株式会社モスフードサービス 櫻田厚

Guest Profile

櫻田厚(さくらだ・あつし)

1951年、東京都大田区生まれ。70年東京都立羽田高等学校卒業、父の急逝で大学進学を断念し広告代理店に入社。72年、叔父(モスフード創業者・櫻田慧)の誘いで「モスバーガー」創業に参画。77年、モスフードサービスに入社、直営店勤務を経て、教育・店舗開発・営業等を経験。90年、海外事業部長として台湾へ赴任、アジア進出の礎を作る。94年取締役就任。98年、代表取締役社長就任(現任)。 ブランド ● モスバーガー 設 立 ● 1972年7月21日 資本金 ● 114億1284万円(2013年3月末現在) 売上高 ● 623億7100万円(2013年3月期) 所在地 ● 東京都品川区大崎2-1-1       ThinkPark Tower 4階 電 話 ● 03-5487-7371 URL ● http://www.mos.co.jp

特集FC加盟競争率は50倍の狭き門 日・仏・モス、3本のフラッグを掲げシャンゼリゼ通りを目指す

1.生業店をベンチマークする約1400店の巨大チェーン

「競合先はどこか?」「ファストフードチェーン?」「カフェチェーン?」 「コンビニエンスストア?」
 モスフードサービス社長の櫻田厚は、いずれにも首を大きく横に振った。
 「当社が意識しているのは夫婦で営んでいるような地域の繁盛店だ。そば店でも、とんかつ店でも業態を問わず地域で長年繁盛している飲食店は、お客様の歴史を知っていて、かゆい所に手が届く接客をする。個人の繁盛店は凄いと思う」
 巨大チェーンが生業店をベンチマークしているのだが、実はこの競合意識はチェーンの展開方針と合致する。
 主力事業モスバーガーの国内店舗数は2013年9月末で1401店、うちフランチャイズ(FC)店は1148店に及ぶ。FCオーナーは約450人で、最も運営店舗数の多いオーナーで22店。平均すると1オーナーの平均運営店舗数は2・5店だが、約5割のオーナーが1店のみの運営である。つまり生業で営むオーナーが多く、生業店の強さが求められるのだ。

2.四次の面接とレポート提出加盟契約までに約2年

 モスバーガーの競争力の一つに、32年前に発足したオーナー会「モスバーガー共栄会」に象徴されるFCの結束力が挙げられる。
 共栄会は全国20支部体制で勉強会や全国大会などを開いて、FC同士の相互研さんを図っているが、この結束を生み出したのは理念の共有である。
 理念を共有して理念に人生を賭けられるかどうかは、ひとえにオーナーの資質次第で、それだけに加盟希望者の選考は厳しい。
 面接は一次から三次までを経て、櫻田が最終面接をして価値観や事業観などを確認する。その間にも、他のFCの研究レポートとモスバーガーのFCオーナー訪問レポート提出を求める。一次面接から最終決定まで早くても半年と、じっくり時間を要するという。
 櫻田はこれだけの手間をかける理由を説明する。
「FCに加盟していただくことはオーナーの人生をお預かりすることだ。また、加盟後は長く経営していただくわけだから、その人にモスバーガーのブランドを託してよいのかどうか、それを見極めるために時間をかけて話し合う」
 加盟店の契約数集めに奔走する多くのFC本部とは対照的である。何が合否を決する最終的な判断基準になるのだろうか。
「私心がないことである。時間をかけて話せば、それは見抜ける。面接やレポートでもっともらしく取り繕っていても、話しているうちに本心が見えてくる」
 たとえば300人の応募のうち、加盟に至るのは5~6人というから競争率は50倍近い。この狭き門が、いわばモスバーガーの“オーナー力”を担保しているのだ。

3.タウンミーティングの意見を商品開発に反映

 同社は14年3月期、来店頻度の向上と新規顧客の獲得をテーマに、さまざまな強化策に着手している。ハンバーガー全24品のうち17品をリニューアルし、13年10月には差別化商品として「モスライスバーガー(さば味噌 骨までやわらか仕立て)」「モスライスバーガー(彩り野菜のきんぴら)」「バーベキューフォカッチャ」を投入した。モスライスバーガー2品は朝食市場の開拓に向けて「朝御膳」に選択メニューで追加。さらにサイドメニュー強化のために、新ブランド「カップパティシエ」を投入して、ティータイムの訴求力をアップさせた。
 商品開発の参考にするのが2年前から開いているタウンミーティングで収集した情報だ。これまでに全国各地で25回開き、櫻田はじめ取締役が50人の消費者と面会して、意見を求めてきた。モスバーガーには10年以上利用し続ける固定ファンが多く、40年来のファンもいるという。
「タウンミーティングでは、マーケティング調査で入手できない生の情報を得られる。年配のお客様からは『ライスバーガーが好きなのだが、揚げ物よりも素材を生かした具が欲しい』という意見が寄せられ、こうした意見も参考に和風具材の商品は生まれた」

4.アジア、オセアニアから本命のヨーロッパ進出へ

 一方、マーケティング施策では、早朝の強化、宅配の推進などを重点項目として着手した。
 早朝の強化では、12年3月にスタートした午前7時からの営業実施店は13年9月末に792店舗に増え、14年3月末には1100店舗を目指す。宅配の推進は「現状で十分収益が上がっていることや、バイク事故のリスクを想定して、なかなか進まなかった。来期以降の課題だ」(櫻田)。宅配の実施店は13年3月末の304店舗から9月末には303店舗に減った。14年3月末の計画も414店舗と控えめである。
 14年3月期の国内出店予定は85店。9月末の出店数は23店で契約済みが27店。マクドナルドが業績不振店を続々と閉鎖したことで、空き物件が流通し、物件を取得しやすくなったという。しかも居抜きに近い形状で取得できるため、店舗造作のコストを削減できる。9月末の出店と契約済みのうち、6店がマクドナルドの閉鎖店舗跡だ。
 海外展開は14年3月末に335店舗を目指す(9月末時点で316店舗)が、櫻田の目標はパリのシャンゼリゼ通りへの出店だ。現在の出店先はアジアとオセアニアの8ヵ国、「モスバーガーはヨーロッパでは知られていない」(櫻田)。だから櫻田は密かにこんな光景を思い描いている。
「ルイ・ヴィトン本店があるシャンゼリゼ通りに、日の丸とフランスの三色旗とモスバーガーのフラッグを3本並べて掲げたら、素晴らしいと思う。日本人の心を世界に知らしめたい」
 個人的な夢と前置きにしつつも、すでに出店調査は始めており、近い将来にはヨーロッパ1号店として出店したいという。

TO PAGE TOP