株式会社日能研関東 小嶋 隆

Guest Profile

小嶋 隆(こじま・たかし)

1968年神奈川県横浜市生まれ。中学・高校・大学を成城学園に学ぶ。 大学卒業後、富士銀行勤務を経て株式会社日能研関東 取締役副社長に就任。 株式会社三和総合研究所に出向し、コンサルティング業務を担当。2006年6月、日能研関東代表取締役社長に就任、現在に至る。その後㈱ガウディア・私立学校奨学支援保険サービス㈱・㈱私学妙案研究所を設立し、いずれも代表を務める。日能研関東グループ各社の副社長も兼務。

特集「ほめて伸ばす教育」で子どもたちの真の力をつける

1.明るくテンションが高いときほど繋がりができていく

 いま、いくつもある全国規模の中学受験の学習塾のなかで、おそらく一番有名なのは“シカクいアタマをマルくする”のキャッチコピーでお馴染みの日能研だろう。日能研に通う子どもたちが背負う蛍光Nマークが縫い付けられた青いかばんを、都市部に住んでいて見たことがない人はあまりいないはずだ。

 日能研は全国に146教室あり、日能研、日能研関東、日能研東海、日能研関西、日能研九州の5社で管轄を分けて運営している。小嶋隆さんが社長を務める日能研関東は、隆さんの父上である小嶋勇・現会長が1967年に生徒3人の個人塾からスタートした。熱心な指導と、麻布、開成など超難関校の多数の合格実績がクチコミとなって生徒はどんどん増えていった。73年に「日吉能率進学教室」として法人化、95年に「日能研関東」に改称。創立45年で、神奈川、東京、埼玉に41校を持つ大手塾に成長させた。

 隆さんは大学卒業後、富士銀行(現・みずほ銀行)に4年間勤め、96年に日能研関東に入社、2006年に社長に就任された。私が隆さんに初めて会ったのは8年ほど前。あるゴルフコンペで、たまたま帰り道に隆さんの車に乗せてもらったのである。その日はとんでもなく寒い日なのに私は相変わらずの薄着だった。沿線の駅に送ってもらった際に、あまりにも風が強く寒かったので、思い切って「小嶋さんのフリースを貸していただけませんか。クリーニングしてお返ししますので」と言ったら、「いいよ、あげる。持っていきなよ」と言う。なんて格好いい人だと思った。その後僕がお礼にと食事に誘わせていただき、それが縁で付き合いが始まった。

 僕は隆さんを尊敬している。日能研関東を一から築き上げた、いわば“中学受験のカリスマ”から社長を受け継いだわけだが、その地位に安住し、ただ現状維持の経営をしようなどとは思っていないからだ。少子化と長引く不況で中学受験市場全体が縮小するなかで生き残っていくために、徹底した現場主義で子どもたちのことを第一に考え(これは父上譲りだと思う)、いろんなアイデアで社員のやる気を鼓舞し、さらには私学妙案研究所という会社を作り、いろんな学校や塾の関係者を巻き込んで私立中高一貫校に子どもを呼びこむためのPR活動を始めるなど、常にチャレンジをしている。

「何事にも心がけが大事です。たとえば僕は父(会長)と意見が衝突したとき、たとえどんなに『間違っている』と思っても、第三者がいたら絶対に口答えはしない。あとで二人の時間を作って進言する。そうでないと組織がおかしくなる。また僕は誰に会うときでも、元気でポジティブでいることを心がけている。なぜなら明るく元気でポジティブな人と、暗くて元気がなくネガティブな人と、単純に、どちらに会いたいでしょう。僕は誰にでも、会いたいと思われる人物でありたいので、意識して心がけている」

