお客様など会社に関わるすべての人たちを幸せにする経営に取り組むことである。これが経営の目的であり、使命であり、王道である。大切なのは経営の考え方や経営の進め方だ。

 

 たとえば業績を伸ばす、業界で一番になる、事業規模を拡大する、ライバル会社に勝つ。これらを目的にしている限りは一時的に社員のモチベーションを高めることはできても、継続的に高めることは無理だろう。社員が疲れ果ててしまうからだ。

 

 業績を上げた社員に年俸1000万円を支払ったりしても一時的な効果しかない。むしろ社内の人間関係をギクシャクさせてしまう。

 

 社員の鼻先に人参をぶら下げて数字を競わせているような会社は、業績がぶれまくっている。

 

「頑張った社員が報われる」というのは言葉としては素晴らしいが、職場には、頑張りたくても頑張れない社員もいる。家族の介護で「おむつの交換は大丈夫だろうか?」などと気になって、後ろ髪を引かれる思いで働いている社員もいるのだ。

 

 あるいは「ライバル会社に勝つ」という方針を掲げたら、どうなるだろうか。社内にはライバル会社の関係者の親戚がいるかもしれない。ライバルに勝って社内が「勝った!勝った!」と喜ぶ一方で、草葉の陰で泣いている人もいるだろう。一瞬、社内のモチベーションが上がるように見えるが、「こんなことでいいのだろうか?」と疑問を持つ社員もいるはずだ。

 

 

“人生の順番”をわきまえた年功序列が好業績を持続させる

 モチベーションが安定的に高い会社は成果主義や能力主義を取らずに、ほとんどが年功序列である。年功序列で好業績を持続しているのだ。年功序列では頑張った社員が報われないのでないかという疑問があるかもしれないが、世の中は順番である。

 

 たとえば20代の時期は何も良い仕事ができなくても給料をもらっているが、自分が一人前になったら、その給料を稼いでくれた人たちにお返しをするのは世の中の順番だ。人生の順番である。

 

 プラスチック小型精密部品の樹研工業(愛知県豊橋市)の人事制度は年功序列で定年制がない。年功序列なので最も給料が高いのは、最高齢の70代の社員だ。40代の優秀な社員の給料はその半額近い水準だというが、それでも彼らのモチベーションは安定的に高い。

 

 私はその社員に理由を聞いたら、次のように答えてくれた。

 

「私が何もできないときに私の給料を稼いでくれたのはいまの高齢社員だ。だからいまはお返しをしている。私も60歳や70歳になったときにそうしてほしいので、いまはお返しをしている」。

 

 まるで社員が家族のような、ぬくもりのある会社ではないだろうか。

 

 一方で経営理念に「社員を大切にする」と書いてある会社がリストラをしている。私はそういう会社の経営者に「ウソを言うな!」と叱りつけている。

「経営者が社員のモチベーションを高めること

は、良い業績を維持する唯一の方法」

 

 さらに社員を大切にするのなら、サービス残業をさせたり、月に40時間も50時間も残業をさせたりしないはずだ。長時間労働をさせている経営者に私は「社長さん、社員を殺す気ですか?」とはっきり指摘したことがある。その社長は「意味がわかりません」と答えてきたので、こう説明した。

 

「月間の残業時間が10時間を超えている企業で業績が安定している会社は歴史的に存在しない。良い会社にしたいのなら残業時間を減らしなさい。それにサービス残業は法律違反ですよ。あなたは人事権を持っているが、リーダーシップとは権威や権力で発揮するものではない。自分の背中と心で発揮すべきものだ。あなたの社員のモチベーションを調べてあげましょうか?」

 

 正しい経営とは人を大切にする経営だ。社員は経営者の背中を怖ろしいほどよく見ている。経営者は「社員と家族の命と生活は私にかかっている。どんなことがあっても守り抜く」と宣言して背中で示し、社員のモチベーションが必然的に高くなる言動を実行することである。

 

 そのためには経営者が自らの徳分を高めなければならない。誠実さ、やさしさ、思いやり、利他の心など徳分の高い経営者に社員は心からついてくるのである。(談)

 

 

*『CEO社長情報』vol.15掲載

 

|プロフィール

坂本光司(さかもと・こうじ)

1947年静岡県生まれ。法政大学経営学部卒業。法政大学大学院政策創造研究課教授・同大学院イノベーションマネジメント研究課兼任教授。法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長。NPOオールしずおかベストコミュニティ理事長。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』『この会社はなぜモチベーションが高いのか』など。