株式会社ALL CONNECT 岩井宏太

Guest Profile

岩井 宏太(いわい・こうた)

1982年5月21日生まれ、A型。 ●業種:Web販売代理業 ●設立:2005年4月 ●資本金:4700万円 ●売上高:09年2月期 12億5000万円 / 2010年2月期 20億円 /2011年2月期 26億7000万円 ●住所:福井市大和田町60-4-11 ●電話:0776-31-2100 ●URL:http://www.all-connect.jp/

特集どんなものでもネットで売ってしまう脅威の販売代理店 高成長の秘密は「意外なツール」

1.費用は一切請求しません、だって販売総代理店ですから

 その日、大学を出たての男は今か今かと電話とにらめっこをしていた。福井県内で会社を立ち上げたものの、半年経っても商売がうまくいくメドはまったく立っていなかった。インターネットの電話回線を販売していたのだが、すでに市場は飽和状態。新規参入しても売れない。悪いことは重なるもので、豪雪に見舞われ、営業に出かけることすら不可能になっていた。

  男は一縷の望みをかけて、インターネットで売ることを決意。自分でホームページを作り、電話番号まで掲載していたのだ。そのホームページが完成して、お客からの電話を待っていた。

 そこに、突然電話が鳴った。
 しばらくすると、その電話の数はどんどん増えていった。

 男の名前は岩井宏太。29歳。株式会社ALL CONNECT(以下、オールコネクト)の社長。業種はネットの販売代理業である。
 ネットの販売代理業というと、どんな商売をイメージするか。そのイメージはともかく、この分野で急成長しているのが同社である。四年前には売上高三億五〇〇〇万円だったのに対し、前期(一一年二月期)は約二七億円。それも震災の影響を被っての数字である。利益も億を超え、今期の予想は四〇億円という。

 さてふたたび、ネットの販売代理業とは何か。実は簡単な構造のビジネスである。A社の商品をA社に代わってネットを通じて販売する、ただそれだけのことだ。そんな会社はいっぱいありそうだが、オールコネクトの場合、他とはちょっと違う。

 ネットの世界では自社のサイトにどれだけお客を呼ぶかで売上げが決まってくる。それをアシストする会社も多い。たとえば、ホームページ制作会社。いいホームページを作れば、それだけ客は集まるし、モノも売れる。SEO会社はネットで検索した際に自社のホームページを上位に表示させる技術を提供する会社。これにより、さらにモノが売れる可能性は高まる。こうした会社はお客を集めた成果によって報酬を受け取る成果報酬型がトレンドだ。依頼主にとってリスクが少ない分、リーズナブルに感じてもらえるからである。もちろん、こういう会社は自分たちの技術でお客を引き寄せるわけで、自分でモノを売ることはしない。

 一方、オールコネクトはネットを利用するといっても、あくまで自分の力でモノを売る会社である。そこが違う。だから販売代理業。 

 たとえば、通信回線をネットで売る。光回線なら月六〇〇〇回線。ちなみにこれは大手家電量販店並みの実績である。なんとあのADSLだって月に一三〇〇回線ほど販売している。携帯電話もネットで売る。月に一三〇〇台程度。これは携帯ショップ二〇〜三〇店舗分に相当する。それだけではない。シロアリ駆除の大手企業、トイレのトラブル、地盤沈下のトラブルなどのサービスも実際の企業に代わって販売する。一度に多くの企業の商品やサービスをネットを通じて売りまくる。だから大きな成果を上げているのだ。

 そのために同社はどんな施策を打っているのか。ホームページを売れるように作り直す。客を呼び寄せるためにSEOやリスティング広告を打つ。こうしたさまざまな施策の費用はすべて自己負担。販売を依頼した企業にはこの種の請求を一切行なわない。売れた分のマージンをもらう完全成果報酬である。

 販売を依頼する企業にとって、これほど便利でリスクのない手段はない。オールコネクトが引き受けてくれさえすれば、後は放っておいてもモノが売れていく! 実際に実績が上がっているのは同社の売上高の推移を見れば明らかだろう。