 確かに僕もいろんな人と人脈を作るために、いつも元気でいようと心がけている。自分が明るく元気な時ほど、人のつながりができていくからだ。

2.叱るときはものに残さない。ほめるときはものに残す

 日能研の教育の基本は、褒めて伸ばすことだ。その基本は、社員の士気を高めるためにも利用されている。その一つが「今週のいいね!」だ。日能研関東には関連会社が4社あるが、各社、例えば「冬期講習の生徒が何%増えた」「新規開講が決まった」など、一週間の間で何かいい結果が出たりいい働きをしたことなどを紙に書いて、すべての事業所に向けてFAXで一斉送信する。それを各社が壁に貼り出すのだ。

「組織では、目標を達成できなかったとか、数字が下がったとか、悪い話はすぐに聞こえてきます。でもこれは逆で、いいことをみつけて褒めよう、それを共有しようと。いいことの見える化です。叱るときはものに残さない。褒めるときはものに残す。それがモチベーションにつながるんです」

 この考えは子どもの能力を伸ばすのと同じだ。

「一番良くないのは兄弟や友達と比べること。比べるならパパと比べればいい。父親が一緒に問題を説いて、わざと負けてもいいから、『お前計算早くなったな』とか、『お前よく覚えているな』とか。すごく子どものテンションが上がるんですよ。

 僕たちの使命は受験を成功させること。そのために子どものテンションを上げることです。ただし僕たちの思いとしては、彼らが中学に合格して終わりじゃない。その子が最終的には立派な人物に成長する。そのベースを作っていきたいという思いが強くありますね」

 そのために最も重要なのはコミュニケーション力。いま、企業で最も求められていて、いまの若者世代に最も足りないと言われているものだ。

「先日うちの卒業生で中高一貫校を卒業してハーバード大学に入った生徒が『ハーバードには世界中のいろんな国から優秀な人が集まってる。そこにいて、ただ英語がうまくても話にならない。たとえば、この日本の湯呑ってどういうもの? って聞かれて何も答えられなければ相手にされないんだ』と話していた。それに答えるには知識ももちろん重要ですが、コミュニケーション力がなければ国際社会では通用しません。

 しかしいま日本の子どもは、家庭でも家庭の外でも、コミュニケーションそのものが減っている。昔の家は、おじいちゃん、おばあちゃんから弟、妹までという家族があった。だがいまは、パパ、ママ、僕の3人しかいない。昔は親から怒られたらおばあちゃんやお兄ちゃんに甘えるという斜めの関係があったけど、いまの子は家庭内に上下の関係しかない。昔は友達に電話をすると向こうの両親や兄弟に取り次いでもらいましたが、いまは1人1台携帯電話を持っていて、直接つながってしまう。

 それに加えいま、親の要求値や自己満足が凄く高くなっていますね。塾に来て、『学校でも1クラス20人なのに、塾で1クラス30人は多すぎる。ましてうちの子は内気だから、個別に面倒を見てほしい』と個別指導に行く。どんどんコミュニケーションから遠ざかっていく。僕は政府が言っている小学校のクラスの人数を減らすというのは大反対。集団で一番良いことは、自分はこういう答えを持っているけど、あいつはこういう考え方をするんだと、考えを深めていくことなんです。うちも個別指導はありますが、それは苦手科目を克服するためのフォローとして利用するため。

 いま、国際化とかリーダーシップという言葉が一人歩きしているが、国際化とは英語が喋れることではない。リーダーシップとは強く自己主張して威張ることじゃない。他者とどうコミュニケーションをとり、周囲の信頼を得ながらリーダーとして存在するか。そういう環境下になくては、真の国際人もリーダーも生まれない」と隆さんは言う。

 そのことを保護者説明会などで一生懸命親御さんたちに訴えかけて、子どもたちが国際社会で活躍できるような真の力を伸ばす環境を作ろうと、獅子奮迅している。こういう人がいる限り、日本の未来も心配に値しないと思うのだ。

 小嶋さんのような現場を知り尽くしている人が政治家になり、日本の教育を変えていってもらいたいとも思った。

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