ファイン株式会社 清水直子

Guest Profile

清水直子(しみず・なおこ)

1967年、東京都生まれ。88年東洋女子短大(現・東洋学園大学)卒業後、宝通商入社。90年ファインに入社し、94年同社取締役。2006年取締役副社長、10年代表取締役に就任。 ファイン株式会社 業 種●歯ブラシの製造・販売、OEM事業、介護用品の製造・販売ほか 設 立●1973年10月 資本金●2000万円 売上高●2億円 所在地●東京都品川区南大井3-8-17 電話番号●03-3761-5147 URL●http://www.fine-revolution.co.jp/

特集「化学物質過敏症」対応市場をほぼ独占 竹の歯ブラシをシンボルにブランド再構築を図る

1.65年前創業のローソクメーカーがルーツ

 戦後間もない1948年、清水社長の父・益男氏の叔父が、大阪で若松油脂化学工業所を創業。当時は電力事情が不安定で、停電は日常茶飯事。家庭の必需品だったローソクを作って売った。ローソクはよく売れ、ほどなく事業は軌道に乗る。
 10年後、若松産業株式会社として法人化。次なる事業展開としてローソク同様消耗品であり、地元の八尾や東大阪の地場産業でもあった歯ブラシの製造販売に乗り出す。その5年後に病院経営も始めて事業を多角化するが、しばらくしてローソク、歯ブラシ、病院の3つの事業はそれぞれ独立することになる。
 薬局ルートで販売するほかPB商品も手がけ、堅実に成長していた歯ブラシ事業は、当時、東京営業所長として関東地区を担当していた清水社長の父・益男氏が引き継いだ。歯ブラシのブランド名『ファイン』を商号にし、75年にファイン株式会社が東京に誕生した。
「歯ブラシ『ファイン』は、ケース付きで定価が200円。当時は高級な歯ブラシでした。でも、よく売れました」

2.トラブル続出で即回収も1本の電話が未来を拓く

 しかし時代とともに、コンパクトヘッドになるなど歯ブラシの形は変化する。そして、ドラッグストアチェーンの台頭で商流も変わった。チェーン化したドラッグストアは、本部が採用した商品を全店舗に並べる。薬局が個々に商品を仕入れる時代は終わり、ルートセールスではやっていけない時代になった。
「父が55歳で亡くなって、母が社長になりました。関係各社に挨拶回りをしているとき、母は自社ブランドがないことに気づいたのです。そのことが彼女のスイッチを入れたようです」
 オリジナルの歯ブラシを作りたいという社長とともにアイディアを考え、清水社長はもともと興味があった「環境」をテーマにすることを提案した。
「私自身は、環境に配慮した石油製品不使用の歯ブラシを作っても、うちのような小規模では採算に乗せにくいと思っていました。でも、社長である母は『絶対コレだわ!』って走り始めた」
“(原材料に)紙を入れたら紙製品になる”と聞いて柄の素材に紙を51%混ぜたが、水を含めば割れてしまう。水に強いポリ乳酸(植物由来のプラスチック)は高温に弱く、炎天下の車の中に置いておくとヘッド部分が反り返ってしまう……。
 試行錯誤の末、なんとか商品化にこぎつけ、OEMとして採用してもらい、注意書きを入れて出荷。しかし、トラブルが発生、回収せざるを得ない状況になってしまった。
「社会はまだ、エコの歯ブラシを望んではいない。もうやめよう」
 ところがそう決意したとたん、1本の問い合わせの電話が入ってきた。
「化学物質過敏症の方でした。特定のものにだけ過敏なのではなく、ラバー、豚毛に使う消毒液などとにかく何でもだめ。『ファインの歯ブラシがなくなったら何を使ったらいいの? 1度しか使えなくてもいいから在庫を全部ください』と……」
 その後も同様の電話を何本も受けることになった。
 そんな切実な声を聞いたら、作らないわけにはいかない。うちで作らなくてはどこが作るのだと。再び試行錯誤の日々が始まった。

3.竹の樹脂との出会いから使用期限2年の歯ブラシ誕生

 竹素材との出会いは偶然だった。
 竹を微粉末にして樹脂と合わせる技術はとても難しく、特許を持っている会社はいくつかあるものの、実際に製品化できる事業者はなかなかいない。そんな折、広大な竹林をもつ静岡のある地域で、その竹を有効に活用しようというプロジェクトが立ち上がり、とある会社が竹を微粉末にして土に埋めると生分解する樹脂と合わせたらどうかと提案をした。そして、でき上がった竹の樹脂が清水社長のもとに持ち込まれたのだ。
「樹脂を歯ブラシの柄にする際、混ぜる素材によって向き不向きがあります。竹の樹脂は向いていました」
 休止していた「化学物質過敏症」の人切望の歯ブラシの製造が再開された。
「数は出ません。でも市場規模としては大変小さいですが、シェアは90%以上。それも100%に近いです」
 化学物質過敏症の人のために作っているようなもので通販中心の販売になるが、エコ歯ブラシということでオーガニック系のホテルで使われることもある。ただ、大量生産する一般の歯ブラシと違って高価だ。加えて、ブラシ部分の強度は一般の歯ブラシと変わらないが、柄の部分に関しては使用期限が2年。商品が完成してから、在庫として保管、通販会社に卸して、お客さんが購入、実際に商品が手元に届くまでの時間を考えると、実は2年というのはあっという間だ。
 しかし、“竹の歯ブラシはファインのシンボル的なもの”なのだ。

4.3代目としての原点回帰 “体が喜ぶ”商品づくり

 初代社長の父は薬局のルートセールスを確立させ、2代目社長の母は新商品開発と新規マーケットを開拓した。
 清水社長は母が社長のときに副社長となり、社長の右腕として環境歯ブラシやベビー用歯ブラシ、介護用歯ブラシなどを開発してきた。これらの商品は、ニッチで価格競争にさらされることも少ない。この経験が大量生産・大量消費の歯ブラシ市場での「ファイン」のポジションを決定づけた。
 3代目社長の今後の事業展開ははっきりしている。
「数値的なものは追いかけません。これまでの〝誰の役に立つのか〟という商品を作るときの姿勢は、これからも変わりません。3代目社長として、私がすべきことは原点回帰です」
 清水社長は、生まれてから60年になる「ファイン」ブランドの再構築に取りかかろうとしている。60年の間にバラバラになってしまったパッケージデザインの見直しや商品の改廃、ベビー向け・介護向け以外をターゲットにした“体が喜ぶ”商品の開発にもチャレンジする。
「3代目社長としての課題は、ファインというブランドをどうしていくか」
 歯ブラシ「ファイン」は、3代目社長によってもっと多くの人に認知されていくブランドに変わろうとしている。

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