いい組織を作るために起業、必要とされているものを事業にした

 ちょっと変わった動機で生まれた会社がある。株式会社エスキュービズムという会社だ。

 

 同社はEコマース(EC)のサイトやモールを構築できるパッケージなどを開発・販売している急成長企業である。

 

 なぜ変わっているかと言えば、それは起業の動機にある。

 

 多くの場合、起業の動機とは、「この商品(サービス)なら売れる」というものとの出会いだろうが、同社の場合は違うのだ。

 

「いい組織を作りたかったから」と代表取締役社長の薮崎敬祐はその理由を説明する。

 

「何か新しい物を作るにはチームが必要。しかし、大企業には世代間に不公平があり、若い優秀な人が活躍しにくい仕組みになっている。だから自分がいいと思う組織を作ってみたかった」

 

 薮崎がこう考えるようになったのは大学院を出てリクルートに入社してから。そのときに若手の活躍しにくい組織を体感したのだ。

 

 いい組織を作りたいから会社を作る——。実は薮崎は一つの仮説を持っていた。

 

「いい商品があるからいい会社ができるわけではない」。例えば、松下幸之助は二股ソケットを発明したが、二股ソケットを考えたから会社を作ったわけではない。製品そのものが偶然の産物であり、会社は既に存在し、その会社で作れるものを考えていてできたものだった。

 

 なぜそんな仮説が出てきたのか。それには2つの出来事が背景にある。1つは、リクルートで営業をしていたこと。求人広告でお金を頂いて価値を提供していくというビジネスを学んだ。もう1つは、当時、成功しているベンチャーには営業系が多いと気づいたこと。もちろん、プロダクトアウト型の技術会社もあり、そういう企業のほうが、その独自性から資金調達などはうまくいっていた。ところが、その種の企業に限って成功した企業がほとんどない。つまり、オンリーワンの優位性を作るのは難しく、そうでなくとも稼ぐことはできると気づいたのだ。

 

 こうして薮崎は1年半で会社を辞め、半年間会社経営を学び、起業した。幸い、周囲には優秀な人材がおり、それも起業を後押ししてくれた。

 

 薮崎の最初の仕事は、果たして目的を持ったものではなかった。

 

「初めは、知り合いから200万円でECのパッケージの仕事を取ってきました。自力で作るしかなくてオープンソースを使ってなんとか作ったところ、思いのほかいい物ができた。そこでライセンスを調べ、オープンソースを自社商品として売り出したのです。多分日本初でしたよ」

 

 その後、ECパッケージを販売していると店舗の在庫との連動の要望がでてきた。そこでシステムを開発し、販売した。このような要望に応える形で開発が積み重なり、結果として現在のECのパッケージやPOSレジなどの商品がそろっていった。

 

 現在、事業の主力はシステムパッケージを販売するソリューション事業とネットでの物販を行なうリテール事業。自社でも物販を行なっている。売れ筋は家具だという。

 

 しかし、これは同社がいままで行なってきた事業の一部であり、市場で勝ち残ったものが現在ラインナップされているだけなのだ。

 

「世の中の不便なところを見つけるため、マーケティングや業界研究をし尽くします。なにが売れているのか。そのなかに、ベンチャーでもできることがある。いいものだから売れるのではなく、売れるからいいものなんです。社員にも『売れるものを探せ』と言っている」

 

 

ゼロベースで考え、合理的な仕組み化を続ける

 優秀な人がいて、いい組織づくりをすれば、いい会社になるという薮崎の考えは徹底している。

 

「やってはいけないのはノルマを決めること。ノルマはやらない人のためにあるんです。優秀な人は自分で目標を立てているから、むしろ仕事を進めるうえでの障害を取り除いてあげるほうがいい。そして、個人の成果という考え方もしません。開発から納品まで、さまざまな人の成果の産物ですから、表面上の表彰をすると、他の成果が埋もれる。優秀な人ほど己を知っているので、皆のお陰だと気づいている。だから、成果に対して誰がどのくらいかという認識を上が正しく持つ状態が好ましい」

 

 そこで、自分で目標を設定し、振り返り、面談をする仕組みを取り入れている。この際、お金と評価を切り分けているのがミソ。この2つが絡むとおかしくなるからだ。

 

 しかし、どんなに優秀な人材を集めてもパレートの法則などが働いてしまうのではないか。その問いかけに薮崎は「だから、小さな組織で人を動かす」と答えた。

 

「人材は責任をとる人、とらない人。手を抜く人、抜かない人に分けられる。責任をとり、手を抜かない人だけなら問題は起きないけれど、人数が増えると真逆の人材が出てきてしまう。だから、小さな組織に分けています」


 また、事業のフェーズによっても人材を変える。

 

「例えば組織も0から1のときのフェーズと、1から10や、10から100のフェーズでは人材の要件がまったく違います。どれもできる人はいない。だから複数の事業の、複数のフェーズから適材適所を探し出すのです。それにこの少人数で人材の流動性を高めることは、個人の既得権益化を防ぐことにもつながっています」

 

 これが同社の強みなのだろう。

 

 こうした組織づくりを行なっているがゆえに採用も重要なポイントである。


「いちばん重要なのは採用に責任を持つことです。この組織に慣れて仕事を覚えるには最低でも2ヵ月はかかる。その間は採用した人がきっちりと面倒を見ます。採用においては社内で活躍できるかが、ポイントです。そのためには自己認識が適切か、低い人のほうがうまく適合しますね」

 

「自分がいいと思う組織を作ってみたい」という思いから生まれたエスキュービズム。売上げなどの数値は非公開だが、今年8月には韓国に支社を作るなどの動きも見せ、上場の選択もできるよう準備もしているという。

 

 

 

*『CEO社長情報』vol.11掲載

 

|プロフィール

薮崎敬祐(やぶさき・たかひろ)

1979年兵庫県生まれ。2002年東京大学経済学部卒業、04年東京大学大学院経済学科修了。株式会社リクルート入社、新卒および中途採用を中心にした人材サービスのソリューション営業を経て、06年5月、Aコマース株式会社(現・株式会社エスキュービズム)を設立。07年4月に、事業拡大に伴いその方向性を明確にするため、現・エスキュービズムに社名変更。