 実はこの手法がなぜ成功したのかには、ちょっと秘密がある。それは冒頭の話にヒントがあるのだがそれは後に譲ろう。

 オールコネクト社長の岩井宏太が最初に「社長」に憧れたのは中学生のときだったという。しかし、その時に抱いた社長像は「偉くてラクそう」だった。実際にはそうでないことは、その後理解はしていたが、今度は第一線の厳しい世界だからこそ一勝負したいと思うようになった。人を率いて何かをやるのが好きで部活でも部長、目立ちたがりでもあった。もちろん金を稼ぐことにも興味があった。

 高校を卒業すると、実家のある岐阜を離れ福井の大学に通った。当然のごとくアルバイトに没頭。インターネット回線の取次代理店で働き、北陸地区一〇〇名くらいの営業のなかでナンバーワンとなった。
ひょっとしてこのまま会社を興したら、順風満帆でいくかもしれない。そう思っても無理はない。二〇〇五年に社員四人で会社を設立した。

「非常に安直に会社を立ち上げました」と岩井は述解するが、タイミングが悪かったのは冒頭の話の通り。その年の業績は売上げ七〇〇万円に対して四〇〇万円の赤字となった。福井地方を襲った豪雪にとどめを刺され、客先への訪問ができなくなったことが結果的には幸いした。インターネットで勝負するしかない。インターネットで直接売れば訪問しなくてもすむ。インターネットでの販売に切り替えたのはやむをえずの状況だったのだ。

 ここから同社の快進撃は始まるのだが、その秘密は、実は電話にあった。

「資金もないし、情報技術系の大学を出ているのでホームページは自分で作った」(岩井)が、ネットで売れるかどうか皆目見当がつかなかったので、得意のトークを活かせるように電話番号を大きく掲載したのである。

「ホームページを見て電話さえしてくれれば、もうこっちのものという感覚があった」と岩井は述解する。優秀な営業マンならではの思いだったのだ。

 面白いことに、これが功を奏した。電話がじゃんじゃんかかってきたのだ。最初に売ったのは冒頭に書いたように通信回線。当時これをネットで販売すること自体がほとんどなかったこともあり、トークを活かした販売で一気に売上げが伸びた。

「ネットから直接申し込む人と、電話をかけてきて申し込む人は半々くらいの比率」と岩井は説明する。とするとネットで注文を取っている多くの企業が半分のお客を失っているとも言えそうだが、同社の電話戦略は徹底している。

「実は、ネットで申し込まれたお客様にも電話でフォローをしている」(岩井)のだ。それにより信頼性も増すし、その電話でもう一つ商品を売ることも可能なのだという。実際パソコンを買ってくれたお客に四九八〇円のソフトをつけることをしたのだが、放っておけば一〇〇人のうち一〇人程度しか買ってもらえないのに、電話でフォローすると実に八五%のお客が購入してくれたのだそうだ。

 あらためて電話の威力を認識した岩井は、ここで自分の分身を多く作ろうとした。コールセンターの社員を増やしたのだ。現在同社の社員数一四〇人のうち八〇人がコールセンターにいる。重要な営業部門なのである。

 さて、同社には年間で数百社の依頼が舞い込んでいる。だが、そのほとんどを断らなければならないほど盛況なのだそうだ。となると、販売を引き受けるのは自ずと競争力のありそうな商品に絞られてくるから、ますます売上げが伸びていく構図である。

 では失敗したのはどんな商品だったのか。

「全部任せてもらえなかったものは売れませんでしたね」と岩井。つまり、同社で売る以外に他にも販売ルートがあり、しかも楽天ショップにまで出店している、といったような場合が失敗するパターンなのだそうだ。

「あくまでわれわれは販売総代理店なのです」(岩井)という言葉に同社の戦略が集約されている。

 そこで気になるのはその将来性である。一〇年後どれくらいの売上げになっているのだろうと問うと、岩井は即座に二兆円と答えた。その詳細は明かさなかったが、描いている絵があるそうだ。

「でもまあ、その通りに運んだ場合のことですから、コテコテの営業会社としてなら数千億円といったところでしょうか」

 なかなか頼もしい答えである。

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