1ヵ月の就労時間の7割を社員157人の面談に費やす

 リユース店のチェーン展開はフランチャイズ(FC)方式が多いなかで、東証マザーズ上場のトレジャー・ファクトリーが運営する『トレジャーファクトリー』の場合、全67店舗のうちFCは4店舗にすぎない。FCへの加盟希望は設立(1995年)初期から持ち込まれているが、あえてコストのかかる直営主体で運営しているのだ。

 

 同社社長、野坂英吾は「理念や運営の仕組みなどを深く理解してもらう必要があり、直営を主体にしている」と述べる。端的に言えばトレジャーファクトリーの店舗運営は、同社の人材育成システムそのものであり、だからこそ直営主体で展開しているのだ。

 

 この展開方式により、同社業績は着実に伸び続けている。2011年2月期に売上高63億4700万円、経常利益3億9600万円。12年2月期にはそれぞれ72億500万円、5億9400万円で推移した。13年2月期は売上高82億3100万円、経常利益6億1700万円をあげた。

 

 着実な伸びを支える人材育成について、野坂は「人に任せる風土と文化を大事にしている。それは、社員一人ひとりが考え、提案したことを会社が取り入れるということだ」と強調する。実際にどのように取り組んでいるのだろうか。

 

 通常、経営施策を考えるにあたっては他社との明確な差別化を追求するものだが、同社の方針は「ちょっとした違いを1000作ろう」(野坂)。ちょっとした差異の集合体が企業の本当の強さである。小さな改善を重ねることが現場の風土に根づけば、いろいろな局面に応用できて同社の強みになる。野坂はそう考えているのだ。

 

 その風土を醸成するうえで、創業以来、愚直に取り組んでいることがある。毎年5月と11月に行なう全社員との面談だ。

 

 かつては野坂が全社員を担当していたが、正社員が300人を超える所帯に拡大したため、現在は役員と手分けをして行なっている。それでも昨年11月、野坂は157人を面談した。所要時間は1人当たり30分から1時間で、野坂は11月の就労時間の7割を社員との面談に費やしたのだった。

 

 面談は現場の課題を発掘する場でもある。社員に業務の問題点や提案などを発言させるため、約8割の時間を社員に話させて野坂は聞き役に徹する。誰もが主体的に発言するとは限らないから、問われるのは質問の巧拙だ。野坂は一人ひとりの個性を踏まえ質問を用意し、ホンネの発言を引き出す一方、社員からの質問に対しては、その背景をしっかりくみ取り回答し、彼らの真意を探り出す。

 

 上場企業の社長で社員との会話にここまで時間を費やす例は、そうないだろう。相当な労力を伴うが、野坂は「そのぐらい力をかけて根本からやるほうが、課題を見つける近道になる」と確信する。しかも、実は自身が訓練されているのだという。「面談を通して聞き出す力が鍛えられた。私のコミュニケーションスキルは社員に鍛えられた(笑)」。

 

 もちろん面談そのものが本来の目的ではない。面談後には役員全員が結果を持ち寄り、6時間をかけて議論を戦わせる。そうして実行すべきテーマを抽出、すぐに実行すべきもの、時間をかけてもよいものなどに選別をするのだ。

 

 今年3月に開設した教育研修課は、面談で提案された組織である。同社は今年、関西に出店エリアを拡大するが、スピード感を持って研修に取り組むために先手を打って作った組織だ。

 

 

循環型人材育成システムで考える集団に育て上げる

 面談時の提案が具体的な形で導入されれば、当該の社員は、自ずと自ら考え、提案するようになっていく。その力を育成するのが、同社独自の循環型人材育成システム「トレジャーサイクル」の運用である。気づき力→組み立て力→すぐやる力→ともに働く力→振り返り力→形にする力→気づき力……のサイクルを回すのだ。

 いわばPDCAを細分化したような仕組みで、月次でサイクルを回し、各項目は人事評価の指標にも活用される。また、単なる作業の標準化のために利用されがちなマニュアルやPOSデータも、高度な業務に生かせるようになる。 野坂はこう説明する。

 

「システムを使うだけではPOSデータの3割程度しか活かせない。データを使いこなす人材がいてこそ、本来のシステムとして生きる。データから顧客のニーズを読み取って、戦略につなげることが大事だ。ニーズを感覚的にとらえるのでなく、数値化して背景を読み取る力を鍛えて、当社を考える集団に育てていく」

 

「考える集団へ」は、社員教育にも現れている。キモは教育できる社員を育成することだ。教わって覚えるだけでなく、教えることができて初めて人材育成の循環が形成されていく。これが、野坂の教育方針である。すでに店長教育や新入社員研修では、社内でプログラムを作成して社内の人材が教育・研修を担当している。

 

 さらに、研修を実施するタイミングもよく考えられている。研修の運営方針は、必要なときに必要な研修を実施する「ジャスト・イン・タイム」(野坂)。新入社員研修を例にとれば、入社時、3ヵ月目、6ヵ月目、1年目に実施している。3ヵ月目に教えるべきことを入社時に教えるよりも、3ヵ月の業務経験を積んでから教えたほうが「2~3割高い効果を得られる」(野坂)という。

 

 同社の成長を振り返ると、一気に多店舗化して業績が悪化した時期もあった。「乗り切れたのは人材の力」と野坂は総括する。関西への新規出店でも、現場からの課題発掘力と提案創出力をドライブに、新たな成長戦略を描いていく。

 

 

 

*『CEO社長情報』vol.07掲載

 

|プロフィール

野坂英吾(のさか・えいご)
1972年神奈川県生まれ。日本大学卒業。大学在学中にリサイクルビジネスの物件探しを開始。95年に開業資金30万円、150坪の倉庫で「トレジャーファクトリー足立舎人店」を開業。07年、東証マザーズ上場を果たす。